今更聞けない財務用語シリーズ(38)『役員退職慰労金』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第38回の今回は、役員退職慰労金についてです。

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今回は、昨今、株主総会時に話題となる役員退職慰労金について考えていきたい。

役員退職慰労金とは、役員の退職金と考えると解り易い。役員は従業員ではなく、企業から経営を委託されているだけであり、会社とは雇用関係はなく、退職金が無い。よって役員退職慰労金としてその在籍期間や職位に応じて、退職金のような形でその在籍期間の貢献度に対して支払ってきた。役員退職慰労金は一般的に「退職時月額報酬×在任年数×功績倍率」で計算され、また慰労金を支払う際に、慰労金に加え、功労加算金を支払うケースもある。また、役員は役員賞与が税務上損金とならない(税務上費用とはならない経費)である為、賞与ではなく、賞与の後払い的な位置付けとして退職慰労金を支払うケースもある。

通常、役員退職慰労金の支給について株主総会での決議事項とされており、株主の了解を得なければ払えないこととなっている。

では、役員退職金のメリット、デメリットを以下のように整理してみる。

◆デメリット
1.役位、在任期間ベースで業績など成果に対して連動し難い。
2.役員へ支払う報酬・賞与の総額に占める割合が多く、株主などのステークホルダーから金額の開示を強く求められている。
3.社員の報酬が年俸制や業績連動賞与、確定拠出年金で成果主義に移行しており、役員退職慰労金が役員の特権化している。

◆メリット
1.税制面のメリットがある。
2.役員の長期の貢献に対してのインセンティブとしての効果が期待できる。

昨今の流れとしては、この役員退職慰労金を廃止する流れにある。年功的要素の強い役員退職慰労金を廃止し、成果主義的報酬制度に一本化し、株主に向けて経営陣の業績評価に対する報酬を明確にするためという理由で業績連動型の報酬に移行している企業が多いのである。役員への報酬額の開示が進む中で年功序列が時代遅れ的な意味合いもあるようで、特にこの2~3年の間に廃止している企業が目立つ。

一方、自動車業界でも今年の株主総会でトヨタとスズキが役員退職慰労金を廃止する方針を打ち出している。

トヨタは役員退職慰労金を廃止して、相当額を役員報酬に織り込むとしている。一旦取締役 26 名に役員退職慰労金を支払い精算する。また、これに合わせ、取締役の報酬の上限を 1 億 3 千万円から 2 億円に引き上げる。

スズキも役員退職慰労金を廃止、合わせ、執行役員制度を導入し、取締役の数を減らし、意思決定のスピードを早める体制にしている。

トヨタもスズキも役員報酬の開示の体制整備の一環、もしくはそのインセンティブ・役割を見直す為に役員退職慰労金制度を廃止しているものと思われる。
世の中の動きとしても今後は、ますます取締役の報酬の開示についての要求が更に強まるだろう。自動車業界も多くのステークホルダーから開示を迫られるかもしれない。しかし、本当に役員退職慰労金は不要であり、廃止すべきものなのだろうか?

退職慰労金の制度が現状の役位、在籍期間に連動してしまっていることで身動きが取れなくなってしまっていることも考えられる。業績連動賞与も含めた報酬と慰労金をリンクさせることによって業績連動色を打ち出す、後払いによる税メリットを享受させ、そのメリットを定量化することで透明感を打ち出す、経営上の失策などがあれば不支給にすることで納得感を打ち出すなど工夫をすれば、十分に活用できるはずである。

また、筆者が以前、役員報酬について解説しているが、(https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/4290.html)役員の貢献の累積についてのインセンティブとしての役割があることについて触れている。この長期の貢献に対しての固定的なインセンティブとして効果を考えた場合でも就任から退職時までの間と長期と言いながら期間は限定される。株主としては、短期的な利益だけでなく、長期的な視野に基づく経営上の施策を行って欲しいと考えている。そこで役員退職慰労金を年金のような形で支払うことはできないだろうか。
退職までに成果を出せば良い、と短期的な成果を追い求める傾向にある経営陣に対して、変動型の年金をインセンティブとして設定するのである。これを短期の成果に対してのインセンティブである業績連動型の報酬などと組み合わせることにより、短期的な収益獲得と役員が退任した後をも含むより長期的な経営の実践を行うインセンティブが働き、結果として、よりバランスのとれた成果が期待できるだろう。

このような制度を採用するには未だ商法や税法などの詳細を検討する必要があるはずだが、法律は時代の流れについてくる。企業は様々なインセンティブ制度を検討し、法曹界にその声を届かせて欲しい。

<篠崎 暁>