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コラム

think drive (30)  『 クルマの排気量について考える 』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

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第 30 回 『クルマの排気量について考える』

プリウスがモデルチェンジを行い新型が発売されたが、旧型も継続販売するという。そして、その理由には「排気量」があるという。
そこで、今月は今一度クルマ(エンジン)の「排気量」について考えてみる。

【技術的要素】

技術的に排気量とはエンジンにとって人間でいう肺活量のようなものだが、クルマのスペックを語る上で、車両重量などと並び、基本的項目の一つと捉えられている。どうしても人間は優劣を付けたり序列を付けたがるからなのか、その代表的な要素となっている。価格、大きさとならんで分かりやすいからかもしれない。そもそも排気量はクルマの出力に大きな影響を及ぼす。 ちなみに、ドライバーがクルマに要求する出力というものは刻一刻と変化していて、一定要求であることはほとんどないといってよい。
さらに、例えば最大出力 280馬力(206kW)のクルマの最大出力など、クルマの一生涯でどれだけ使われているだろうか?というくらい頻度は低い。乱暴な言い方だが日本国内での一般的な用途では 100kW あれば十分ではないだろうか?と個人的には感じている。

【排気量と余裕力】

さて、その出力に排気量は関係し、クルマの乗りやすさにつながる事は否定しない。それどころか、排気量=乗りやすさ、であったのも事実だ。エンジンの出力は運動エネルギーを軸の回転出力として取り出される。出力が欲しいときを考えてみよう。ドライバーが出力を要求するときの一例に、一定速度からの加速がある。エンジンがある回転(たいていは低回転)で回っているとき、どれだけ余裕力があるか、つまり、その回転数付近で大きな出力が得られると思い通りの加速が得られる。
そこで有利なのが大排気量エンジンになる。しかしそれは自然吸気エンジンに限った話だ。
先に”排気量=乗りやすさ、であった”と過去形にしたのも、1970年代頃までは自然吸気エンジンが圧倒的多数だったからだ。

【過給器やハイブリッド】

大排気量と同じように、低回転域で高い出力が得られる手法に過給器付きエンジンがある。いちど本コラムで書いたことのある VW TSI の登場などはまだ記憶に新しい。もっとも、80年代にもターボ付きエンジンが一世風靡した時期もあるが、少しコンセプトが異なっていたので、TSI を例に挙げる。
過給器がつけば実質的な排気量はスペック以上になるが、ベースの大きさは変わらないので大きい事による効率悪化には結びつかない。そして同様な機能として、ハイブリッド車もあげられる。電気モーターという低回転での出力を得意とする助っ人のお陰で、搭載されるエンジン排気量スペックから想像される以上の加速フィーリングが得られる。こうなると、自然吸気式エンジンしか存在しなかった頃に確立された、「排気量=パワフルさの指標」という構図が崩れてくる。それに伴って、排気量ヒエラルキーもナンセンスなものとなる。

【排気量神話】

ところで、冒頭に書いたように旧型プリウスがプリウス EX として、継続販売される。ターゲットユーザーを法人に絞り、装備も簡素化、選べるボディーカラーも少ないという。このように価格を抑え法人の厳しいコスト意識に対応するのが主な理由なのかと思ったが、どうやら、他にも理由があるという。 それが、”排気量”なのだとか。法人ユーザーにはどうも 1.5L という壁が存在し、それ以下に需要が多いとの事。新型プリウスは 1.7L、 旧型は 1.5L、それがもう一つの理由だ。ハイブリッドシステムは単純にエンジンとモーターを組み合わせればできるというものではなく、複雑に絡みあう駆動力制御を適合して始めて成り立つ。なので、同一車種で排気量を 2 種類用意するなどということは、とうてい考えられない。そこで、旧型を継続販売するに至ったのだろう。ちなみに、プリウスのエンジンは効率向上を狙ってアトキンソンサイクルが採用されているが、このアトキンソンサイクルというのは事実上の排気量はスペックの排気量より小さくなる。このように、先の過給の例もふくめ、既にそれほど意味を成していない(と筆者は感じている)排気量というスペックに対して、根強いこだわりがまだあるようだ。

【自動車税】

さて、今月 5日が世界環境デーだからなのか、堰を切ったように富士重工業、三菱自動車から電気自動車 (EV) が正式発表された。三菱自動車の iMiEV は来年 4月から一般ユーザーへの販売も開始するという。一気にクルマの概念が変わりそうで、とても楽しみだ。その概念変化のひとつに、未だ強い排気量ヒエラルキーに対する社会意識がどのように推移するかも興味深い。
そもそも電気自動車に排気量というスペックは存在しない。では何にかわるのだろうか?現在の状況から考えると、一番移行しやすいのは CO2 排出量ではないだろうか?その場合、走行時の排出分だけでよいのだろうか?という疑問点は残るにしても、時代に相応しいと思う。
先月から、自動車取得税、重量税、自動車税などへの減税優遇制度も始まり、事実上、環境性能と税優遇の関係も現れてきている。いずれにしても、クルマに関わる税金の多さ、複雑さを、そろそろ、ユーザーや国民が理解し納得出来る税体系に抜本的にかえてもらいたいものだ。

話は少しそれたが、税制面も含め、クルマを語る時に ”排気量 ”って何だっけ?という時代はもうすぐ来るのかもしれない。

<長沼 要>

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