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コラム

08.5月 今、米国自動車市場で起きていること

◆自動車各社が利益の半分以上を稼ぎ出す「北米市場」が急減速、金融不安も

新車販売の大幅な減少、生産ラインの稼働率低下など、不安要素は本業ばかりではなく、販売金融事業という「爆弾」もかかえている。

営業利益に占める販売金融事業の割合は平均で10%に近づく勢いがあるが、今後北米で景気減速が続いて失業率が増加すれば、ローン返済の遅滞が増え、貸し倒れ債権が急増する可能性がある。また、中古車価格の低迷で、リース車両をリース期間後に売却する際に、大きな「残価ロス」が生じる恐れもある。「このまま北米で失業率が増加すれば今後、四半期で数百億円規模のマイナス影響が出る可能性もある」という指摘も。

<2008年4月17日号掲載記事>
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前回、4月 22日のコラムで『日本自動車産業を取り巻く三重苦と、本当の脅威』と題して、1.資源高、2.円高、3.米国の景気冷え込みの 3 つについて述べさせて戴いた。

この中で筆者は、中長期で見たときに米国を除く国・地域が世界からエクイティファイナンスを米国と同規模で継続することは難しいという消去法を根拠に、米国経済は必ず復活するという議論を展開したが、短期的な動きとしての米自動車需要減少に伴う販売台数減少やインセンティブ積み増しに伴う採算悪化に関して踏み込んだ議論をすることはしなかった。

一方、本日採りあげた自動車ニュース&コラムの記事によるとこの数ヶ月の北米市場は急速な悪化傾向となっている。

そこで、本コラムでは当該記事の内容に、Automotive News の 5月 5日号と4月 26日号の内容を加えたうえで、北米市場の最新の状況について纏めてみたい。

【自動車メーカーへの直接的影響要因】

①販売台数減少

08年 4月時点の実績を年率ベースに換算すると 1,440 万台となり、08年の全需が 1,500 万台を割り込む可能性がある。

実際の単月販売台数は、Light Vehicle 合計で 1,249 千台と、 07.4.の 1,339 千台と比べて、前年同月比で-6.7% となった。

この内、日本ブランドの車は前年同月比微増だが、デトロイト 3 (ビッグ3)が前年同月比-16.8% と大きく落ち込んでいる。

また、記事では北米トヨタの 3月の新車販売台数でさえ前年同月比で 10% 減少したとあったが、08年 4月は前年同月比 3.4% 増の 217,700台と、4 ヶ月連続の前年同月比マイナスをようやく脱している 。

但し、トヨタであっても昨年まで注力しつつあった利幅が比較的稼げるはずの商用車部門は苦戦。トラックの販売台数は、08.4.で 82.8 千台と、前年同月の 89.9 千台から -7.9% と低迷している。

*出典:Automotive News 08年5月5日号

②在庫水準の上昇

販売台数が想定通りに伸びないと、在庫が溜まる。以下の通り、トヨタの 4月 1日時点の北米における在庫台数(ディーラー店頭及び輸送中を含む)は少なくとも過去 5年間では最高の 376 千台まで増加している。

在庫台数
08年4月1日 376千台
07年4月1日 348千台
06年4月1日 300千台以下

但し、この在庫台数を販売台数で除した在庫日数を競合他社とで比較すると依然低いレベルであることがわかる。

在庫日数 在庫台数
ダッヂ 70 230千台
シボレー 79 496千台
フォード 69 497千台
トヨタ 51 376千台
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業界平均 64 3,350千台

4月 26日付 Automotive News によると、在庫が特に積みあがっているのが、ピックアップトラックの Tundra、 ミニバンの Sienna と Sequoia、SUV の4Runner とのことであり、前項で見られる販売台数が不振な車種(即ち商用車)と一致する。

③在庫担保融資の支払利息増加→メーカー支援金増

一般的に米国のディーラーはフロアプランと呼ばれる在庫を担保とした借入を活用してメーカーから車両を仕入れる。昨今の米 FRB による金利引き下げにより、台当たりの支払利息は以下の通り 06年と比して 07年は減少しつつある。

全米平均台当たり支払利息
06年 173ドル
07年 167 ドル(-3.5%)

しかし、07年の上場ディーラー上位 5 社の在庫担保融資に伴う支払利息は逆に 6.3% 増加していることが分かる。

(単位:百万ドル)
企業 07 06  %
Autonation 133.1* 138.2 -3.7%
PAG 74.7 59.8 +24.9%
Sonic 67.6 59.6 +13.1%
Group 1 48.1** 46.7 +3.0%
Asbury 43.1 40.5 +6.4%
————————————–
合計 366.6 344.8 +6.3%

* 内、100百万ドルはメーカー支援金により減殺
** 内、38.2百万ドルはメーカーからの支援金により減殺

このことにより、利率は減少しているものの、在庫そのものが増加していることが想像される。

また、在庫担保融資に伴う支払利息の多くは自動車メーカーからの支援金により補填されている。情報が取れている Autonation と Group1 の合計を取ると、支払利息の実に 76% がメーカーからの補填を受けていることになる。

(出典:Automotive News及び各社財務情報)

こうした金利補填もメーカーからすると大きなコスト増の要因となる。

④台当たりインセンティブの増加

更に在庫を速く現金化する為に、メーカーとしては値引き乃至はインセンティブを活用せざるを得ない。米国では 1台当りの平均インセンティブ額は以下の通り 04年以降着実に減少しつつあったが、今年の 4月に入り、この金額が大きく増加している。

04 2,730ドル/台
05 2,468ドル/台
06 2,281ドル/台
07 2,131ドル/台
08* 2,532ドル/台

* (4月1日~20日)

特に、大型ピックアップトラックの台当たりインセンティブは 2007年 4月の時点で 2,838 ドル→ 2008年 4月は 4,465 ドルへと急増。大型 SUV も 07年 4月時点で 2,353 ドル→ 08年 4月は 3,659 ドルとなっている。

但し、デトロイト 3 の平均が 2,443 ドル→ 2,921 ドルと高額であるのに対して、日本ブランドを含むアジアブランドは 1,345 ドル→ 1,657 ドルと相対的に少ない金額で抑えられている。

出典:Automotive News May 5, ’08 / Power Information Network

【(今後じわりと効いてくる可能性のある)間接的な影響要因】

上述した 4 つの直接的な影響要因に加えて、北米自動車事業では主に販売金融事業において以下のようなボディブローの可能性が考えられる。

①オートリースの残価割れ(中古車相場の下落)

自動車メーカー各社が展開する Captive Finance と呼ばれる金融事業会社における返済遅延や不払いなどに伴う引当金計上という影響と、リース期間満了後に戻ってくる車両の残価と中古車相場とのギャップという問題が生じる可能性が高い。

メーカーがリースアップした車両を市場で売る際に、想定していた残存価格を下回る価格で売らざるを得ない場合、ロスが発生する。

因みに、3年前に新車として発売された 2005年モデルの当初設定された 36 ヵ月後の予想残価と直近の平均卸売価格実績との差は以下の通り。特にラグジュアリーブランドでの残価割れが顕著となっている。

(単位:ドル)

平均卸売価格 設定予想残価 差異
メルセデス 29,733 34,372 -4,739
BMW 25,607 28,618 -3,011
レクサス 23,571 24,983 -1,412
ダッヂ 11,482 11,981 -499
トヨタ 13,531 13,671 -140

(出典:Automotive News 08年5月5日号 / Black Book)

米自動車業界全体でのリース車両の設定残価が相場を下回る総額は、今年 2008年で 60 億ドルと予想されるとのことだ(当該金額が過去最高だったのは 2001年の 100 億ドルとのこと)

(出典:CNW Marketing Research)

②オートローンのアップサイドダウン(残債が下取価格を上回る車)

08年 3月の米国における全下取台数のうち、約 25% が残債価額>下取価格となっている。因みにこの比率の過去最高記録は 03年の 33.5% であることから、史上最悪ということではない。

しかし、残債-下取価格の掛け目の平均金額は 4,305 ドルとなっており、前月の 08年 2月には 4,342 ドルと史上最高額を記録している(因みに、07年 2月の実績はほぼ 4,000 ドル)。

出典:Automotive News 08年5月5日号 / Edmund.com

ローンの残債が下取価格を上回るということは、ユーザーが買い替えをしようにも掛け目の金額を用意しないと買い替えが出来ないということを意味する。

これを回避する目的も兼ねてメーカーはインセンティブを提供する。前述の台当たり 2,500 ドルのインセンティブはこの一部であるが、十分な額であるかの評価は難しい。

また、掛け目を更にリース化して代替購入車両に上乗せしたうえでリース期間を長期化するといった動きも一部あるようだが、これでは需要の先取りとリスクの先送りという「いいとこ取り」になってしまう為、近い将来、台数減少乃至はロスの発生へと繋がってしまうだろう。

③サブプライム層(及びプライム層)へのオートローン引き受け鈍化

オートローンを提供する金融機関の審査自体が厳しくなったり、ABS 市場そのものが機能していないことによる資金調達が難しくなっていることから、低所得者を中心とした消費者へのローンがそもそも付かなくなりつつあるという実態がある。

リーマンブラザースの 2月 19日付レポートによると、以下の大手上場サブプライム層向けオートローン事業者は貸し出し審査基準を引き締めているとのことだ。

・Capital One Finance Corp.(本社バージニア州)
・AmeriCredit Corp.(本社テキサス州)

AmeriCredit 社の年間ローン供与額の目標は 1年前に 100 億ドルであったものが 4月 24日時点では 30 億ドルへと引き下げており、08年第 1 四半期にオートローンを提供したディーラーの数も 13,935 社と、07年第 4 四半期の 19,114社と比して 27% も減少している。

更に同社は ABS (資産担保証券)市場の機能停止により 2007年秋以降 ABSの売却を実施できておらず、08年 4月 17日には繋ぎ資金としてドイツ銀行から20 億円を調達するに至っている。

【今後の北米市場シナリオ】

これまで述べてきたことを整理すると、先ず車両販売ビジネスでは、

1)販売台数減少→
2)在庫増→
3)インセンティブ及びフロアファイナンス支援金増加

へと繋がり、台数減少と台当たりの採算性悪化という 2 つが併発しつつある。既に台当たりインセンティブも増加傾向にある。

また、金融事業という側面からは、

1)リース支払遅延などによる引当金計上といった直接的なインパクトに加えて(これは今後顕在化する可能性がある)
2) 中古車卸売価格がリースアップ車両の設定残価を下回ることによる損失発生や、
3)ローンの残債が市場価格を上回る台数及び当該掛け目の増加に伴い、代替そのものが困難になること、
4) 更にはオートローンそのもののファシリティー提供者が減ることによる、需要レバレッジ効果の縮小も可能性としては有り得る。

仮に、こうしたレバレッジ提供をキャプティブファイナンス会社で抱えようとしても、ある程度までのクレジットステータスの顧客までのリスクは取れても、所謂サブプライム層までの全面取り込みは難しいだろう。

小売価格・卸売価格は円高や資源高といった要因もあり、上げざるを得ないだろう。台数も当初期待通りには出ないだろう。また、調整局面ではインセンティブも必要であろうし、各種支援金も嵩むであろう。

とはいえ、相対的に見るとデトロイト 3 と比べて日本ブランドメーカーはインセンティブ額でも在庫水準でも、勿論販売台数の伸び率においても優位にあるのは間違いない。
そして根本的には、米国市場で起こりつつある更なる小型車・燃費の良い車への需要のシフトにマッチした商品を有しているのも日本車メーカーである。

需要の大幅な変化が起こるタイミングは、チャンスでもあることは 1970年代に日本車メーカーは証明済みである。こうしたチャンスを活かしてデトロイト3 と比較した「相対的な優位性」を更に拡大することが出来れば、今後米国経済が立ち直った際には、更なる飛躍が待っている可能性は高いと筆者は信じている。

<長谷川 博史>

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