経営再建中の九州産業交通、4~6月期の売上高が再生計画を…

◆ 経営再建中の九州産業交通、4~6月期の売上高が再生計画を上回る

産業再生機構の支援を受けて経営再建中。メニュー見直しなどを進めたレストランや売店が好調、売上高が再生計画を3億900万円上回る45億4700万円。
バス事業は再生計画に比べ 3.7 %増の 13億7100万円。

<2004年07月07日号掲載記事>
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産業再生機構とは 2003年 4月に官民で設立された株式会社である。その使命は不良債権を買い取り、対象先企業の再生を通じて最終的に投資ファンドなどの民間投資家に当該債権を売却することで 、企業再生を促進することにある(尚、仮に再建失敗した場合の損失は国民負担となる)。再生支援対象は、主に銀行の要管理先債権の企業になっており、買い取り資金枠は 10 兆円と巨額。

また、産業再生機構の重要な役割の一つが、メインバンクと非メインバンクの利害対立により企業再生が進まないような場合に、中立的立場で債権を買い取り、集約することにある。

即ち、過剰債務を複数銀行向けに有している企業を対象に銀行間コーディネーションを行いつつ、再生を行い、結果として当該債権、若しくは debt-equity-swap などにより取得した株式を第三者へと譲渡する。

それでは、企業が再生(ターンアラウンド)対象となるような状況とは如何なる状況であろうか?私が思うに、再生対象企業とは比較的安定した成熟産業において、既存の権益による競争優位性(古くからの優良立地・安価な土地、設備など)を有していながらも、実際には資産回転率が低く、非効率な経営が行われているようなケースが多いと考える(ベンチャーなどの場合、歴史的に有している優良既得資源が豊富なことは少ない為、再生というより常に挑戦である!)。

つまり、本来は企業そのものに競争力が内包されているにも関わらず、それを活かしきれていないような状況の場合、再生の対象となるわけだ。競争力発揮を妨げる要因として一般的に言われるのは、資金力、ステークホルダーの理解不足、そして経営陣の不作為等。特にこの中でも経営陣の問題というケースは多く、同族やサラリーマン内部昇格経営陣が、結果として保有している優良資産(土地、設備、そして人材)を活かしきれていないが故に低収益が続いていることがある。

ターンアラウンドマネージャー(再生請負人と訳されることもあるが、再生を主体的に取り進める人材のことを総称する)は、こういった、ボトルネックを解消しながら各種施策を同時並行的に行うことにより、対象企業の潜在能力をフルに発揮させる。

産業再生機構にとっての九州産業交通の優良資産とそれを妨げる要因がどこにあったかは筆者の知るところに無いが、機構にとっての第一号案件であり、自身の存在意義を世の中に認めさせる為には失敗が許されない案件でもあることから、十二分な資産査定をベースにした、再生可能な「再生させる意味のある」案件であるとは思われる。

よって、現時点での実績は再生計画を上回る実績となっているようだ。

一方、そもそも優良資産を有さず、競争優位が無い企業が存続する社会的な意義は薄い *。法人という存在は going concern と言われるが、統計的に見れば有限の命であることは明白であり、全ての自然人が生存する権利を有しているのとは事情が異なる(法人の為に役務を提供する自然人が生存する為の器としての意義はある)。存在意義の無い会社は潰れて当たり前、というのを自然人たる我々ビジネスマンは改めてしっかり認識すべきであり、自然淘汰の無い社会に発展は有り得ない。

再生機構に対しては、カネボウへの扱いの際など、本来の自然淘汰を妨げたのではないかといった批判などが存在しているのは事実である。しかし、資本主義の原則に基づき経済の新陳代謝を促すという大原則の基で、再生機構による介在の方式が存在するのもまた事実である。

そして、再生機構の買取資金枠 10 兆円は未だ余っている筈にも関わらず、債権買取期限は 2005年 3月まで、あと 9 ヶ月となっている。

世の中には再生が必要な企業、再生が必要か否か微妙な状況な企業、そして再生が不要な企業が混在している。今はマクロが悪くない為、表面的には再生モードに入っていないだけの企業もあるだろう。

否、マクロが好転しつつあるこのタイミングであるからこそ、是非、産業再生機構の再生請負人の皆様(コンサルティング会社や投資銀行、投資ファンドなどの出身者が多いかと思います)には、個々の案件の収益性をしっかり見極めながらも新陳代謝の議論も忘れずに、必要な相手先に適切なサポートを引き続き期待したい。

一方、現在働いている会社に何らかの構造的なボトルネックが存在していて、有する優良な資産を生かしきれていないと感じる社員の方におかれては、勿論先ずはボトルネックの解消に努めるべきであるが、もしそれが難しいのであれば、自社の優良資産と競争優位性がどこにあるかを見極めたうえでそれを継続的に磨き続けることに注力すべきであろう。
そのプロセスそのものが、産業再生機構に限らず、社会全体から見て「再生させる意義のある企業である」という評価に繋がっていくはずだ。

<長谷川 博史>