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コラム

耐用年数のある資産のΣである「企業」が永続するには?

◆複数企業が ’07.4.の税制改正で変更された減価償却制度に基づき、償却対象資産の償却方法を変更。

◆製造装置や装置の減価償却期間を定める法定耐用年数の見直し。車製造設備は 9年で一本化

◆トヨタ、ロシア工場はロボットなど自動化設備を極力排除。モノづくり回帰

<2007年12月07日号掲載記事、日経新聞、他>
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企業が償却対象の資産を取得した後に、これをどのような形で経済的な実態に合わせて償却するかは、会計における期間損益を算出するという観点から一定の前提に基づく処理が必要である。

各種報道によると、既に今年の 4月に実施された税制改正に基づく償却方法を定率法から定額法、乃至はその逆の見直しを行った企業が複数あるとのことである。

例えば 2007年 12月 5日付日経新聞によると、キャノンは「新定率法が事業の現状に合うと判断のうえ、4月以降の取得資産のみならず既存資産にも定率法を適用。製品寿命が短くなっていることを鑑みて償却速度を速めて、変化への即応性を高める」と言う。この結果、「2007年 9月中間期で営業利益へ▲403 億円の効果がある」という。

一方、富士通は定額法を適用。「主力のコンピューターシステム事業で長期契約が中心の運用受託が増えているほか、需要動向が激しいメモリー事業撤退で収益が安定した。償却期間を通じて一定の利益を得られるなら、償却という費用も期間を通じて均等に発生すると見たほうが、理にかなう。定額への変更がより適切ビジネスの実態を表す」としている。結果、「2007年 9月中間期で営業利益で +77 億円の効果がある」とのことだ(出典:上記同様 2007年 12月5日付日経新聞)。

償却方法を変更すると、会計上の利益が増減することが分かる。

更に、翌日 2007年 12月 6日(木)の日経新聞 1 面によると、来年度税制改革に盛り込む改正案に、車製造設備の法定耐用年数を 9年で一本化することが盛り込まれているとのことだ。

これまで設備によっては 3年から 25年とバラバラであった耐用年数を業種ごとに一本化することで、従来米韓などと比較して長かった耐用年数を短縮し、「国際競争力を強化」するという。

償却期間が短くなると、減価償却費を多く計上できることから税務上損金扱い可能額が増えて、納税額が減少。結果、競争力が付くという原理である。

【減価償却とは】

そもそも減価償却とは、長期に渡って使用される予定の資産を取得した際に、当該資産を単純に取得した期の費用としてしまうと、取得期には大きな赤字が発生するものの、翌期からは黒字という計算になってしまうのはおかしいよね?というところからスタートしている。これをすると損益計算上、ミスリーディングであることから、会計上その資産が使用できる期間にわたって費用配分する手法が導入され、これが減価償却である。

【償却方法とは】

資産が使用できる期間にわたって費用配分する際の方法が償却方法である。上記キャノン・富士通の例のように、取得資産に一定の率を乗じて「減価償却費」とするやり方と、耐用年数に渡って均等に割り算した結果の数値を「減価償却費」とするやり方がある※。※マイナーではあるが、生産高比例法という、工場などが生産した財に応じて償却を行う方法等も存在する。

【法定耐用年数の見直し】

法定耐用年数とは、そもそも税務・会計上の決まりごととして「特定の資産が将来何年に渡って使用可能か」という前提条件である。

現実には、仮にある特定の資産が 9年という耐用年数であっても、10年目以降も使用を続けるといったことはありえる。

しかし、税務上・会計上は飽くまでも「9年」が耐用年数となるわけだ。

つまり、高付加価値産業に属する企業で利益を継続的に出すことが出来る場合は、耐用年数が短くなるほうが納税額が少なくなることから、競争力は増加する。

【根本に立ち返って考えると】

資産とは、将来経済的な利益を齎すもの、というのが大まかな定義である。例えば設備というものは永遠に経済的な利益を生むわけではない。どこかで経年劣化の結果、使い物にならなくなる。また、仮に設備そのものは稼動し続けたとしても、競合他社が新しい設備に基づく改良製品を生み出すことに成功した場合、今の設備が生み出す商品は売れなくなる→即ち将来的な利益を生む設備ではなくなってしまう。

よって、取得時に価値をゼロにする(即ち全額費用計上するということ)わけでも、使えなくなった時点で価値をゼロにするわけでおなく、耐用年数に渡って償却するという手法がとられる。

因みに、償却対象の固定資産以外の資産の償却乃について考えると、

1.売掛金や棚卸資産などに代表される流動資産
これは、そもそも期間損益の前提である 1年という単位を超える長期の資産ではないため、償却対象とはならない。しかし、償却と同様のコンセプトで、例えば期末時点で当該資産が生み出す予定のキャッシュにあわせる形で、引当金を計上したり、低価法といった形で評価替えを行うなどの手続きが存在する。

2.土地
最近土壌汚染などが心配されることから、使用に伴い当該価値が劣化していくという考え方もあるかもしれないが、基本的には土地は経年劣化もしないし、競合他社が別のものを生み出すなどということは出来ない。(例えば、今の陸上面積と同じ大陸がある日太平洋に隆起するなどということがあれば、減損対象とするといった議論も生じるかもしれないが、これは SF の世界の話なので、横に置いておく)。よって、償却対象となっていない。

これら以外にも、投資や営業権などなどの資産は存在するが、何れも将来のキャッシュに合わせる形で、継続的に若しくは何らかのトリガーを元に、償却乃至は減価させる処理を行うことに変わりはない。

【人財についてはどうだろう?】

一方、読者も認識されている通り、人についてはそもそもオンバランスではないが、「企業は人なり」と言われるように、企業にとっての最大の資産は人材(人財)であるのは間違いない。

筆者は、以下の過去メルマガで、特に日本においては人財は費用計上ではなく実質資産計上されても良い、と述べたことが。骨子のみを再掲したい。

JH、経理部長に日産社員迎える。民営化を前に「民間の財…

~~~以下、過去コラムの再掲~~~

日本では一人の人間が同じ会社で勤め上げるケースは、欧米諸国と比べても極めて高い。こうした環境下、「ヒト」が、将来 30年に渡って経済的便益を企業にもたらす(はず)な企業の場合、経済的実態から勘案しても、会計上、「ヒト」は費用計上ではなく、実質資産計上されても良いはずだ。

即ち、将来の給与テーブルがある程度予測出来る形で、30年間雇用を続ける前提であれば、

(1)毎年支払う給与の額を費用計上するのではなく、

人件費  10  / 現金*  10

(2)耐用年数 30年の資産を分割払いで購入したのと同等の経理処理が為されてもおかしくないわけだ。

人件費  10  / 現金   10
人財(資産勘定)  290** / 未払金 290

*注:退職給与引当金等の負債については、単純化のために考慮せず。
** 実際には、この人間が将来 30年に渡って生み出すキャッシュフローの割引現在価値がここに計上されるはずであり、厳密には 290 とはならず、個々のヒトによって、その額は異なるはず。

「ヒト」が資産計上できないのは会計上当たり前の話なので、これは飽くまでもコンセプト上の話ではあるが、経営資源の最重要項目である「ヒト」について、会計上 (2) のような仕訳が為されて、個別の人財が将来もたらす経済的効果が定期的にレビューされ(具体的には今後 30年の耐用年数内に生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引くなど)既に計上されている資産価値と比較したうえで、「減損対象」とするのであれば、減損対象となった人財については安い価格で流動化が促されるといった効果もあるだろう。

~~~以上、過去コラムの再掲~~~

とはいえ、従業員が単に会社に存在しているだけでは、耐用年数を 30年とした資産計上は不可能である。これは飽くまでも個人的な感覚でしかないが、一従業員として考えて、自分自身という従業員が毎日単純に会社に来て、退社するということを繰り返して、言われたことだけを淡々とこなした場合の耐用年数と償却方法はそれぞれ、せいぜい 1~ 2年・定率であろう。

一方、日本的経営はかつてより終身雇用をベースとして耐用年数を 30年で固定しながら、現金の支出は高齢の人間に多く配分するという逆定率のような手法を用いてきた。

経年劣化という観点では、本来は定率法を適用することで、バリバリ働く世代により多くの費用(この場合は減価償却ではないので、現金が支払われるが)を充てるのが妥当かもしれないが、実際には単なる労働ではない企業の中での英知が年配者に蓄積されていくこと、更には将来にわたってモチベーションが保たれるようにしてある。

しかし、競合他社の人財によるイノベーションが発生した際には、このやり方だと機動性に欠けるだろう。

再度一従業員として考えると、如何に耐用年数を伸ばすような自己投資を継続できるか、経験と体系立った形での知識に基づく「収益力を向上するような投資」をしつこく継続出来るかが、自分という人財を劣化させない方法であると認識している。

企業経営者の側から見ても同じく、個々の従業員にどのように「耐用年数を伸ばすような投資を継続するか」は大切なポイントとなる。しかし、大企業の場合は特に、耐用年数を長く設定しつつ(30年前提の終身雇用)、「ウチの論理」に従って個々人への投資を促すわけでもなく、会社内が仲良しクラブ化してしまった状態でスピードの速い世の中・競合他社と戦おうとしているケースも散見される。

【耐用年数がある資産のΣ(シグマ)=耐用年数が無い企業、の不思議】

耐用年数という観点で考えると、土地以外の資産は全て耐用年数乃至はそれに近いコンセプトに基づき、どこかのタイミングで経済的な便益を生み出さなくなることが税務・会計上の前提となっているが、これらの資産を積み上げていった結果である企業、法人は永続することが前提となっている(GOING CONCERN)。

耐用年数の存在する資産のシグマである企業は永続する→耐用年数は無い、というのも不思議な話だが、「継続企業の公準」といって、これは会計の大原則となっている。

これを成り立たせる前提を筆者は前述の「人財」の連鎖に求めている。

壊れたり古くなったりする資産を用いて、如何に企業として永続的に収益を獲得していくかは、従業員の知恵を結晶化出来て初めて可能になる。この場合の「従業員」というのは、二つの意味で一般的な従業員とは異なる。

一つは、毎日会社に来て帰っていくのではない、自ら成長することで耐用年数を伸ばす努力をする人財であること、そして二つ目はある定点観測した際に存在している従業員ではなく、先輩から後輩へ、企業が持つ風土の中で培われ、伝達されていく「人財」のストックであることだ。

【トヨタのロシア工場】

自動車ニュース&コラムによると、日本車メーカー初のロシアでの完成車組立工場となる新工場は 21日にラインオフ式を行い、来年 3月から量産に乗り出すが、自動化ラインを導入せず、人の手によって「カムリ」を組み立てる「20年前の自動車工場」 (関係者) となるとのことだ。

また、工場内には溶接ロボットが 1台もなく、ボディーの組み立てラインの溶接工程はすべて溶接工が溶接機を持って作業にあたるという。ロボットについては塗装ラインの上塗り工程以外は導入を見送った、と。

これは、モノづくりの原点に立ち返り、ロシアではひとつずつステップをクリアする長期的な視野で取り組み、人材を育て、「クルマ作りの厳しさと楽しさを知ってもらう」という。

また、ロボットなど自動化設備が不具合を起こした場合、部品交換に時間を要するなどのリスクを回避する狙いもある、とのことだ。

筆者は特に、「モノづくりの原点に立ち返り ・・・ 長期的な視野で人材を育て・・・」の部分に注目している。

もちろん、ヒト作り以外にもロボット導入を見送った理由は複数存在するであろう。

しかし、ロボットなどの設備を償却期間内で如何に効率的に配置しても、それを活用可能な人財のストックが存在しないと、企業は永続出来ないことをトヨタは十二分に認識している。

これを、外国でも実践する企業姿勢こそがトヨタの強みであると言っても過言ではないだろう。

<長谷川 博史>

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