JH、経理部長に日産社員迎える。民営化を前に「民間の財…

◆JH、経理部長に日産社員迎える。民営化を前に「民間の財務ノウハウを」日産から1年間、グローバル広報・IR部員の橋田哲久氏(49)が出向する。

<2004年05月14日号掲載記事>
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記事によると、出向は1年の期間を想定しているとのこと。

これまでの経理部長は、主に財務省からの出向者が務めていたものを「民営化に向け、民間企業の財務ノウハウを取り入れるため」、民間から迎え入れると言う。

お話をしたいのは、この社員がどういった理由で日産からJHに行くのかといったことではない。公団にも日産側にもそれぞれ考えがあるのだろう。
また、民間のノウハウを官の世界で活用すべきだ、という話をするつもりもない。

今回は、「ヒト」という経営資源が、自社以外に貸し出されたり出向なりという形で活用されるような仕組みの持つ意義について考えてみたい。

今さらだが、経営を活発化し、アウトプットを最大化するには所謂「ヒト」、「モノ」、「カネ」を最大限・最速に回転させる必要がある。

例えば、「モノ」であれば、在庫期間はなるべく短く、早く売上(原価)を計上できるよう最大限の努力を図ったり、同じ工場設備から生産される加工物の量を最大化する為に、設備の操業率を上げる=スピードを上げることが重要なわけだ。
「カネ」についても同様。単純に自社の金庫に置いておくのではなく、適切なタイミングでスピーディーに必要とされる研究へ振り分けたり、ビジネスパートナーへの貸し付け、他社株式の取得や自社株式の買い付けにでも回すことで、アウトプットの最大化を図る。
「ヒト」だって、変わらない。適切な形の織形態の選択やインセンティブの設定など、ヒトのアウトプットを最大化することは企業経営を行う上での最大のテーマと言っても良いだろう。

逆に言えば、良い経営を行う為には、3大経営資源である「ヒト」、「モノ」、「カネ」が硬直化することは絶対回避すべきであることが分かる。

昨今、回転させようと思った経営資源が中々回転しない場合、若しくは今まで以上に早く回転させようと思った場合、一定のコスト負担を前提に、幾つかの手法が開発されている。一般的に企業側からはこれを「流動化」などと呼ぶ(ここに資金を提供しようとする投資家側からは、AlternativeInvestment・代替投資などと呼ばれる)。

例えば、「モノ」については、土地の証券化(REIT)や在庫の流動化などがある。即ち、投資家を募り、これら資産を担保にして資金を調達し(=現金化し)、投資家達にはこれら資産が生み出すキャッシュを返済に充てる。
同様に「カネ」についても、例えば投資ファンドのような仕組みはある意味「カネ」の硬直化を回避する一つの手法と言えよう。

それでは「ヒト」についてはどうだろうか?

よく言われる話だが、(最近は変化の兆しが見えつつあるものの)日本の場合、未だ労働市場はどちらかと言うと硬直化しているといえる(特に一部の大企業)。今でも一人の人間が同じ会社で勤め上げるケースは、欧米諸国と比べても極めて高い。こうした環境下、「ヒト」が、将来30年に渡って経済的便益を企業にもたらす(はず)な企業の場合、経済的実態から勘案しても、会計上、「ヒト」は費用計上ではなく、実質資産計上されても良いはずだ。

即ち、将来の給与テーブルがある程度予測出来る形で、30年間雇用を続ける前提であれば、

(1)毎年支払う給与の額を費用計上するのではなく、

人件費  10  / 現金*  10

(2)耐用年数30年の資産を分割払いで購入したのと同等の経理処理が為されてもおかしくないわけだ。

人件費  10  / 現金   10
人財(資産勘定)  290** / 未払金 290

*注:退職給与引当金等の負債については、単純化のために考慮せず。
**実際には、この人間が将来30年に渡って生み出すキャッシュフローの割引現在価値がここに計上されるはずであり、厳密には290とはならず、個々のヒトによって、その額は異なるはず。

「ヒト」が資産計上できないのは会計上当たり前の話なので、これは飽くまでもコンセプトの話ではあるが、経営資源の最重要項目である「ヒト」について、会計上(2)のような仕訳が為されて、個別の人財が将来もたらす経済的効果が定期的にレビューされ(具体的には今後30年の耐用年数内に生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引くなど)既に計上されている資産価値と比較したうえで、「減損対象」とするのであれば、減損対象となった人財については安い価格で流動化が促されるといった効果もあるだろう。

少し話が横道に逸れてしまったが、上述の通り、現実的にはなかなか流動化されにくいのが「ヒト」という経営資源である。

それでは「ヒト」を、一番必要とされる場所で最適活用するにはどうすればよいのだろうか?

個人的には、戦略的アライアンスに基づく「ヒト」の供給や獲得、交換といった手法が挙げられると考える。

今回の日産と日本道路公団の間に何らかの共通の目的があるかは別にして、「ヒト」が何らかの共通の目的の元に、異なる企業の間を行き来可能になれば、(最近あまり聞かなくなった言葉ではあるが)真の構造改革が実現するはずである。

労働市場にその役割をあまり期待できず、人財の資産計上と減損といった手法の導入も現実的でないことを考えると(そもそも、賃金の下方硬直性という問題が存在する)、特に大企業であればあるほど「戦略的アライアンスに基づく、ヒトの流動化」という手法は効果が大きいのではないか。

<長谷川 博史>