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コラム

上場の意味と、自動車業界における上場

◆自動車製造・自動車流通企業の上場。
自動車樹脂部品金型設計・製造のタカギセイコーと自動車情報サイトのカービューがジャスダック、マザーズにそれぞれ上場

<日経金融新聞2007年06月01日号掲載記事>

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6月は自動車関連企業が 2 社も新規に上場した。
6/8 上場のタカギセイコーと 6/12 (本日)上場のカービューである。

タカギセイコーは売上 550 億円強、経常利益 19 億円強のプラスチック部品の製造会社。富山県が本拠地で従来二輪車向け部品が中心であり、自動車関連売上は全体の 65 %を占める。

一方、カービューは売上 40 億円弱、経常利益 7 億弱のインターネットサイト運営会社で、中古車事業者などの広告掲載や中古車買取見積もり依頼に基づく従量課金が売上の主力である。

前者は自動車メーカー向けの部品供給、後者は自動車メーカーがディーラー経由販売した車のその後の流通支援という、自動車産業の上流と下流を司る事業者である。

【上場とは】

当たり前の話だが、自社の株式を証券市場(株式市場)において売買可能にすることを上場(公開)と言う。

これを英語では IPO (Initial Public Offering) と呼ぶが、要するに一般の人でも株式を買うことができるようにするのが上場である。

上場することは「個人の会社」から「公器」にすることであると言う。

非上場企業であれば限定的な数の株主が資金を拠出してリスクを負って会社という器を通じて顧客に価値提供を行うが、上場企業はそれ以外の大勢の一般の人たちを巻き込んで資金を集めることで、より多くの価値を生み出すことを目指すことから、より「公」の存在に近づくという意味である。

余談だが、筆者は「上場ってなんですか?」という同年代以下の人たちに対しては、某日本発国際的コンテンツである人気漫画の主人公の必殺技である「元気玉」というものを例に、広く一般の人から少しずつ力を借り、巨大なエネルギーを束ねて敵を倒すという技に相当するのが上場であると説明している。(分かる人にしかわからない話で恐縮だが)

【調達資金の投資先】

上記主人公であれば、集めた力を元に何をするかは自明の理で「敵を倒して世界の平和を取り戻す」わけだが、現実世界でも実際に個々の一般株主から貨幣を媒介して貸してもらった力を何に使うかが大切である。

調達した資金を必要以上に内部留保しても、せっかくみんなで少しずつ力を貸したのに、無駄になってしまうわけで、世の中のためになること、結果企業に利潤をもたらすことのために使われないとならない。

上記タカギセイコーの場合は、浜松の浜北工場の関連設備増強に調達資金を充てる予定とのことで、カービューの場合は携帯コンテンツの開発やサーバー増設、人材育成に充てるとのことだ。

何れのケースも、自らの主力ビジネスを通じてより多くの価値を顧客に提供するために必要な資産を取得するという前提があるのが分かる。

【個々人が貸した力の交換により、株主の流動性リスクを軽減する】

一方、力を貸した側、即ち株主の側から見ると、上場に伴い株式が証券市場において売買可能になるということは、個々の「力を貸した」人(=株主)が、他の人(企業)に力を貸したいと思った場合は「一抜け」出来る、即ち株式を売ろうと思えば売ることが可能な環境が整っているということである *。

* 当然、市況次第で売りが買いを圧倒的に上回る状態などになると、売買が成立しなかったり、そもそも上場廃止になった場合には売買が成立しにくくなるといったリスクはある。

【より多く力を貸せる人に株券を集めることが出来る=M&A】

更に、より多くの力を貸せる人のところに、力貸し証書=株券を集めることが出来るのも、この市場の特性である。

これが資本市場を通じた M&A であり、新聞を賑わす TOB の際などに「当社が株式を取得することが企業価値を向上させることに繋がります」といったアピールも、預かった力をどう使うかということが重要であるという前提に基づいており、結果、今度は広く一般から力を借りるのではなく一部の大きな力を有している企業の傘下に入ることで、積極的に上場廃止につなげることもある。

少し前のコラムだが、上場廃止に関する考え方は以下コラムを参照願いたい。

http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/shino/shino0054.html)

【バリューチェーン内上場と親子上場】

さて、広く一般から資金を調達して事業に必要な資産を取得(投資)した結果として企業が何を求められるかというと、当然「みんなから出してもらったお金をしっかり増やして返す」という所作である。

即ち、取得した資産を最適に回転させて、結果として利潤を生み、預かった以上のものを返すわけだ。

ただ、ここで忘れてはならないのは企業に力を貸す人は株主に限られないということだ。

上場会社であっても協力者は株主のみならず様々なプレーヤーが存在する。例えば、銀行、従業員、取引先などがこの協力者(ステークホルダーという)と言える。

株主はこれらステークホルダーの中で貸した力に対する返還(分配)の順位が劣後するが、自動車業界の場合特に顕著なのが「取引先」というステークホルダーの力が圧倒的に強いということだ。

詳しくは、以下「バリューチェーン会計制度に関する考察」コラムにあるように、自動車業界における仕入元と販売先の関係は資本関係の有無に関わらず強いつながりを持つことが多く、良く言えば相互協力と分業に基づく高い価値を提供する体制を構築していると言える。

「自動車業界特化型バリューチェーン会計制度に関する考察」

但し別の言い方をすれば、個々の企業が自ら生み出す付加価値が、バリューチェーン上に存在する取引先企業の生み出す付加価値の範囲内で恣意的にコントロールされてしまう可能性を秘めているとも言える。

例えば部品製造会社の主な納入先は自社よりも企業規模が上回る自動車メーカーであることが多いが、顧客向け価格変動リスクを負いながら開発から最終組み立てに至るまでを手がけているとはいえ、原価低減の名の下獲得貨幣量が調整されることがある。

また、ディーラー向け新車卸ビジネスでも、自動車メーカーのコスト積み上げとマーケットでの競合との価格ポジショニングを基本に価格を設定した後、最終的にはインセンティブという形での獲得貨幣量調整が実施されるという意味では類似していると言える。

筆者はこうした環境下における部品会社やディーラー(販売会社)の上場をバリューチェーン内上場と呼称している。

タカギセイコーのように、金型の設計から製造に至るまでを手がける技術力を有す企業は、更にその独自の付加価値に基づく差別化を実現していくことが、多くの一般個人から資金を調達しながら自動車産業で事業を行う場合に大切なことと言えよう。

逆にバリューチェーンの川下に存在するカービューのような会社にとって、当初の新車見積もり依頼ビジネスからほぼ脱却しつつある現在は特に、メーカーの影響を受けないセグメントでの戦いを行っており、バリューチェーン内の独自性の発揮がし易い環境にある。

しかし、引き続き 50 %を超えると言われる大株主のソフトバンクとの親子上場における、最適シナジーの実現と一定した独立性の維持が重要になると考えられる。

いずれにしても、多くの協力関係者間の利害調整を最適化しながら、全員の幸せを追求することが経営の要諦であることはどの業種、産業であっても共通であり、新規上場会社にはこうしたことを意識してスタートラインに立ってもらいたい。

<長谷川 博史>

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