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コラム

自動車メーカーにとっての、国内流通市場における「経営」

◆リクルートのカーセンサーが臨時増刊号で総額方式で表示
掲載車両の価格を諸費用を含めた支払い総額方式で表示する

<日刊自動車新聞11月16日記事 >

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【国内自動車ディーラーの現況】

日本国内に自動車ディーラーは 1,259 社、合計の店舗数は 16,312 拠点(※1)ある。

突然だが、この 1 万 6 千拠点の拠点当り平均新車・中古車販売台数は何台だかご存知だろうか。

答えは、月販台数で、新車が 22台、中古車が 16台。合計で 38台である。

38台販売した結果の拠点当り月間営業利益は 80 万円。1 拠点当りの年間営業利益は 約 10 百万円と非常に薄利となっている。

※1:自販連加盟ディーラー、2006年度末日時点の拠点数。

ご存知の通り、国内の自動車販売市場は厳しい環境に見舞われ、販売台数の将来予測は幾つかの機関から提示されているものの、劇的回復を予測するものはほぼ存在せず、寧ろ現状の台数は減少していくというものが殆どである。

すなわち、今後上記 新中合計販売台数 38台が 40台、50台と増加することは期待できない。

一方、拠点当りの損益分岐点月販台数は 31台となっている。つまり、現在のコスト構造の改革が出来ない限り、総需要の減少に伴い拠点当りの販売台数が31台 /月の線を割ってしまうと、営業赤字となってしまう。(※2)

※2:全ディーラーの平均。ちなみに、2006年度でも全ディーラーの 25 %(企業数ベース)は赤字となっているが、その他黒字ディーラーと相殺される形で平均の姿となっている。

【このコラムの目的】

弊社では、今週から来週にかけて自販連加盟ディーラーの経営者の皆様に向けて「経営分析セミナー」と称して東京、名古屋、大阪で講演を行うことになっており、ディーラー各社が拠点単位で自助努力が可能な施策の方向性を複数提示のうえ、損益改善効果を具体的に試算している。

よって、本日のコラムではこの資料を筆者の手元に置きながら、自動メーカー各社が国内市場において実施可能なディーラー支援策について述べてみたい。

【拠点数の削減】

まず最初に自動車メーカーが行うべきは、国内市場の顧客に受け入れられる魅力的な商品開発・導入を今後も継続することであろう。

しかし自らの商品を「どういった流通網を活用して」顧客に届けるのか、という観点でみた時に、現在のディーラー網は明らかに過剰であろうことが前述の拠点当り採算などから示唆されている。

よって、既に自動車メーカーが主導的に実施しつつあるのが、販売会社の統廃合である。

事実、99年から 06年までの 7年間で会社数は 24 %も削減された。(※3)
但し、拠点数のほうは 6 %しか削減されていない。(※4)

※3:1,656 社 → 1,259 社 へと約 400 社の削減
※4:17,348 → 16,312 へと 約1,000 拠点強の削減。

イメージとしては、銀行の再編を考えていただきたい。

銀行再編では、同じ街の交差点で旧 xx 銀行と yy 銀行の支店がそれぞれ存在していたものを 1 支店に統合することでコストを抜本的に削減するという動きが起こったが、自動車ディーラー再編では依然近隣拠点が独立してそれぞれ存在している状態にあるということだ。

よって、企業数の削減の後、更にその内訳である拠点を如何に最適化していくかが今後の課題となろう。

【インセンティブ額の抑制】

インセンティブは形式的にメーカーからディーラー(時として顧客に直接)に対して支払われる。よって会計上もインセンティブはメーカーの販売促進費として計上されているため、如何にこれを抑制しながら顧客に満足を提供するかは自動車メーカーにとって大切な課題である。

因みに日本においてディーラーが受け取っている(メーカーが支払っている)車両手数料(インセンティブ)の総額は 2,000 億円にもなる。

この額は販売台数が減少しているにもかかわらず過去 7年間にわたってほぼ一定で推移している。

更に、メーカーのディーラー開発という視点でみた場合、インセンティブは顧客の支払余力と販売網維持のためのコストとの狭間で、如何にディーラーの採算性を調整するかの調整弁という機能がある。

つまり、メーカーがディーラーの収益性をインセンティブを通じて支えている、という考えになってもおかしくない。

しかし、インセンティブは最終消費者である顧客が幾ら払えるかの内数である、というのがロジカルな正解である。

つまり、顧客に対して提供する価値の総量を増やすか、流通網に掛かるコストを削減するかの何れかの方法を取らなければ、インセンティブ額を削減することは難しい。

後者の流通コスト総額削減は、前章で述べた拠点数削減などの方策により実現可能だが、前者の顧客への価値総量増加の方策は、以下の 2 つと考える。

【1.整備需要の確保】

筆者は、自動車ディーラーが顧客に提供する一番重要な価値は「故障などの際の整備の提供」であると考える。販売時に一瞬発生する商品提供という機能と異なり、顧客に価値を提供する頻度の高さという観点でも、これは当然であろう。

しかし、全国に存在する一般整備工場の約 73 千拠点(※5)で実施している自動車整備の売上の比率は、全整備売上の 50 %を超える(51.9 %)。

※5:(出典)国土交通省「平成18年度自動車分解整備業実態調査報告書」

つまり、ディーラー経由で購入されたはずの自動車の約半分はディーラー以外での整備に流出しているということである。

よって、自動車メーカーとしては、

1.サービス顧客にタイムリーな告知を提供する仕組みを構築したり、

2.電子化が進むエンジン制御他のメンテナンスを確実に行える設備をディーラーに提供することで、

ディーラーから見た整備需要の一般整備事業者への流出を抑制することが大切な施策となる。

【2.中古車販売囲い込みのための施策】

もうひとつの顧客への価値総量増加の方策は、中古車である。

その中でも、特に自動車メーカーが出来る価値総量増加の方策は、ウェブを通じた中古車価格及び在庫情報の提示であると考える。

例えば、本日のコラムの記事で取り上げたリクルートによる「商品総額表示」であるが、GAZOO などではこれが提供されているにもかからず、一部メーカーのサイトではまだ未対応となっている。

中古車は商品と価格を明確にしたうえで、大量のデータの中から検索する作業が必要となるため(※6)、特にウェブとのマッチングが良いと言われているが、実際の支払総額をベースに比較が出来なければ、顧客にとっては意味が薄い。

※6:具体的には、拙著以下コラムを参考まで
「新規参入企業による「日本版 KBB.com」 構築を期待・iPodから学ぶ手法」

更に言えば、通常下取り車が存在する場合には、その金額を差し引いた値段までをもウェブで検索可能な形にしないと、実際に消費者が支払う金額とは異なる「価格」となってしまう。

その際、難しいのはグレードやオプションなどに関するデータの管理と、取得税や下取車両の車検残など細かな計算などである。

しかし、過去自社でディーラーに卸売した商品については全てデータが揃っているはずなのが自動車メーカーである。

全ての情報の源泉を押さえている自動車メーカーが努力をすることで、中古車のトレーサビリティを、少なくとも自社銘柄商品については確保することは可能である。

こうしたトレーサビリティを確保しながら自社銘柄の中古車については下取りも含めて総額を提示し、この情報をウェブ上で適時開示することが出来れば、自社銘柄間の買い替えについては、一般の雑誌媒体や独立系インターネットサイトより豊富な情報提供が可能な形となり、結果、需要の囲い込みにつなげることが出来るはずだ。

【終わりに】
筆者は本コラムにおいて、新車販売の台数や台当たり利益の向上を大前提として織り込んでいない。

もちろん、新車販売の増加がもし近い未来に見込めれば、現状の過剰店舗問題や店舗採算問題、インセンティブ総額問題などの全てを治癒する効果を齎すであろう。

しかし、現時点での自動車流通業界の景気の見込みが悪いことに関して「景気が悪い」と愚痴を言っても、「いつか景気が上向くはずだ、新車販売台数は増加するはずだ」と言いながら手をこまねくのは「経営」ではない。

過去コラムでも述べたことであるが、

景気=天気ではない。経営とは能動的な行動である。

景気は天気とは違う。

置かれた環境下で「如何に多く考え」、「最大限行動に移すか」が経営である。

よって、商品流通インフラであるディーラー拠点の最適化と、新車販売以外の領域における最大限のディーラー支援行動が、現在の自動車メーカーが実践すべき国内流通市場における「経営」であると考える。

<長谷川 博史>

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