今更聞けない財務用語シリーズ(23)『減資』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第 23 回の今回は、減資についてです。

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減資とは言葉の通り「資本金」を減らすことである。資本金とは株主が払い込んだ現預金などのことであり、通常の取引を行っている場合では、増えることはあっても減らす意味がわからないという読者も多いだろう。なぜ、資本金を減らさなければいけないのだろうか。
大きくわけて、2 つの場合に減資を行っているケースが多い。

1.企業が株主への還元を利益配当ではなく、資本金を減らすことで行う必要 がある場合。

2.会社の経営状態がおもわしくなく、多額の損失を被っている場合。

上記 1 は今までのコラムで何度も記載している自己株式を買い取り、消却する手法で行われるものであり、この自己株式の買取、消却で行う減資の事を「有償減資」と言う。
通常は潜在株主から優先株式を買い取り潜在株主数を削減し、株価向上を狙う場合や、ベンチャー企業が上場できないが収益をあげている場合に株主への利益還元として行われる場合が多い。

一方、上記 2 の場合は、企業が多額の損失を被っているケースである。この損失を回復しなければ利益配当ができない為、損失を穴埋めする必要がある。事業収益だけで穴埋めをすると時間が掛かってしまう為、「資本金」を取崩し、「剰余金(今までに被った損失の合計額)」に充当することで、剰余金のマイナスを消し、業績が回復次第、配当ができるようにするのだ。この「資本金」を「剰余金」に充当する方法を「無償減資」と言い、通常は株式併合(10 株を 1 株に併合する)などの手法を用いて行われる。

以下は無償減資の例である。通常、無償減資だけを行うケースは少なく、増資を伴うケースが多いので減増資を例にとった。

1.会社にまず 100 払込んだが、初期費用がかさんだあげく、売上も伸びず、損失が 50 発生した。つまり、この場合資本金 100、剰余金△50 となっている。

2.この時に経営陣、株主は事業の起動修正を図る為に、同業種の別企業に資本参加をしてもらうことにした。しかし、その企業はすぐに配当ができるようにすることと、66% 以上の出資比率を獲得することを条件とした。

3.よって既存株主と経営陣は、100 の資本金を 50 に圧縮する(2 株を 1 株 にする)株式併合の形をとり、取り崩した資本金 50 を剰余金に充当し、 減資後の資本の部は「資本金 50」、「剰余金 0」になるようにした。

4.この状態の企業に新規株主となる企業が 100 の現金を払い込み、経営陣を 送り込むことで当該事業の起動修正を図るようにした。

無償減資は既存株主は出資比率を下げることで、経営責任を取る行為とも言われる。具体的には、既存株主が経営を委託していた経営陣が経営責任を負うかたちで退任することになる為、結果として経営を委託した株主が責任をとることになる。
たしかに経営権を第三者に渡し、委託した経営者が退任にするのだから経営責任をとったように思われるが、本当の意味での経営責任を取るという意味では委託した経営者だけが退任するのではなく、100 %減資(自分が持っている株式を放棄する)をすることがはじめて経営責任をとったと言えるのだろう。

では、自動車業界では減資がどのような場合行われているのだろうか。
いすゞ自動車は2004年12月の臨時株主総会で有償減資と無償減資の双方を組み合わせる形で減資の決議をしている。

有償減資は、優先株式を保有している株主から買取消却することで資本金を600 億円減少させている。

一方、無償減資は、資本準備金を500億円を剰余金に充当することを目的として行われている。

この減資によっていすゞ自動車は、繰越損失を 500 億円圧縮し、配当可能な状態にすることと、潜在株式数を減らすことで既存株主の希薄化リスクを低減させている。

前々回の筆者のコラム (URLは以下)でもいすゞ自動車の資本政策について触
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3246.html
れているが、積極的に潜在株式数の削減と資本の増強に取り組んでいることがうかがえる。

減資を検討する時は会社の業績が芳しくない場合が多く、経営責任を取ると言われるなどネガティブなイメージがつきまとう。企業を存続させる為には痛みが伴うことを承知しながらステークホルダーである株主や投資家、債権者のメリットを最大限にすることを減資の際には考える必要があるだろう。しかし、あくまで資本政策の一環なのだ。柔軟に検討することが必要である。

柔軟に検討する為には、予め選択肢を持つことが必要であり、経営者は選択肢を把握する必要がある。但し、昨日の選択肢は今日の選択肢とは限らない。ルール知識と言っても法律や会計のルールは変化し続けている。商法は来年改正商法が施行されるとおり、取締役の権限が拡大されるなど大幅な改正となる。減資も手続きを機動的に行えるよう配慮されているなど、注目すべき点が多い。マネジメント知識として商法はこれから必須になるだろう。

<篠崎 暁>