今更聞けない財務用語シリーズ(33)『適時開示』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第33回の今回は、適時開示についてです。

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最近、「企業が業績を下方修正した・上方修正した」という記事が散見される。これは企業が勝手に公表しているのではなく、ある規則に沿って公表しているものなのだ。企業がこの規則に従って事態の報告をすることを「適時開示」という。以下は東証のルールをもとに解説していくこととする。

この規則は、「適時開示規則」と言い、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営または業績等に関する公表することを義務付けている。重要な会社情報が生じた場合に、直ちに「適時開示規則」にのっとった適切な公表措置をとること(TDnet への開示等)が必要となるのである。

では、どのような場合に適時開示が必要なのであろうか。適時開示が必要な事態は、大きく 4 つの区分にわけられる。又、この事態となってもその会社にとって重要な事態でなければ適時開示をする必要は無い。この重要性は個別の事象毎に金額基準が設けられており、その金額基準を満たした事態について適時開示を行うのである。

1.上場有価証券に関する権利等に係る重要な事項についての決議又は決定の情報 (決定事項に関する情報)
(例 : 新株発行、株式交換、合併、自己株式の取得等)

2.経営に重大な影響を与える事実の発生に係る情報(発生事項に関する情報)
(例 : 主要株主の異動、子会社の移動、主要取引先との取引停止等)

3.重要な会社情報として認められる決算情報 (決算に関する情報)
(例 : 決算内容、業績予想の修正等、配当予想の修正等)

4.その他
(四半期開示に関する事項、事業の現状、今後の展開及び事業計画の改善等)

冒頭で述べた決算に関する下方修正や上方修正は 3.決算に関する上方の業績予想の修正に該当するのである。業績予想の修正は売上高で 10 %、経常利益、当期利益で 30 %の増減があった場合は重要性が高いと判断され、適時開示が必要となるのである。

このような適時開示は自動車業界でも頻繁にされており、2月 27日では、アップルインターナショナルの業務提携協議中断の適時開示が行われている。これは、上記 2.経営に重大な影響を与える事実の発生に係る情報に区分される為である。

適宜開示は、企業の経営に影響を与える事態を報告する為、当然、投資家の投資判断に影響を与える。つまり、企業の価値が増大するような開示内容であれば、投資家の投資判断に良い影響を与える為、投資家は株式を買い、結果として株価は上昇する。一方、企業の価値が下落する内容であれば、投資家は株式を売却し、株価も下落するはずである。
しかし、実際の株価はそのような動きを必ずしもしない。これは発表した時点より以前に企業が 行ったIR 活動などをもとにアナリストなどが企業の今後の状況を予測している為である。開示内容が想定の範囲内であれば開示した時点ではそれほど株価に影響を及ぼさない。

逆にアナリストや投資家に事前に IR 活動を十分に行わずに適宜開示を行うとその開示した情報は驚きを与えることになり、株価が過敏に動くことになってしまう。この結果、株価が市場全体の変動幅と比較し、大きな動きをすることで、長期に保有する株主が確保できず、敵対的買収をされる可能性を高めたり、資本コストが高くなるなどのデメリットが多くなってしまうのである。

よって、適時開示はルール通りすれば良いというものではなく、日頃の IR 活動と密接に関連するものなのである。IR 活動で常に情報を更新し、企業のビジョンや戦略、外部環境の変化に対しての対応などを発信することで、仮にネガティブな事態が起こったとしてもその影響を軽微にすることが可能になるのだ。

経営者のマインドだけでなく、現場の情報がタイムリーに経営者の耳に入るような社内でのコミュニケーションの円滑さなど企業としての総合力が問われることになるので経営者、従業員は IR というものに対しての認識を深める必要が今後より一層必要になるだろう。

<篠崎 暁>