現場から発想する新規事業開発の可能性・仮説と検証の繰り返し

◆名鉄協商が企業の所有する車両を買い取り、これをリースする、「リースバック」売り込みを強化

<日刊自動車新聞2007年1月29日号掲載記事>

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「名鉄グループの総合商社である名鉄協商(川野英雄社長)が、同社の長期計画において現在の 80 %増となる 2 万台のリース保有を目指し、メンテナンス付き比率を現行の 75 %から 80 %へと引き上げる」との記事が日刊自動車新聞に掲載されていた。

その際の手段として、企業が所有する車両を買い取り、これをそのまま同じ企業にリースする所謂「リースバック」を積極的に活用する方針とのことだ。

【企業側から見たリースバックとは】

リースバックを企業の側から見ると、大きく以下の 2 つのメリットが存在する。

1)現在資産として保有している車両を一度リース会社に買い取ってもらうことで、対価としての現金を即時に手に入れることが出来ること(その後一定期間に渡ってこれを返済すればよいため、キャッシュフロー上のメリットを享受できる)。

2)自社の貸借対照表から当該資産を外す(オフバランス化する)ことが可能になることから、ROA をはじめとした資産効率を(少なくとも財務諸表上は)向上させることが出来る。

即ち、元々保有している車両を継続使用しながら、キャッシュを手に入れ、財務諸表上は売却を実現することが出来るということだ。

【オートリース事業者共通の課題】

名鉄協商を含め、オートリース各社がリースバックに注力しているのは、そもそも新車リースの新規契約獲得市場が厳しい競争環境にあることに加え、管理に関わる費用が一定資産規模以上になると固定化されるビジネス特性から、資産の積み上げが生き残りのためには必須であるからだ。

よってリースバックを実施する際、通常オートリース事業者は一時的に企業に対して高めの買取価格を提示し、リース期間を通じた損益は低い採算で我慢しながらも、当該資産(車両)を買い換えるタイミングで採算を改善出来れば良いと考える傾向にある。

新車需要が伸び悩み、中古車小売需要も同様の傾向を示す環境下、企業が既に保有している資産を積極的に買取りに行くことは戦略として避けられないものの、リースバック資産の比率が総資産の一定レベルを超えるようになれば足元の採算性をも脅かすこととなる。
つまり足元の採算性の悪さを克服しながらも、将来への投資としてのリースバックを実施していく仕組み、例えば金融商品を開発できれば、オートリース会社としては自らの課題の解決の糸口として採用できるだろう。

【金融事業者における新商品開発支援の可能性】

こうしたオートリース事業者共通のニーズに対して、金融事業者が支援できることは多いと考える。

金融を事業として営む場合、ある程度のまとまったロット(金額)、即ち上記ケースで言うと「資産」が重要になる一方、所謂一般の事業法人における現場ニーズを特定・把握することはどちらかという得意ではない。

しかし、例えば自動車業界プレーヤーであるオートリース事業者と金融事業者がコラボレーションすることで、新たな価値を生み出す可能性があるのはこうした領域であると考える。

【新リース契約引受権付ABSを用いた証券化商品】

例えば、オートリース事業者と金融事業者がタッグを組んで以下のようなハイブリッド金融商品を開発することも考えられる。

1)オートリース会社が、中小企業などの保有する既存の車両を買い取ってリースバックを実施する際に

2)契約更新後の新規リース契約引受家件付 ABS を発行・投資家へ小口販売した結果として調達した、安価で豊富な資金を活用して、

3)リースバックを更に促進

こうした商品を開発することが出来れば、オートリース会社にとっては、

1)リースバック資産の買取時の資金コストの競争力アップ→リースアップ資産買取時の採算が向上する

2)豊富な資金を前提とした、より多くの台数へのアクセス

3)自己資金・借入れに頼ることなく、リース会社としてもオフバランス資産を元にした新しい収益モデルを開拓する道が開く

4)サービサーとしてのプラスアルファ収益獲得も検討可能となる

といったいくつものメリットがある。

また、金融事業者にとっても 1900 万台の商用車保有台数のうち、中小企業などが保有企業として中心と思われる、軽トラック・バンなどの 970 万台や 4 ナンバー車(ワゴン車・ボックス車など) 460 万台への商品提供は、中古車のオークション取引単価である約 60 万円を前提とすると、8.5 兆円※の規模の市場を相手にすることとなることを考えれば悪い話ではないはずだ。

※1,410万台×60万円

商用車保有台数他、リース会社の取り組みについては、以下筆者過去バックナンバーを参照願いたい。

「中小法人需要取り込みで始まった競争」
何らかの理由でオートリース会社で本件に取り組むことが難しいのであれば所謂「買取事業者」が同様のモデルで商用車領域に切り込むことも可能である。また、両社のコラボレーションでも構わない。

【投資家にとっての魅力】

更に、本件証券を引き受ける投資家にとっても、

1)レバレッジドリースや新株引受権付社債やのように、当初は利回りが低いものの、資産の入れ替え時点で利回りアップを期待できること

2)オートリース会社における過去の利回り実績など、参考とするデータは存在する(はず)であること。

3)債権回収(サービサー業務)、資産に対するメンテナンスなどは、既存の手オートリース会社に実施してもらうことにより、リスクを軽減出来ること

4)そもそも、多数の中小企業向けリースが前提となっていることから、投資家から見ても、小口分散投資であり、リスクは低いこと

などから、商品としての魅力を感じてもらえる可能性はあると思われる。

【現場からの発想と、当該仮説に対する検証との繰り返しが大切】

今回提示したビジネスアイデアは飽くまでも「アイデア」でしかないが、こうした「アイデア」を生み出すことが出来るのは、現場で実際にオペレーションを行っている事業法人で、且つそれなりの問題意識と知識を有している末端の組織員であると思われる。

こうした現場からの発想と、この発想を更に詰めて「仮説」として立案したものに対する検証を社内外のパートナーと交わりながら積極的に繰り返してくこと事態が、事業を考えそして大きくしていく上で一番大切なことであると考える。

そして、こうした事業開発の整理や異なる事業者間のアライアンス構築・当該プロジェクトのマネジメントなどの領域で当社をはじめとするコンサルティング会社を巧く活用することも重要である。

<長谷川 博史>