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コラム

自動車業界とXX業界 第4回『自動車業界と鉄道業界』

自動車業界と××業界を比較し、製品、業界間の関連性や類似点・相違点から自動車業界への示唆を探るこのコラム。弊社副社長の秋山喬とアビームコンサルティング経営戦略事業部シニアコンサルタント山田将生の共同執筆です。

第 4 回の今回は、「自動車業界と鉄道業界」です。

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【はじめに】
第 4 回目となったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業界とを比較し、製品、業界間の関連性や製品特性、業界特性等に関する類似点・相違点を把握。最終的には他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするものである。

第 4 回の今回は鉄道業界との比較である。といっても、電車とバスの特性比較といったことでなく、利用者に対し、パーソナルな移動手段を自動車というハードウェアの販売を通じて提供する自動車業界と、公共性の高い移動手段を輸送サービスを通じて提供する鉄道業界の比較ということにしたいと思う。
いわば鉄道業界は公共輸送機関の代表としての位置づけである。

バスに関しては自動車メーカーが製造、販売するものの、そのバスを運行して公共性の高い移動手段を利用者に提供するのは、自動車業界の企業というよりもむしろ鉄道業界の企業のほうが多い。その意味では今回のすみわけでは両業界の境目ということになろう。

また、鉄道業界は JR 各社 とその他私鉄に大別されるが、今回は阪急、東急など大手私鉄に注目してみたい。

これら大手私鉄は鉄道、バス、タクシーといった運輸事業と不動産開発、商業・レジャー施設開発といったその他事業とのシナジーを最大化するというモデルを通じて、利用者に単純に移動手段を提供するだけでなく魅力ある生活地域を提供することを目指してきた。言い換えれば、自社の鉄道を利用したくなる環境を整備してきたのである。

このように公共輸送機関の代表としての鉄道業界との比較、中でも利用者に魅力ある鉄道利用環境を提供することに注力してきた大手私鉄に着目するのも、今後、自動車メーカーが単に自動車というハードウェアを販売するだけでなく、より良いクルマ社会、交通社会の実現に影響力を行使し、主導する立場になってきていると思うからである。今回のコラムでそのための示唆が得られればと考える。

【製品、業界間の関連性】
一見するとあまり接点のないように見える両業界であるが、我々がどこか目的地を目指す際に自動車で行くか、電車で行くかを迷うように、利用者の側からすると両者は移動手段、輸送手段としてライバル、代替手段の関係にある。

また、単純にどこか目的地へ行く場合のみにとどまらず、利用者の生活、ライフスタイルの中でどちらかが選択される場合も多い。例えば、都市部においては移動には電車をはじめとする公共輸送機関を利用すれば不自由を感じないため自動車は保有しないという選択や、郊外においては、もはや一人に一台自動車がないと生活が不便なため、必要に迫られる形で自動車を保有する、などが挙げられる。

このように利用者の多くが迫られる選択はパーソナルな移動手段である自動車?
それとも、公共輸送機関、そしてその代表である電車?というものになるだろう。

両者はそれぞれメリット、デメリットが存在するわけだが、単純にどちらかがどちらかに代替されるだけの関係ではなく、お互いのデメリットを補完するケースも見られる。一般消費者向けと事業者向けでそれぞれ代表的な取り組みを挙げてみた。

「一般消費者向け」
JR 東日本が提供するサービスに「トレン太君」が存在する。これは電車の乗車券と駅レンタカーの利用をセットにして利用者に提供するサービスである。目的の駅までは電車で行き、そこからはレンタカーを借りて自由にドライブすることが可能になる。

また、JR 北海道が試験運転をしているものに「デュアル・モード・ビークル(DMV)」が存在する。これはいわば線路も道路も走れる車両というものである。鉄道やバスの赤字廃線が進む中、自家用車を運転することが現実的ではない高齢者に対して新しい輸送サービスを提供するということが開発の背景にあるとのことである。

前者は異なるハードウェアがもたらす便益をセットにしたものであり、後者はひとつのハードウェアに二つの異なる便益を盛り込んだという違いはあるものの、どちらも自動車、電車が持つ特性を相互補完するという考え方に基づいている。

「事業者向け」
昨今、貨物輸送において「モーダルシフト」という言葉がよく聞かれる。これは幹線貨物輸送をトラック一辺倒から、大量輸送機関である鉄道または海運へ転換し、トラックとの複合一貫輸送を推進することをいい、エネルギー保全、環境保全、コストダウンなどの効果が見込まれる。主に環境意識の高まりがその背景にある。

これも一般消費者向け同様、自動車、電車が持つ特性を相互補完するという考え方に基づいているといえるだろう。

このようにそれぞれの移動手段が持つ特性、便益を組み合わせて利用するというのは、利用者の立場からすると日常的なことであるが、事業者の側からするとどうであろうか、より交通社会を実現するために事業者側でもトータルで交通というものを考える時期に来ているものと思われる。

【製品特性、業界特性の類似点・相違点】
ここでは製品特性、業界特性の類似点、相違点として考えられる代表的なものを挙げてみることにする。

「類似点」
<取り組みテーマの類似性>
同じ輸送用機器を扱う業界ということで業界の取り組みテーマにも安全、快適、環境というように類似性が見られる。

環境の観点では、自動車業界と同じように、鉄道業界でもハイブリッド車両の開発が進んでおり、実用化はされていないものの、JR 東日本では世界初のハイブリッド鉄道車両「NE トレイン(New Energy Train)」を開発した。現在のNE トレインはハイブリッド車両であるが、将来的には燃料電池などの新エネルギーを搭載することも視野に入れているという。

このように取り組みテーマは似ていても、その取り組みの巧みさが企業業績にどの程度反映するかという観点では多少の違いがある。自動車業界の場合、品質問題が他社への乗り換えに直結するが、鉄道業界の場合、公共性が高く住民の生活と密接に関わっているため、その路線に乗らざるを得ないという側面が存在するからである。

ただし、それに胡坐をかいてはいけないということは言うまでもなく、先日起こった列車脱線事故などは二度と繰り返してはならないものである。

「相違点」
<物品販売とサービス業の違い>
まず、乱暴に言うと自動車業界は物品販売業であり、鉄道業界はサービス業であるという大きな違いが存在する。目的地まで安全、快適に移動したいという利用者のニーズに対し、前者は自動車というハードウェアを販売し、後者は輸送機関を運営し、輸送サービスを提供する。

そして前者の場合、利用者は自動車というハードウェアに対して代金を支払うのに対し、後者の場合は輸送サービスに対して利用都度、利用した分の料金を支払う形となる。

そもそもパーソナルな移動手段と公共性の高い移動手段というように利用者に提供しようとするものが違うため、このように業態も異なっているわけであるが、それにより収益面に与える影響も異ってくる。

鉄道業界の場合はあくまで輸送サービスを提供しているため、利用者はその実利的なメリットに着目し、きわめて合理的に利用するかしないかを判断する。つまり、その路線が移動に便利、必要であれば利用するし、そうでなければ利用しない。

一方で、自動車の場合はその購買動機が単純に移動手段の確保だけには留まらない。移動が如何に快適に行われるかだけでなく、そのファッション性やブランド、所有することによるステータス等も購買動機にはおおいに関係する。

つまり、自動車のほうが利用者、消費者に対し訴求できる点、競争の焦点が多様なわけである。鉄道の場合は主に移動手段として如何に優れているかという土俵で競争が行われることになる。(もちろん、鉄道好きな方はそれ以外の理由でも利用する。)

そして、それに対し単純に輸送サービスとしての質を向上させるだけでなく、不動産分譲による人口集積や購買・レジャー施設等の建設・誘致等でその路線(移動手段)の魅力向上を図ったのが阪急、東急等の大手私鉄である。

自動車業界においても、このように自動車を利用しやすい、利用したくなる環境を意図的に作り出すことによって、利用者の利便性向上、そして企業の収益増につなげるという方向性は存在するだろう。

<利用者が受ける便益、収益モデルの違い>
時間が読めない、運転自体がそれほど得意ではないといった意見もあるが、基本的には公共機関での移動よりも、パーソナルな自動車での移動に快適性をを感じる人が多いのではないか。

それはパーソナルな移動手段のほうが身内だけの空間であるため自由であり、公共性の高い移動手段のほうが皆のための空間であるため不自由であるということである。

ただし、その自動車の便益を得るためには、前述したように、利用者から見て一括にせよ、割賦にせよ車両自体の代金を支払うことが必要となる。電車であれば利用の都度、利用料金を支払えばよい。

(もちろん自動車というパーソナルな移動手段を利用するためには、所有が絶対というわけではない。レンタカー、個人リースなどは所有せずにパーソナルな移動手段を手に入れる形である。)

これは鉄道の場合、支払った料金が純粋に移動のための対価であるのに対し、自動車の場合は車両価格が純粋に移動のための対価とはなっていないことを意味している。

収益的な影響でいうと、鉄道の場合は便利な路線であれば収益が安定し固定的な収益が見込める。しかし逆に言うと、いったん路線が確立してしまうといい意味での変動的な収益増は見込めない。

そのため鉄道業界では、利用者が減少しつつある状況を踏まえ、人が集まる場所である「駅」の魅力を向上させ、利用者により多くのお金を落としてもらおうという試みや、IC カードビジネスなど、移動に対する対価だけではない新たな収益源を模索し始めている。

一方、これまで車両価格が純粋に移動のための対価とはなっていなかった自動車業界でも、トヨタがウィル サイファにおいて月々の基本料金に加え、走行距離に応じて課金するシステムを採用するなど、むしろ従来の鉄道業界型の新しい課金の仕組みを試みている。

【自動車業界への示唆】
鉄道業界から自動車業界への示唆としては大きく二つのことがいえるのではないかと考える。

まずは、自動車を利用したくなる、利用しやすい環境づくりへの積極的な関与という点である。つまりは自動車を利用することのデメリットを最小化し、メリットを最大化するような環境を整備するということである。

これは何も鉄道業界のように商業施設、レジャー施設運営を自ら行うというような大掛かりなものでなくとも、そういった施設との提携によるキャンペーンの展開や、駐車場運営会社との提携により駐車料金の割引が受けられるようにするなど、さまざまな形が考えられる。

一方で交通インフラを整備する行政への働きかけも今まで以上に積極的に行う必要が出てくるだろう。

また、もう一点はクルマ社会に留まらず、新たな交通社会を見据えながら行動するということである。

現在進行しつつある自動車の自動運転化は新たなクルマ社会の形をもたらし、そこでは電車等の公共交通機関との提携、連携も視野に入ってくるだろう。そして、その場合は現在のように自動車というハードウェアを販売する物品販売業から、サービス業的な形へと業態を転換させることが必要になるかもしれないし、それに伴い課金の仕組みも変化する可能性がある。

いずれにしても利用者の立場を考えながら、新たな交通社会を描き、その中で自社ができること、やるべきことを模索することが必要と思われる。

<秋山 喬>

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