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コラム

メーカー再編時代におけるディーラー経営の今後

◆ダイムラーからの分離に、欧州クライスラーディーラーは喜びを表明

サーベラスによるクライスラー買収に伴い、欧州全土に展開する 1,000 のクライスラーディーラーは将来を楽観視。今後は米本土以外の海外投資を積極化することにより更なる成長を期待している。

<2007年6月11日号Automotive News Europe 掲載記事>

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1998年に世紀の合併と言われたダイムラーとクライスラーだが、両社間で限定的なシナジーしか実現できなかった結果、クライスラー部門がサーベラスに売却されることが発表されて 1 ヶ月が経つ。

投資ファンド傘下に入ったクライスラーの今後については UAW との年金・医療費負担問題や、モデルラインナップの中型車以上への偏重と環境関連対策に加え、そもそも長くても 5~ 7年といった期間で結果を求める投資ファンドの資金性質と自動車メーカーの事業性質との相性といった観点から、「厳しい」とする見方は一般的に妥当であろう。

しかし、Automotive News Europe によると、欧州にあるクライスラーディーラーにとって今回の分離は望ましいものであり、事実多くのディーラーはこれからが稼ぎ時であるというコメントをしている。

今回のコラムでは、ダイムラークライスラーの再編がディーラーレベルにどのような影響をもたらし、その際にディーラーとしてどのような対応がありえるのかについて考察してみたい。

【記事概要】

Automotive News Europe の 1 面に掲載された記事の要約は以下の通りである。

1.欧州ディーラーネットワークにおける変化は少ない。寧ろ、現在 1,000 拠点存在するクライスラーディーラーを、今後 2年間で 100 拠点追加する。

2.輸入販売会社・卸売事業者はこれまで同様の相手先となり、ディーラー契約も既存のものが継続する。

3.スペインで 56 拠点のクライスラーディーラーを展開するフランシスコ・サラザー・シンプソン氏は、サーベラス傘下でのクライスラーは海外事業の成長に対する投資を加速させると呼んでおり、今後ディーラー収益は向上する、としている。

4.英 Warwick にある、HWB International の managing partner は「メルセデスベンツと同じインポーターを利用していた時よりも、事態は改善する」とのコメントをしている。但し、西欧における多くのメルセデスとクライスラーを併売するディーラー は、サーベラスによる買収が完了した後にはクライスラーの販売の打ち切りを考えるであろう、と。西欧におけるメルセデスベンツディーラーのうち 20 %程度がクライスラーを併売している。

5.University of Applied Sciences Nurtingen-Geislingen の自動車研究機関の Director は、ドイツのベンツ・クライスラー併売店の 10~ 15 %はクライスラー販売を停止するであろう、としている。

【資本提携≠事業提携】

1998年当初、ダイムラーとクライスラーの合併を契機にルノーによる日産への出資など、業界再編が騒がれたことはまだ記憶に新しいが、このとき叫ばれたのが、400 万台クラブと言われる規模の経済理論である。即ち、400 万台規模の生産台数をベースに、部品、プラットフォームの共通化等を推進し、コストスプレッドを追求することにより規模の経済性を享受することと、環境関係の研究開発を共通化することで、将来への投資余地を確保するというものであ
る。

例えばクライスラー 300C という高級車は北米を中心に全世界でヒットしたが、メルセデスベンツのプラットフォームにクライスラーの HEMI エンジンを搭載したモデルであり、開発・生産面での両社間のシナジーは一部目に見える形で実現した。

また、間接コストの削減、具体的にはクライスラー部門における財務、経理、総務、人事などのバックオフィス部門における合理化・人員削減も実施された。

しかし一部事例を除くと、理論上は必ずしも誤りではない事業面での提携に先立ち資本提携を実行することの難しさが、今回の提携解消・クライスラー部門の売却に繋がったといっても間違いないだろう。

【今後のクライスラーブランド】

サーベラスによるクライスラー部門買収金額 55 億ユーロ(発表時 9,000 億円)のうち、ダイムラーに支払われるのは 10 億ユーロで、残りの 45 億ユーロはクライスラーの自動車事業や金融サービス事業に振り分けられる。更に、ダイムラーは持分法適用会社からは外す意図があると思われるものの、引き続き新生クライスラー・ホールディングの 19.9 %を維持する。

つまり今回の発表を資金面だけで見れば、新たに 45 億ユーロがクライスラー関連事業に投下され、広義の内部留保・新規資金調達に繋がった。

この資金を活用して、当面クライスラー・ホールディングは体制面の強化や海外投資を活発にすることで成長を実現し、再上場ないしは第三者への売却の道を辿ることが予想される。

但し、よく言われる話だが、投資ファンドというものは、投資家から一定の利回りを期待されて有限の期間で資金を預かっていることから、クライスラーは今後も業界再編の一つの欠片となり続けることに変わりは無い。

【販売面での影響予想】

かつての資本統合に基づくシナジー追求が販売面で実施されたものの一つが、今回の記事で取り上げられている欧州における「メルセデスベンツディーラーによる、クライスラー併売」であった。

記事内のスペインディーラーの趣旨は、提携解消による併売店の撤退に伴う自社のシェア伸長の意図と、メーカー・インポーターレベルにおける経営資源のクライスラーブランドへの集中投下への期待の 2 つが入り混じっているものと想像される。

日本においても、あるクライスラー・ジープ・ダッジディーラーの人間に聞くと、今後は寧ろ撤退エリアの獲得や新規出店を加速するつもりでいるとのことだ。

クライスラーは新体制における新規投資の方向性を全世界のディーラーを集めて説明しつつある模様で、スペイン、日本共に前向きな発言は、この結果のコメントであると思われる。

しかし、提携解消により、サーベラス傘下のクライスラー側で必要になるものは、具体的には先ずヒトである。上記間接コスト削減の一環で必要人員をダイムラー側に依存する体制が一部存在したやに聞いているが、ここでの新規採用などは喫緊の課題であろう。

欧州の場合は既存の輸入販売会社を活用すると記事にはあるが、日本の場合、現在のダイムラーと相乗りする形からどのように変わるかは分からない。

ダイムラーとクライスラーが仮に分離した場合、クライスラー側から見ればメリット・デメリットの両方が存在するだろう。

まず、資金面から見るとダイムラーとクライスラーの両方を扱う輸入販売会社のほうが企業規模は大きくなることから、調達資金額やコストの観点からは分離・単独経営は不利かもしれない。

一方、これまでベンツとクライスラーを両方扱っていた輸入販売会社の中での人材の配置やブランドの注力という面からすれば、どうしても単価が高く利幅が大きい(更には台数も多い)、ベンツへの経営資源集中という事態が発生していたと想像される為、分離はクライスラーへの資源集中へと繋がる可能性が高い。

【自動車ディーラーとして】

ディーラーはメーカーとブランド価値伝達行動という面では二人三脚で歩むことが求められるとはいえ、当然のことながら独立した事業体として採算性を追求することが求められる。

その中で採算性を左右する大きな要素の一つは台数である。

商品面から見れば今年の日本におけるクライスラーディーラーは悪くない。これまでのクライスラーブランド 4 モデル、ジープブランド 4 モデルに加えて新たにダッジの 4 モデルが加わることで、多様な商品が供給される形となる。事実、この 5月の販売も前年同月比でプラスに転じている。

また、既存商品ラインナップの生産計画は PT クルーザーなど一部モデルを除き取り合えず 2013年以降まで存在することから、この供給が忽ち止まるということも考えにくい。

更には、インポーターレベルでの今後は分からないものの、仮に分離したとしても、経営資源投入という面で言えばディーラー向け支援環境が向上する可能性も高い。

一部ディーラーでは取り扱い商品をクライスラーから変更するといったこともあるかもしれないが、そうすれば尚のこと、エリア・店舗あたりの総需要という面から見てディーラーにとって決してマイナスではないはずだ。

メーカーレベルでの再編に左右されないような強い小売力を構成する要素は、売る力の源泉であるヒトと、立地、それに一定レベル以上の資金である。

これに良い商品が加わると経営資源が全て揃うことになるわけだが、商品以外の全ての構成要素の品質を最高レベルまで高めておくことが、どの自動車ディーラーにとっても最重要課題である。

こうしたディーラーのみがメーカーにおいて「良い商品」が開発・販売されたタイミングで大きな利益を獲得することが出来る。

<長谷川 博史>

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