今更聞けない財務用語シリーズ(26)『普通社債』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第 26 回の今回は、普通社債についてです。

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社債は会社が発行する債券であり、通常企業は資金調達を行う為にこれを発行する。社債は「事業債」とも呼ばれ、大きく普通社債と新株予約権付社債の 2 種類に分類される。第 21 回の筆者のコラムで、転換社債については既に書いているので、

https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3246.html

今回は株式に転換のできない普通社債について掘り下げてみたい。

社債は担保の有無によって、「担保付社債」と「無担保付社債」に分類され、現在発行されている社債は「無担保付社債」が主流となっている。また、普通社債は電力会社が発行する電力債と、その他の会社が発行する一般事業債に区分される。

では、どの企業でも社債を発行し、資金を調達することができるのだろうか。
答えは「Yes」であるが、現実的に所謂不特定多数からの資金調達を実施しようとした場合は「No」となることがある。不特定多数から資金調達を行う場合の社債を公募債という。

公募債は格付け会社によって格付けされる。格付けとは社債の元本と利息が約束通りに支払われる確実性、財務的安全性をランク付けしたものである。この時点で財務の状態が良くない、もしくは将来悪くなるであろう企業は社債による資金調達のコストが高くなる(利息を高くする)、若しくは引受元を期待出来ないことにより、資金調達が難しくなるのだ。

格付けと言えば自動車業界ではトヨタ自動車が発行する社債は、日本の国債よりも格付けが高い。ムーディーズの格付けによれば発行体としてのトヨタの格付けは「Aaa」、日本の発行体としての格付けは「A2」である。現在好調と言われる自動車業界において前述したトヨタをはじめ、大手各社は非常に良い条件で社債を発行することができるのだ。

格付け会社は自動車業界の専門知識がある訳ではない。その業界外の企業に自動車業界の方向性、自社の強みとその方向性、現在行っている施策、足元の業績、今後の計画などを解り易く説明し、理解を得る必要があるのだ。

いすゞ自動車が普通社債を発行した例をとってみる。(9月5日のニュース&コラム掲載記事)

いすゞ自動車は、9月に普通社債(公募債)を 200 億円発行する。1999年 12月の社債発行以来、5年 9 ヶ月ぶりの公募債市場への復帰となる。格付けは日本格付研究所の「BBB-」を取得している。期間は 5年で表面利率は 1.24 %となっている。いすゞ自動車はこの資金を関連販売会社への投融資に充当するとしている。

いすゞ自動車は 2000年から 2002年にかけて経営危機に陥り、格付けも「BBB-」から「BB」へと投機的等級に引き下げられ、社債による資金調達の道が閉ざされていたのだ。ところが、3 ヵ年計画を順調に遂行し、有利子負債も削減できたことが評価され、今回格付けを取得、社債を発行できるだけの信用力を得たのだ。このことが評価され、株価も好調である。

いすゞ自動車はこのように、一度は経営危機に陥っても、事業計画を立案、遂行することで業界外の格付け機関の理解を得て、社債による資金調達という手段を得ることに成功したのだ。

裾野が広い自動車業界の中でも収益規模の大きい自動車メーカーでさえ、資金というリソースを業界外から調達する必要があるのだ。いすゞ自動車のように経営危機になれば尚更である。この時に自動車業界外の人に向け、経営という切り口から如何に事業展望を説明するか。自動車業界外から自動車業界はどのように見られているか、どのように自社を説明すると解りやすいか、を経営者は考える必要がある。

業界外に求めるものは資金だけではなく、今後は人材や技術など様々なリソースを求めることになるかもしれない。この時に備え、経営の翻訳機能を磨く必要があるのだ。

<篠崎 暁>