複数企業の提携に基づく価値提供実現

◆オートバックスや東芝など8社、「ETCカード即時自動発行サービス」を開始

オートバックスグループのカー用品店約150店に8月末までに自動発行端末を順次導入へ。利用者自らが自動発行端末を操作してカードの申し込み、約3分間から30分間でETCカードの発行が可能となる。

<2005年06月16日号掲載記事>

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【あなたの販売しているものは何ですか?】

突然だが、オートバックスはETC車載機を販売しているのだろうか?

カード会社はクレジットカードを販売しているのだろうか?(厳密には財布の中のクレジットカードの背面をご覧戴くと「所有権はカード会社にある」ことが分かるので、貸与しているのだろうか)。

確かに、車載機の原価(メーカーからの仕入価格)にマージンを上乗せして、これに取り付け工賃を加えたものが販売単価となる。単価x販売数量=売上高になることからも、オートバックスが ETC 車載機を販売しているというのは正しそうだ。

また、カード会社にしても、カード利用に伴う加盟店手数料やキャッシングなど(ETC カードには同機能は無いものが多いだろうが)が単価となり、発行枚数と利用率を掛け合わせたものが売上高になることから、カード貸与ビジネスであるというのも正しいだろう。
しかし以前、『売上を上げるにはもっと与えなさい』という題のコラムで、自動車会社は車を売っているに在らず、という話をした。

『価値を生み出す経営とは(1)』

これは、自動車に乗って得られる楽しみ、遠くに速く移動出来る便利さ、こういったものに対してお客さんがお金を払うというのが所謂「価値に対してお金払っている」というコンセプトだ、というものであった。

この切り口から考えると、お客さんは ETC を利用して便利に快適にカーライフを楽しむことにお金を払うわけであり、これは ETC という仕組みそのものを構成するハード、ソフト、取り付け、決済機能、各種付帯サービスの全てが組み合わさることで、初めて実現される。つまり、オートバックスやカード会社といった各社はこうした利便性・快適性を提供している・販売しているということになる。

【これでETCが提供できていなかった利便性】

しかし現状ユーザーがカー用品店などに ETC を求めて来店しても、取り付けはその場で完了するものの、カードは通常、申し込みから受け取りまで約1週間の期間が必要となっている。

顧客の利便性は追求しきれてないわけだ。

筆者も半年ほど前に ETC を某カー用品店に取り付けに行って、その日のうちに高速に乗ろうと意気込んでいたものの、カード発行の関係でその日のうちに使える状態にならないのを知り、高揚したショッピングの精神が一気に冷え込み、「申込も面倒だし、今日は取り付けなくてもいいかな」と本気で思ったのを覚えている。更に、車載機のみが付いた車で料金所を通るときに「カードを挿入してください」という人工的な声を聞きながら、現金を支払った帰り道は正直空しい気持ちであった。

よって、今回のサービスでは、申し込み後約 3分間から 30分間で ETC カードの発行が可能となるとのことだ。また、自動発行端末を利用者が自ら操作してカードの申し込み及びその場で受け取りができること、複数のクレジットカード会社の ETC カードが発行できることは従来にない日本初のサービスという(各社 HP より)。

【複数企業の提携に基づく価値提供実現】

顧客の不便を見つけて、これを解消するというのはマーケティングの基本である。今回はこれを実現する為に、複数の企業が異なる役割を果たしている。

<各社の役割>

オートバックスセブン
グループ内店舗への自動発行端末設置
UCカード、CF、NICOS、オリコ
ETCカードの発行
ハイウェイ・トール・システム
サービスの運営、発行端末の保守
兼松
サービスの運営
東芝
サービスの運営、自動発行端末の製造、ETCカード(ICカード)の製造、システムインテグレーション

こうしたビジネスモジュールの組み合わせによる新たな価値創造の際に重要なのは、全体最適を図る運営者のコーディネーション能力となるが、今回はこれを東芝、ハイウェイ・トール・システムと兼松が担当するということなのだろう。

【更なるETCの普及に向けて】

国土交通省発表によると、平成 17年 6月 10日現在の ETC 車載機セットアップ累計台数は 711 万台となっている。平成 13年 3月 30日にスタートしてから既に 4年が経過しているが、7,000 万台を超える保有台数の 10 %弱の設置実績は高普及率とはまだ呼べない。

逆の捉え方をすれば、まだ 90 %が未開拓市場なわけであり、そのポテンシャルは大きい。

ETC という商品そのものは、利用開始すればその良さが身に染みて分かることから、購入時のハードルを少しでも下げることが購買促進のためには重要であり、その意味で今回の各社取り組みは、業界全体にとって有益な結果を生むと予想される。

<長谷川 博史>