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コラム

自動車会社各社の入社式挨拶比較

・トヨタの入社式、「かつて経験したことがないほど激しい競争の中にいる」
・日産の入社式、ゴーン社長が「日産は学習する企業です」との訓示
・ホンダの入社式、「失敗を恐れず伸び伸びと活躍してほしい」と福井社長

<2005年04月01日号掲載記事>

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新しい年度が始まった。

昨今は日本でも通年採用を実施する企業が増えてきたものの、依然としてこの時期に新たな人材を纏まった単位で獲得する企業は多い。自動車メーカーでも、3月に卒業する学生を新卒で 4月 1日に採用するところが殆どである。

今年の各社新規採用従業員数は自動車業界の好調により全般的には増加、個別には各社事情により異なる状況にあるが、採用された従業員に向けた入社式でのメッセージもまた、それぞれである。

本コラムでは、これらメッセージの比較を通じて、業界共通の課題や各社個別の特徴を浮き彫りにすることを目的としたい。(トヨタ、日産、ホンダの 3社を中心に取り上げる)

尚、以下の比較は、各社のホームページと各種報道の内容をベースに纏めたものであり、発表現場での細かなニュアンスなどが必ずしも正確ではない可能性があることを前提として戴きたい。

【新しいステークホルダーへのアカウンタビリティ】

そもそも、企業とって新入社員へのメッセージにはどういう意味があるのだろうか。新たな環境に直面する後輩に対する年配者による指導や、新入社員の士気高揚を目的とした会社代表による熱いメッセージの伝達といった意味も当然あるだろうが、筆者はこれを「新たに加わったステークホルダーである従業員への最初の説明責任の機会」であると解す。
特に、企業にとっての競争力の源泉は人材にあること、また日本企業が伝統的に従業員を大切にしてきたことからすれば、その他ステークホルダーにとっても企業を理解するうえで新入社員に対する入社式メッセージは極めて重要なヒントであるといえるだろう。

【各社共通の内容】

各社の新ステークホルダー向けメッセージには 以下の 2 つの共通点が見られる。これらは企業にとって普遍的な内容と、自動車業界特有の内容に分けられると考えられる。

1)お客様や社会に対する価値の提供(企業にとって普遍的な内容)

去年、2004年 4月 27日に「売上を増やすには、もっと与えなさい」というタイトルのコラムを書いた。これは、顧客が期待しているレベルを遥かに超えたモノ・サービスを提供することで、初めて所謂「売上」が計上される、ということを説明したものだったが、こうした「価値の提供」については 3社共通の内容として述べられている。

http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/hase/hase0013-2.html

当たり前の話ではあるが、顧客への価値提供・貢献が企業の存在意義そのものであることを各社は明確に肯定している。尚、トヨタに関してはホームページ上での社長挨拶の開示が為されていないことから報道記事の内容をとっており、お客様ではなく「社会への貢献」をうたっているが、これはお客様への価値提供をも包括するものと理解する。

・トヨタ 「社会貢献」
・日産  「お客様に価値を提供」
・ホンダ 「お客様に満足して頂く、お客様の喜びのため」

2)厳しい競争環境(自動車業界特有のもの)

新興市場での需要増予測はあるものの、先進国での需要は横這いが予想される中、日米欧亜の自動車メーカー各社の投資計画は相当積極的であり、今後益々勝者と敗者がはっきりとすることが予想される。こうした環境を反映して、各社のメッセージでも「厳しい競争」や「危機感」といった言葉が使われている。

・トヨタ
原材料費の高騰や韓国メーカーの追い上げなど「かつて経験したことがないほどの激しい競争の中にいる」として新入社員にも危機感の喚起を行っている。

・日産
織り込み済みの話という認識からか、競争環境については「私たちを取り巻く世界と自動車業界は常に変化しています。技術、市場、環境、お客様は常に変化しています。これらの変化に対応し、価値ある貢献をすることが重要である」としている。

・ホンダ
「自動車業界は現在非常に厳しい生き残り競争の真っ只中にあり、新入社員の皆さんも、今日からこの厳しい競争の世界に身を置くことになる。それを強く認識して頂きたい」としている。

【メッセージから見える、各社の特徴】

一方、メッセージの中身を見るとやはり各社それぞれの特徴が滲み出ていることがわかる。

1)トヨタ

・「モノ作りを通じた社会貢献」
やはり、「モノ作り」という部分にしっかり焦点を当てることで、自社の強みである生産面や商品化といった領域をアピールしている。

2)日産

・「クロスファンクショナル、クロスカルチュラル」
外国人トップのもと、各国のメンバーが集まる会社らしく、「クロスカルチュラルが企業や人を豊かにする」ということを強調している。

・「バリューについて」
志賀 C00 が「業務から生み出される付加価値がどれだけ会社の業績に貢献しているか?」、これを如何に高めていくかがバリューアップであるとして、新経営計画の意味合いを説明している。

3)ホンダ

・個人一人ひとりのやる気、チャレンジングスピリット
ホンダは、個々人のこれら気概を非常に大切にしていることを強調。

・エッジ
もっともっと Honda らしさを際立たせたい。ブランド力をさらに強化して、他社との違いを鮮明にしてゆきたい、と差別化について強調している。

【ステークホルダー向けメッセージで重要なのは2つ】

各社の定性的な比較を行う上で、入社式のメッセージ比較という手法は、以下 2 点から適切であると考える。

1)対外的に通じる平易な言葉によるメッセージであり、理解しやすい。

従業員という重要なステークホルダーでありながらも、社内暗黙知に基づく共通のプロトコルを未だ理解しない新入社員が相手であることから、一般的な言葉に基づくメッセージになっている。

2)同時期の発表と公表

同時期に各社が横並びで発表する内容が報道されるケースが多い。

しかし、このメッセージを分析する上で重要なのは、以下 2 つのアカウンタビリティを果たしているかという点であろう。

1)会社がステークホルダーに提供する価値は何か?

会社としては、新ステークホルダーである新入社員に何を提供できるのかを説明する義務がある。

2)ステークホルダーに期待する貢献価値は何か?

会社が従業員に期待する貢献内容が、戦略から落とし込んで個々人に期待する「行動」にまで繋がっているかにより、どこまで具体的な期待内容かが分かる。

これら 2 点を元に見てみると、日産のメッセージは明確である。ゴーン CEO以下の通り、しつこいほどに日産が新しいステークホルダーに提供する価値について述べていると同時に、新しいステークホルダーに期待する貢献価値についても明確に述べている。

1)日産が新しいステークホルダーに提供する価値

「皆さんは個人的にも、職業的にも、更に豊かになるでしょう。また、対話を通じて学習し、貢献する多くのチャンスに恵まれます。日産なら皆さんは人間としても、社会人としても成長することができるでしょう。日産なら、皆さんは違いを生み出すことができます。皆さんの仕事は簡単ではありませんが、日産は皆さんが挑戦し、ベストを尽す環境を与えてくれます。」

2)新しいステークホルダーに期待する貢献価値

「皆さんは新鮮な目で会社を見つめて、固定観念に囚われず、他の社員とよく考えながら仕事をして、より大きな価値を創造することを期待されています」。「新入りだからといって、何も言わずに黙っていたり、ベンチに引っ込んでいてはいけません。日産では、皆、業績によって評価されるのです。性別、国籍、年令で判断されるわけではありません。業績を認められるように努力して、大胆に、会社に貢献してください。」

更に、志賀 COO は、企業価値はその企業が生み出すキャッシュや株価と言う様に金額で換算されるものの、これに加えて「企業価値は従業員一人一人の個人価値のシグマだ」として、従業員一人ひとりのバリューの向上を求め、この具体的な内容として、「バリューで仕事をする」とは業務に費やしている時間や作成している書類の量で仕事をしているのと意味が違う。それらの業務から生み出される付加価値がどれだけ会社の業績に貢献しているか?で仕事をする、と言う意味であるという明確な説明を行っている。

このように、「企業として与えるものを説明しながらも、得たいものもまた説明する」というのがステークホルダーに対するアカウンタビリティの基本であろう。

【終わりに】

個人的にはステークホルダーから得たいもの、貢献して欲しいものを説明する際には、どこまで具体的にアクションまで落とし込んで貢献を求めているかという部分に注目している。その意味ではマツダの井巻社長によるメッセージは傾聴に値すると考える。

井巻社長は、

1.「たゆまざる変革」
2.「自分発の変革」
3.「発想の転換による変革」

の 3 つを挙げた上で、その中でも新入社員に対しては、

「『自分発の変革』をまず意識してもらいたい。現状に満足することなく、常に向上を目指し、課題や改善点を見つけたら、自分にできることは何か、解決策を考えてほしい」
という能動的なアクションを求めている。
これは新たに加わった従業員ステークホルダー以外のステークホルダーにおいても、今の日本企業で最も大切な姿勢であると筆者は考える。

【Appendix:各社トップの挨拶(要約)】

1.日産自動車

1)ゴーンCEO
・クロスカルチャーの重要性
クロスファンクショナル、クロスカルチュラルを通じて豊かになる。
(成長する。)

・学習の重要性
日産は学習をする企業である。変化に対応し価値ある貢献をするには、学びつづけなければならない

・問題解決の重要性
問題解決、お客様と共感、お客様のニーズを把握、満たされていないニーズに応える。

・年齢での判断は無い
固定観念に囚われず、新入りだからといってベンチに引っ込んでいてはいけない。業績によって評価される、性別、国籍、年齢で判断されない。

・大きくてわくわくすることがはじまる時期
日産歴史の中でも刺激的な時期に入社。大きくて、わくわくすることが始まる時に入社された日産 180 終わり、バリューアップの初日。180の中の 100 万台コミットメントを 9月末に予定通り達成。

・お客様への価値提供
日産なら、皆さんは違いを生み出すことができます。今後、皆さんが日産の業績を支え、お客様に価値を提供してくれることを期待しています。

2)志賀C00
・目標の連鎖
NRP や日産180と同様に3年先に目指す目標を公表します。そしてその目標は、それぞれのリージョン、それぞれの部門にブレークダウンされて、社内全体で共有されます。つまり、それぞれの部門が現状のパフォーマンスをどれだけ引き上げるか?について明確な目標を持つのです。それがバリューアップです。
・従業員一人ひとりのバリューアップへの連鎖
会社やその中の組織だけでなく、従業員一人ひとりの皆さんに個人のバリューアッププランを持って下さい。

・企業価値とは
企業価値はその企業が生み出すキャッシュや株価と言う様に金額で換算されますが、私は以前から、「企業価値は従業員一人一人の個人価値のシグマだ」と言っています。従って、日産バリューアップの期間に、日産のバリューがどれだけ上がるか?は、従業員一人ひとりのバリューがどれだけ上がるかの総計。

・「バリューで仕事をする」とは
自分のバリューで仕事をする従業員になって欲しいと思います。“バリューで仕事をする”と言うのは、業務に費やしている時間や作成している書類の量で仕事をしているのと意味が違います。それらの業務から生み出される付加価値がどれだけ会社の業績に貢献しているか?で仕事をする、と言う意味。

(出典:日産自動車ホームページ)

2.トヨタ自動車

1)張社長

・現状認識
原材料費の高騰や韓国メーカーの追い上げなど「かつて経験したことがないほどの激しい競争の中にいる。」

・危機感の喚起
新入社員も危機感を持って接するように。

・モノ作りを通じた社会貢献
「トヨタが創業以来大切にしてきた『モノづくり、クルマづくりを通して社会に貢献する』ことの大切さを今一度、全員で確認したい。」

・未来に向けた改革
1年前に策定した「グローバルビジョン 2010」に沿って推進中。

(出典:報道内容。ホームページには、日時、場所、式次第、出席者数のみが掲載されている)

3.ホンダ技研

1)福井社長

・現状認識
自動車業界は現在非常に厳しい生き残り競争の真っ只中にあり、新入社員の皆さんも、今日からこの厳しい競争の世界に身を置くことになる。それを強く認識して頂きたい。
・お客様の信頼が1番
全ての Honda 商品は、人の命を預かるものである。したがって、我々全員がお客様の安全に対して自分自身の仕事に 100 %の責任を持つ必要がある。お客様の信頼が最上位に位置付けられなければならない。

・世界へ行く
Honda は「世界各地のお客様に満足して頂く」という考え方のもと創業期から事業を展開してきた。当然、競争相手は世界であり新入社員の皆さんの仕事も将来的に世界へ広がる。「いつでも世界へ行くのだ」という気持ちを忘れないで頂きたい。

・お客様の喜びのためのチャレンジスピリット
Honda は個人一人ひとりのやる気、チャレンジングスピリットを非常に大切にしている会社である。新入社員の皆さん自身が主役であり、お客様の喜びのために、人に負けない得意技を磨き、自らの目標に向けて貪欲に挑戦を続けて欲しい。その意味で Honda の運命は新入社員の皆さんが握っているのである。

・エッジ
もっともっと Honda らしさを際立たせたい。ブランド力をさらに強化して、他社との違いを鮮明にしてゆきたい。多くのお客様の共感と信頼を得て、元気に頑張っていこう。

(出典:ホンダホームページ)

4.マツダ

円形テーブルを囲んで進める形式で相互コミュニケーションを重視しての入社式。

1.「たゆまざる変革」
2.「自分発の変革」
3.「発想の転換による変革」

その中でも新入社員に対しては、「『自分発の変革』をまず意識してもらいたい。現状に満足することなく、常に向上を目指し、課題や改善点を見つけたら、自分にできることは何か、解決策を考えることが必要である。」

(出典:マツダホームページ)

5.三菱自動車

益子修社長は約 70 人の新入社員への訓示で、以下の通り述べた。

「過去のリコール問題に関する厳しいニュースが流され、皆さんも心配し、不安に思われたと思います。」

「企業が社会的責任をきっちりと果たさないと生き残れないと言うことを、身をもって体験したということです。」

「企業の誠実さが、生き残るための競争力になる。不誠実な企業は淘汰される。」

「絶えず顧客が何を考え何を望んでいるのかを考えることを身につけてほしい。」

「おかしいことはおかしいと言う勇気を持ち続けてほしい。」

(出典:自動車ニュース&コラム本文)

<長谷川 博史>

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