Web2.0で変わる クルマ購入時のパワーバランス

◆車のオンライン購入、日本のネットユーザーの約83%が「抵抗を感じる」

インターネットコムとJR東海エクスプレスリサーチが行ったユーザー調査(回答330人)で、『車をネット購入することに抵抗を感じますか』との質問に対し、「とても感じる」との答えは47%(155人)、「少し感じる」が35.8%(118人)と合計すると82.8%(273人)が抵抗を感じているとの結果が出た。
車のオンライン購入サイトに対してこだわるポイントには、80.3%(265人)が「サイトの信頼性」をあげ、73.6%(243人)が「アフターケアがしっかりしているかどうか」をこだわる。一方、車の情報がほしい際にとる行動としては64.5%(213人)が「インターネットの情報サイトで調べる」と回答した。

<2006年2月17日号(昼)掲載記事>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

最近「流行り言葉」となりつつある Web2.0 。

次世代のインターネット/ Web のあり方として、情報の多様化(文字、音楽、動画、ソフトウェアなど)や個々の利用者が主体となる Web を通じた情報発信・サービス提供などの動きを総称するものであると個人的には理解している。

一方、最近インターネットコム株式会社と JR 東海エクスプレスリサーチが行った車のネット購入に関するユーザー調査によると、約 8 割のユーザーが車のネット購入に抵抗を感じているとの結果が出たとのこと。「クルマ」そのものをインターネットを通じて所謂 E-Commerce 的に購入することに関しては消費者は抵抗を感じている。

しかし筆者は中期的にはブログを始めとした CGM (消費者作成メディア)の急速な普及、即ち一般のユーザーによる情報作成・発信の「経験蓄積」が自動車販売ビジネスに与える影響は無視出来ないものになっていくのではないかと考えている。

◆事業者から見た、ユーザーのクルマ買い換えをピンポイントで狙う必然性

例えば 2月 22日(水)の日刊自動車新聞によると、富士重工が国内スバル車保有台数 360 万台のうち傘下販売会社で管理できているのは 120 万台と 1 /3 に留まっているとのことだ。

これを DMS (ディーラーマネジメントシステム)である「パートナー 21」の活用により、240 万台へと引き上げるとのことだが、そもそも国内での新車販売需要の 9 割は代替需要であることを考慮すると、最低でも自社が(傘下ディーラーを通じて)販売した顧客のデータを自社内で管理・整備しながら、次回買い換えに役立てることは必須である。
◆新車販売台数は保有台数の1/13

国内の自動車保有台数は 78 百万台。

一方、新車の販売台数は 5.8 百万台である。

言い換えれば、ストックが 78 百万台あるものが、フローとしてはストックの 1 / 13 である年間 5.8 百万台(厳密に言えば、増車などが 1 割あるが、ここでは便宜上全部代替需要と見なす)しか発生していないということである。

自動車メーカーを始め自動車関連事業会社は、この フローである 5.8 百万台の買い換え時にフォーカスして、シェア獲得のしのぎを削っているわけだが、上述の富士重工の場合のようにフロー内での熾烈な戦いよりも「川上」である「ストック段階」で自社ユーザーを把握することにより、代替時の競争優位性を保とうとする動きは妥当である(付帯的には勿論、保有を通じたサービス提供による販社サポートという狙いも当然ある)。

もっと簡単な言葉で言えば、中古車も入れると買い換えサイクルは平均で約5年と言われるが、5年に一度のビッグチャンスを、 5年経つよりも前の「ユーザーがクルマに乗っているとき」から把握することが重要なわけだ。

◆顧客が創造する自分のクルマのコンテンツ

Web 2.0 における CGM (Consumer Generated Media) というコンセプトは、個々の利用者が主体となる Web を通じた情報発信・サービス提供を表すが、流行のブログのように、ユーザーが自分に関連する情報を自ら発信していく経験が蓄積されて、これが当たり前の時代になると、個人にとって 2 番目に大きな耐久消費財であるクルマについても、簡単な情報発信が可能となっていく。

特に、自動車のようなスパイク需要(例えば 5年に一度の大きな需要発生)の場合、例えば車検のタイミングやローン完済タイミング、保有車両のブランドと所在地郵便番号といった基本情報だけであっても、Web なりを通じてユーザーに直接コンタクト可能であれば、ストックである保有ユーザーへのアクセスが可能となることは、事業者にとって貴重である。

◆SNS(Social Networking Service)の可能性

しかし、自分のクルマの情報を含めた一定の情報だけでも広く一般に発信し続けるといったユーザーは少ないだろう。そもそも、インターネットを通じて売り込みに来られる事業者への不信感や不特定多数への情報開示の恐れというものも当然ある(前述のクルマのオンライン購入に関するサーベイでも同様のポイントに懸念を抱くユーザーは多かった)。

その意味では、SNS のようなインフラを通じて、こうしたユーザーの消費関連情報の限定開示を受けながら、選別された事業者によるユーザー同意に基づくリーチ(勿論、ユーザー間での情報交換をメインとする)を確保していく形が構築出来れば、新しい Web2.0時代の自動車販売手法に繋がっていくのではないか、と考える。

いずれにしても、これまで以上に消費者が本来の力を発揮していく形にはなるだろう。

<長谷川 博史>