暫定税率撤廃の混乱・期末における自動車業界とっての悪夢

◆与野党、ガソリン税以外の減税部分を延長する「つなぎ法案」について合意

衆参両院の議長が仲介する形で与野党の幹事長・書記局長が話し合った結果、ガソリン税の暫定税率以外の部分を5月末までの2か月間延長するという法案を、31日に成立させることで合意し、4項目の合意文書に署名した。
<2008年3月30日号掲載記事>
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日本で一番車が売れる月は何月か?

答えは業界人にとっては当たり前だが、3月である。具体的な数字で表すと、2006年 4月 -2007年 3月の登録車+軽自動車の合計販売台数の約 562 万台に対して、2007年 3月の販売台数は 76 万 7 千台となっている*。

1.この数字 は、3月の次に販売台数の多い月である 2月の 1.5 倍である
(2007年 2月:50 万 5 千 台)
2.全販売台数が年間を通じて満遍なく売れるとすると、1 ヶ月に売れる台数は 12 ヶ月のうち 8 %程度だが、実際には年間販売台数の約 14 %が 3月に売れている

3月が国内自動車販売事業者にとって大変重要且つ貴重な時期であることは理解出来るだろう。

*出典:社)日本自動車販売協会連合会ホームページ

【何故3月に売れるのか】

そもそも、日本において 3月の販売が他の月よりも 30 万台も多く売れる理由を供給サイドと需要サイドに分けて考えると、以下が挙げられる。

1.供給側
そもそも年度を通じた業績管理がメーカーからディーラーまで浸透していることから、最後の追い込みによる売上高の達成や、期末の在庫を減らして財務諸表の一つである貸借対照表を軽く見せることなど幾つもの理由からインセンティブが働き、各種サポートも 3月に手厚く設計されている。
また、こうした商慣習を前提に営業マンは 3月に一番注力して売るという行動パターンと(結果的に)なっている。
一言で言えば、最後の決算月に目標を達成するプレッシャーといったところであろうか。

2.需要側
進学・新入社員になる時期などが 4月に集中する傾向が(昔よりは平準化したものの)今でも強く残っていることから、新居における交通の手段としての自動車の確保といった動きが 3月に活発化する。また、供給者側の事情に基づく「お買い得月が 3月である」という情報が、雑誌やウェブなどを通じてユーザーの間で認知されていることも大きな要因となっている。

【暫定税率の議論に伴うユーザーから見た経済的な効果】

昨今、新聞紙上では「政治の機能不全が景気に影響している」といった論調が見られるが、政治の混乱は特に(ご存知、ガソリンに加えて)自動車販売にも大きな影響を及ぼしていると考える。

具体的には、上記の通り「3月は自動車販売にとっての増販月」という実態があるにも関わらず、3月に買うより 4月に買ったほうが(ユーザーから見ると)得をするような事態を招いていることから、一部登録台数が 3月ではなく 4月に回されているという報道がある。

300 万円の新車の場合、暫定税率である自動車取得税率の 5 %が 3 %になれば、4月 1日からは、6 万円も負担額が減る形となる。また、5月 1日からは自動車重量税も初度車検までの 3年間分を纏めて支払う前提で考えると、車輌重量 1.5 トンとして 6 万円弱(5.7 万円)も減額となる。

合計で、4月(5月)登録になると 3月登録に比べて 約 12 万円も負担額が減る計算となる。

実際にどの程度の影響を販売台数に与えたかは統計が発表されるのを待つしかない。筆者としては、揮発油税の暫定税率期限切れに伴うガソリン価格の低下の影に自動車取得税・重量税の話が多少隠れていたことから、ついこの数日前までマスコミにおいては限定的な取扱となっていた点に期待するのみである。

【暫定税率を巡る状況】

このコラムが配信される 4月 1日時点で最終的にどのような展開になっているかは最後の最後まで(政治の話であるため)分からないものの *、3月 31日現在では、与野党間で租税特別措置法改正案のうち道路関連以外の期限を 5月末まで延長するつなぎ法案を年度内に成立させることで合意している。

* 筆者はこのコラムを前日の 3月 31日までの間に執筆しており、当日朝起きてみたら別の事態となっていた、という可能性も否定出来ない。

一方、与党としては 2月末に衆議院で可決された同案を憲法の 60日ルールを活用して、4月末にも衆議院の 3分の 2 以上の多数で再可決することで、暫定税率を復活させる予定、としている。

【自動車に関わる諸税】

筆者は兼ねてから、自動車に関わる諸税について指摘してきた。
具体的な額で言えば、例えば米国は 自動車保有 11年で税金が 19.8 万円掛かるところが、日本では 81.4 万円と 60 万円以上高いとのことだ(出典:自販連 HP)。

保有に関わる費用は、国のインフラ事情や国土に対する車両数など複雑な要因が絡まるため、国際比較で単純に高い・安いと判断は出来ないものの、日本の自動車ユーザーは多額の税負担を強いられていることは事実である(原文、以下 URL 参照迄。大元の出典は自販連 HP)。

「「買ったらすぐ使いたい」、の当たり前の感情を満たして需要喚起に繋げる」

特定財源を「道路」と限定することの意味の再検討や、税の分配活動における誤った運用の即刻是正などの論点はあるものの、負担と受益のバランスを考えながら税額そのものを見直す必要があると考えている。

また、取組むに際して政治的な活動を伴わない技術と仕組みで対応可能な施策として、上記 URL のリンク先にある通り、登録に関わる諸手続きの簡素化も必要であると考えている。

【一番の問題点・混乱】

今回の暫定税率の議論における最大の問題は、新車の取得税額のみならず、中古車の取得税減免基準の見直しやグリーン化税制についても「つなぎ法案」を含めた動き・議論が増販月の期末ギリギリまで決着が見られず、最後まで右往左往したことに起因する以下 3 点にあると考える。

1)忙しい現場でのシステム改変や顧客への説明準備、価格表示の改定などの対応
2)3月末契約の車でも、一部のディーラーでは 4月登録に回さざるを得なくなるといった混乱が生じたこと。
3) 更には 4月契約の車輌でも国会での政治の動きを注視しながら、登録日への細心の注意が必要なこと。

本日は 4月 1日。新しい期の始まりである。しかし、今後政治局面次第で、早ければ 4月末にも暫定税率が復活する可能性がある。

こうした環境下で販売店各社における戦術面での対応が可能なのは、既述の通り 300 万円の車であれば当面は 12 万円(含む 5/1 からの重量税)も安くなるという瞬間風速をしっかり捕らえて営業する、ということになるだろう。

昨日、3月 31日までは一切使えなかった営業トークである「期間限定でxx万円も実質負担額が減ります」というやり方も有効であろう。

暫定税率とは関係ないが、自賠責保険料(37 か月分)も自家用自動車で 44,410 円→ 31,600 円と 12,810 円下がることをも営業トークに加えることで 4月の巻き返しに期待したい。

<長谷川 博史>