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コラム

新規参入企業による「日本版 KBB.com」 構築を期待・iPodから学ぶ手法

◆米大手自動車ディーラーであるオートネーション社 が、 KBB (ケリーブルーブック)の価格を自社玉情報開示に全面採用。継続利用による価格の透明性と顧客の信頼獲得を狙う。

<米Automotive News誌2007年8月20日号掲載記事>
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Automotive News は、75年以上の歴史を持つ米国を代表する自動車専門誌であり、8 万人以上の読者に自動車業界のニュースを毎週届けている。

この雑誌の 2007年 8月 20日号で、米国の大手自動車ディーラーである AutoNation 社がケリーブルーブックの価格情報を採用したとの記事が掲載されている。

【記事概要】

米最大手自動車ディーラーのオートネーションは、今年 10月から在庫中古車両のフロンウィンドーとインターネット上の価格にケリー・ブルー・ブック社
http://www.kbb.com/(以下 KBB)の車両価格を掲載することとした。

KBB は、書籍及びインターネットサイトを媒体として、米国における自動車(中古車及び新車)の推奨小売価格 (suggested retail price)、下取り・買取価格、個人間売買価格などを提供している独立企業である。

オートネーションの Gary Marfcotte 上級副社長によると、これまで同社は Black Book Online と Intelliprice のデータを活用していたとのことだが、今後は KBB の価格とロゴに統一して消費者向けに訴求していくことで価格の透明性と信頼性を確保していくとのことである。

【消費者認知構築に必要な所作】

最大手ディーラーが KBB を採用した理由は幾つもあるだろうが、最大のものはやはり消費者の KBB 認知度が圧倒的に高く、「自動車の価格を調べるなら KBBだ」というデファクトになっていることにあるだろう。

事実、KBB の HP によると J.D. Power 社調査で kbb.com は 8年連続の顧客訪問回数(トラフィック) No.1 を誇り、その他競合 3 社を合計した数を上回るとのことだ。結果、KBB 社分析によれば在庫車両のフロントウィンドー若しくはウェブサイトに KBB 価格を提示しているディーラーは、これを掲載していないディーラーよりも販売に繋がる可能性が 1.73 倍も高いとのことである(Automotive News 記事)。

こうした消費者認知を構築するために必要な所作はどういったものがあるだろうか。

筆者は以下の 3 つが重要であると考える。

1.継続的なしつこいほどの繰り返し

KBB が初めて自動車価格を纏めたものを出版物として流通させたのは 1918年とのことで、実に第一次世界大戦中のことである。これほど昔から、継続的に自動車の価格を世の中に発信し続けた結果として KBB の今日のブランドは構築されたことがわかる。

実は、この「継続行為」は資本市場から流動的な資金を調達している大手企業(特に上場企業)にとっては特に実施が困難である。これは個々の消費者のマインドに定着するのに必要な期間は、一般的に資本市場において貨幣が一箇所(一企業)に留まりリターンを期待する期間を超えるケースが殆どであることに起因する。

一昔前までの日本企業の特徴であった「持ち合いと間接金融」といった固定的資金供給に基づく長期的な視野に立った経営は昨今スピードと流動性の欠如という言葉で否定されることが多いが、「継続したしつこい経営を行う」場合は必ずしもマイナスばかりではなかった。

よって、昨今は大手企業などに限って、事業に手をつけるところで先行しても結局は「行動のしつこいほどの継続」には至らず失敗に陥るケースが散見される。

2.最終購入者である消費者への価値伝達

B2B 領域におけるデファクト化、業界での認知が高まっただけでは消費者レベルでの認知が高まることには繋がらない。

KBB の場合もその長い歴史の途中までは自動車関連事業者への下取価格を初めとした流通価格の伝達に留まっていたが、その後消費者への同価格情報提供を開始。特に、インターネットの発達に伴いこの方向性を明確にした ※ことにより、消費者マインド内での認知構築に成功した。

※当初、’95年に kbb.com 上で価格レポートを消費者向けに有料配布していたが、3 週間で無料へと切り替えた。

最終購入者の認知獲得さえ出来れば、全ての事業者の価値源泉を握ることになり※、結果、例えば細かな評点差などで事業者間での価格妥当性議論が発生したとしても、飽くまでも基本は消費者認知を確立した企業の情報がベースとなる。

※例えば自動車流通事業者を想定すると、一義的な取引先が他事業者であったとしても、最終的には消費者が支払う車両本体小売価格や、その他付帯サービスの末端価格の一部を分配受けるに過ぎないため、最後は消費者が価値源泉を握っていると言える。

3.競合間で一番になることの大切さ

消費者は、例えば自動車の価格情報を提供してくれる事業者という認知以外にも、その他生活全般を上手に過ごすための知恵を多数覚えないといけない。

よって、少なくとも消費者視点で見た場合のひとつのエリアで、真っ先に思いつく存在になることは重要である。

前述の通り、KBB は従来オンリーワンであった後、競合の参入後もナンバーワンで居続けている。

【日本でKBBに相当する事業者が存在しない理由】

一方、日本国内を見渡すと、KBB に相当する中古車流通価格の標準を「消費者向けに」提供する事業者が存在しないことがわかる。

これは当たり前だが、上記 3 点を兼ね備える事業者が不在であることがこの理由として考えられる。

例えばオークネットは AIS という査定基準を有しているが、これは主に事業者間における指標となっており、未だ消費者向け認知獲得には至っていない※。

※最近では複数のメーカーやディーラーにおける KBB に近いような取り組みとして、インターネット上の評点を開示する動きがあるとも聞く。

また、情報誌系としてはリクルートやプロトが展開しているカーセンサーや Goo といった媒体が存在するが、一部事業者向けには同様のサービスを提供しているものの、出版事業・個別事業者(ディーラーや専業店)に対する配慮もあるためか、消費者向けには、広告情報としての価格の羅列を提供するに留まっている。

【iPod の消費者認知獲得活動から、日本版 KBB 成立要件を学ぶ】

それでは、今後既存事業者、若しくは新規参入事業者が KBB に相当する事業を日本で立ち上げるためにはどうしたら良いだろうか。

前述の 3 点をクリアすることに加えた工夫が必要なのは間違い無いが、最近の事例で既存市場において新規参入事業者がシェアを奪ったケースとして、デジタル音楽プレーヤー市場におけるアップルコンピューターの iPod を例に考えてみたい ※。

※2001年登場の iPod は、2006年 4-6月期で米国デジタル音楽プレーヤー市場のシェアは 1 位の 75.6% で圧倒的。また、2007年現在、日本でも iPod のシェア が 60% を超えてトップになっている。

iPod のことをあまりご存知でない読者のためにご説明すると、iPod は、特定の PC 用アプリケーション (後述の iTunes) の専用周辺機器と考えるとわかり易く、使用には必ず PC と専用ソフトが必要になる(Wikipedia より)。つまり、音楽を PC に落とし、これを子機である iPod という音楽再生機に移して携帯、視聴するというものである(今では音楽のみならず、ビデオや TV (米国)なども見れるようになっている)。

iPod の成功要因のうち、筆者の考える日本における KBB 事業立ち上げに生かせる点は以下の3点である。

1.PC 内アプリケーションを活用した、大量楽曲の自動保存・最適分類

iPod 以前は、膨大な楽曲の再生に一貫性を持たせるためは、PC 乃至は子機において手作業での再生リスト作成が必須であった。

しかし iPod では、iTunes という音楽ファイル再生リストの自動生成機能を兼ね備えたソフトウェアを添付することで、複数種類の再生リストを自動的に作り上げる機能を構築した。

また、iTunes がインストールされているパソコンに音楽 CD を差し込むだけで、楽曲の基本情報(曲名、歌手名、演奏時間などのデータ)がインターネットのデータベース経由で自動的に取り込まれ、ユーザーがそれらの情報を手入力する手間が不要になった。

これを Web 2.0時代の自動車売買実績データ→日本版 KBB 化で応用するとすれば、

(1)仮に膨大な自動車売買データを有しているオートオークションや自動車雑誌を DB ソースと看做した場合、
(2)iTunes のようなアプリケーションを第三者が開発・ウェブサイト上で開放することにより、膨大なデータを自動的に解析・生成したうえで、最新の売買情報を常にアップデートするといった作業を行ない、
(3)個別データの羅列でもなければユーザーが検索する手間を必要とすることなく、モデル毎に最適分類された「最適解」を提示する

といった仕組みは効果的であろう。

もしかすると、これを実施するのに最適なプレーヤーは既存自動車流通プレーヤーではなく、新規参入IT 系企業などかもしれない。

2.iTunes の Mac から、Windows OS 対応

当初(2003年 10月まで) iTunes はアップルコンピューターの OS である Mac専用ソフトで Windows ユーザーが利用することはできなかったが、これを両方が使える形へとアップグレードした経緯がある。

上記自動解析ソフトの対象とするデータを例えば USS 系、オークネット系、XX系といったオークション事業者レベルでの個別アプリケーション(例えば落札代行ウェブやライブオークションのシステム)とすることなく、複数事業者の提供するデータを解析可能なアプリケーションとすることが出来れば、市場の幅は広がり、ユーザーから見た信憑性も高まる。

3.iTunes Music Store による音楽流通への進出

アップル社は現在では自社で音楽の流通をも担うようになっている。日本ではまだ著作権との関係などもあるため楽曲数が限定的であるとも言われるが、特に米国では大きな動きになっており、既に既存レコード・ CD 小売店を抜く勢いになっている。

膨大な情報へのアクセスと、これの整理・分類をきっかけとして消費者認知を獲得できれば、最後には流通へもアクセスできる、という良い事例である。

当然「商品デリバリーがオンラインで完結する音楽配信」モデルと、「物流が発生する自動車」モデルとは異なるものの、KBB モデル構築を切欠として流通そのものへ参入するのもひとつの方向性であろう。

【終わりに】

「日本の自動車産業は世界に誇るレベルである。」

この文章に異論を唱える日本人(外国人も)は少ないだろう。

しかし、足元の国内の販売状況はご紹介の通り崩壊寸前となっている。

メーカーレベル、新車ディーラーレベルではチャネル別の企業統廃合という形で流通コスト削減を図りつつあるものの、実際の拠点、店舗の数という面ではまだ限定的な動きである。

「ディーラー・企業統合における課題と解決策 -数字で見る歴史的変遷と施策案-」

しかし、足元のコスト削減に加えて、新たな価値を創造する活動をしないと先細りに変わりは無い。小売不振と言われるが、事業者は車という商品そのものの性能に頼りきりで、その後の販売・流通領域において本当に必要な努力をしていると言えるだろうか?

例えば、以前筆者コラムで主張した『「買ったらすぐ使いたい」、の当たり前の感情を満たして需要喚起に繋げる』といった工夫もひとつであるし、

「買ったらすぐ使いたい」、の当たり前の感情を満たして需要喚起に繋げる

今回述べた中古自動車に関する価格やスペックなどを自動的に生成した結果を最適開示する仕組みの構築などもあるだろう。

流通総量が増加しない(保有台数の伸びも落ち込みつつある)状況下では、新たな商品の市場への注入(売れる新車の発売)を待つだけでなく、限られた流通商品の最適マッチングを行うことで、回転率を上げるしかない。

そのために金融(例えば残価設定ローン)であり 今回の IT を活用するアイデアである。

新規参入企業には(既存事業者にも)、是非こうした工夫を凝らすことで、停滞しつつあるこの自動車小売を活性化して欲しい。

<長谷川 博史>

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