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コラム

脱原発の動きと自動車産業

◆欧州に「反原発」の世論 独・仏の地方選挙で反対派躍進

27日投票のドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州の議会選挙で、日本の福島原発事故を受けて「脱原発」を訴える環境政党「緑の党」が大きく票を伸ばした。-中略- CDU が与党の座を失い、緑の党が州首相のポストを得る可能性がある。-中略-

フランスでも 27日に実施された仏県議会議員選挙の第 2 回投票で、新興政党の「欧州エコロジー党」が約 3 %を得票、予想外に票を伸ばした。-以下、省略-
<2011年 3月29日 日本経済新聞電子版ニュース>

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震災から一週間後、その衝撃がまだ生々しく諸外国に伝えられている中、ドイツを訪れ同国の完成車及び部品会社のエンジニア達から日本や日本の自動車産業に関する話を聞く機会を得た。

震災の惨状は欧州でも同時進行で報道された。大パニックに陥ってもおかしくない悲惨な状況にあったにも関わらず、落ち着きと秩序、更には自分より他人を思いやる心と礼節を忘れない日本人に改めて心を打たれたという声がたいへん多かった。

自動車関連では、日系自動車メーカー各社が共同で支援体制を敷き情報を共有化したり、被害の大きな部品メーカーのサポートを強化する等、迅速に緊急管理体制を構築する姿に感心したとの声が聞かれた。また、(日本からの部品供給が滞ってしまうことを心配する声がある一方で、)被災企業の負担を回避するために「操業再開のスピードを競うことはやめよう」との国内自動車メーカーが出したメッセ―ジは「人重視の自動車産業の本質」との熱い言葉も耳にした。
 

【ドイツの電力供給戦略】

そんな中でドイツ自動車業界でも大きく注視されているのが原発の動向である。

連日報道されている通り、欧米にはチェルノブイリ以降原発に対する嫌悪感が大変強い。地盤が安定し地震は滅多に起きないドイツではあるが、今回の日本での事故を受け同国政府は、即座に現在 17 基ある原発のうち 30年以上稼働している古い原発 7 基を一時運転停止とすると発表した。この措置は与党の次期選挙対策との声も聞かれたが、今回の選挙結果を見る限り効果は薄かったようだ。

ただこういった原発廃止の動きと併行して、ドイツはその代替エネルギーとして再生可能エネルギーの占める割合を今後 10年間で 40 %に上げていく計画を立てているという。(ドイツ環境省 2011年 3月 16日発表資料)

同省の発表によると、既に 40 %の目標値のうち 17 %は達成済みとのことである。現在の同国の原発依存比率は 25 %(ドイツ連邦環境省、世界原子力協会資料)とのことなので 40 %(≒ 17 %+25 %)という数字は原子力に頼らないエネルギー体制を可能ならしめる目標ということであろう。

因みに、日本における再生可能エネルギー比率は 3.2 %(2008年実績 自然エネルギー白書 2010年)とされる。

これまで同国が比率を 17 %まで高めるために再生可能エネルギーに投資した金額は 260 億ユーロ(約 3 兆円)と言われている。莫大なコストではあるが、これにより凡そ 37 万人の雇用が生まれたという。原発と比べると圧倒的に発電効率が悪いとされる再生可能エネルギーだが、雇用の創出という意味ではプラス効果をもたらしたようだ。また、Q-Cells に代表される太陽光発電関連事業のように、国の後押しが一企業を世界のトップレベルに押し上げた例もあり、産業活性化に繋がる側面も主張されている。

もし、今後同国が原子力発電を止め、それを代替エネルギーで補うとなると更に少なくとも 1500 億ユーロ(約 17 兆円)の投資が必要という。簡単ではないが技術発展と雇用の両輪がうまく噛み合えば息の長いプラスの経済効果を生むかもしれない。

筆者は原子力発電から距離を置くことを称賛しているわけではない。非常に難しい議論で賛否が混在する中、判断のもととなる安全性の評価と代替エネルギーの可能性に就いて、出来る限り客観的なデータや実績が開示されることを願うものである。
 

【自動車産業への影響】

もし、国が原子力発電から遠ざかった場合に「代替エネルギーの確保」と同次元に重要となる命題は「高度に効率的なエネルギー活用技術の開発」となろう。

自動車領域で言えば軽量化、ダウンサイジングや高効率エンジン、渋滞回避の交通システム等のインフラも取り込んだ更なる低燃費技術の向上である。当然、回生されるエネルギーを如何に効率良く回収・保存していくかも大変重要な課題であろう。

こうしてみると、反原発の世論は今後高まってこようが、それによってこれまで自動車産業が注力してきた技術開発の方向性に大きな変化が起きるようには思えない。

日本国内の一部には、今回の震災で原子力発電に頼った EV ビジネスが厳しい状況に追い込まれる、との観測もあるようだ。しかし、化石燃料やバイオマス燃料の確保も保証され得ない状況下、また早急な環境対策も求められる中、エネルギーの最適活用・回収・保存・再利用の具体的手段となる EV 化に必要とされる要素技術は、今後むしろその開発スピードを加速していくものと思われる。また、震災をきっかけに世界的にエネルギー政策が見直されることとなればスマートグリッドと相性がいい EV には追い風、との考え方もあろう。

欧州は 2015年にユーロ 6 に突入する。「内燃機関の高効率化と制動力の電気エネルギー化を共存さる形でこの厳しい規格を乗り切る準備ができた」と面談したエンジニア達は自信を滲ませた。

ただ、クリアするための重要な技術には日本企業も深く関与しているという。どんな災害が起こっても世界で頼られ続ける日本技術の奥深さを今回改めて目の当たりにした思いである。そして今更ながらに皆さんが育んでこられた技術レベルの高さを誇りに思った。日本に元気を取り戻すためにもどうぞこれからも素晴らしい技術を世界に発信して頂きたい。

<櫻木 徹>

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