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コラム

海外比率上昇に伴う3つの戦略軸のバランスシフト

◆自工会の小枝会長「世界で生産される自動車、日本メーカー製が 3分の 1 に」

2005年に日本の自動車メーカーの海外生産 (2 輪を除く) が、初めて 1000 万台の大台を超えたことについて、「世界で年間 6000 万台生産される自動車のうち、日本メーカー製が 3分の 1 を占めるようになった」とコメントした。

<2006年 4月 17日号掲載記事>

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2005年の日本車の海外生産が 1000 万台に到達し、国内生産台数に肩を並べた。今年には海外生産が国内生産を上回ると予想される。日米欧の自動車メーカーがこれまでどんな軸で戦略を構築してきたかを振り返りながら、海外比率の上昇によって戦略軸の置き方に変化を生じるのかどうか、またその際の留意点は何かを考察することとしたい。

【3 つの戦略軸】

自動車メーカーには 3 つの戦略軸があると考えられる。製品軸、バリューチェーン軸、地域軸の 3 つである。

製品軸というのは、個別の製品ごとに、またはブランドやラインナップ全体で、プロダクトマネージャーやブランドマネージャーが構想した通りの、仕様・品質・製造方法、価格・コスト、販売チャネル・標的顧客、受注活動・サービス手法で、製品の位置付けを一貫させようとする価値観や動機付けのことをいう。

バリューチェーン軸というのは、企画・設計・調達・製造・販売・物流・金融・点検整備・修理交換・中古車の回収・再販など一連の企業活動を個別の機能に分解して各々の機能において、また各機能の連鎖・連携の状態として、効率性や収益性が発揮されているかどうか一貫して追求しようとする価値観や動機付けのことを指す。

地域軸というのは、商品が販売・サービスされる各市場において、また個別市場の組み合わせとしての市場ポートフォリオとして、顧客満足、競争優位、収益機会が最大化されるような商品投入や企業活動が行なわれるように一貫して見ていく価値観や動機付けのことである。

この 3 つの戦略軸はお互いに制約要因として働くことになる。

例えば、やや極端な例だが、製品軸として開発主査が欧州の高級車に匹敵する高速安定性能を持つプレミアム商品というコンセプトのもとに、全幅を 1800mmに拡大するとともに、全車に V6 エンジンを標準採用し、上級グレードにはスタビリティ・コントロールも搭載しようと考えたとする。

これに対して、バリューチェーン軸の側からどうせ全幅を広げるなら既存のプラットフォームや製造ラインが使える 1850 mmまで拡幅するとともに、部品標準化の観点でエンジンは他の商品でも採用が決定している直 6 に変更し、開発費回収を早めるためスタビリティ・コントロールは全車に標準設定して欲しいという声が出ることがある。

更に、地域軸の側からは現地の駐車場事情として全幅は 1750 mm以内に抑えてもらわないと困る、価格競合力の観点から直 4 モデルを設定し、スタビリティ・コントロールは広く薄く商品性が認められるので全グレードにオプション設定して欲しいと要求してくるかもしれない。

これらの要求に全部対応しようとしたら、製品軸はデッドロックに乗り上げてしまうし、無理やり妥協点を探ろうとしたら、当初のコンセプトとは似ても似つかない商品が生まれ、商品体系もちぐはぐなものになってしまいかねない。企業の効率性・収益性も最適化されない。

つまり、製品軸、バリューチェーン軸、地域軸の 3 つは、他の二つを制約関数とする条件のもとで、自己の目的関数の最大値を求める最適化関数の関係にあることが分かる。
しかも、この関数で最適解を求めることは容易ではなく、そもそも最適解が存在するのかどうかすら疑わしい。三つの関数はそれ自体が不断に変化しているからで、その理由は各々の関数がそれぞれに複数の変数を有し、それらの変数が相互に影響し合って動いているからである。

例えば、製品軸には常に技術革新が発生する。その結果、1 シリーズと 5 シリーズにバルブトロニック・システムが導入されると 3 シリーズが手を打たないわけには行かなくなる。

バリューチェーン軸においても、デジタル・エンジニアリングの結果、設計と試作・実験のリードタイムが短縮されれば企画の錬度や解析の精度、品質の要件、Time-to-Market は向上されなければならない。

その結果、地域軸を規定する制約条件は変化し、地域軸の最適解を変化させるのである。
従って、自動車メーカー間の競争とは、手探りの中でこの見えない最適解を誰が最初に見付けるかの競争であると言い換えることができる。また、自動車メーカーの経営とは、最適解を見出すための活動のルールや指針を指し示すコーチの役割だということができると思われる。

【日米欧三極の中心的戦略軸】

定石や正攻法が明確でない競争、役割だから、現実の競争戦略や企業経営は各社各様であり、多くの場合、各社の生い立ちやビジョンの違いによっていくつかのパターンに類型化されている。その中でも、時代背景に最もマッチした競争戦略や企業経営が相対的な優位に立つというのが歴史的教訓ではないかと思う。

まず、戦略や経営のパターンは、欧州型、北米型、日本型の 3 つの類型に分類されると考えられる。

欧州の自動車メーカーは一般に製品軸が非常に強く、バリューチェーン軸がこれに次ぎ、地域軸は弱い。北米の自動車メーカーは圧倒的にバリューチェーン軸が中心で、製品軸、地域軸は弱い。日本の自動車メーカーは地域軸、製品軸、バリューチェーン軸の順番で、3 つの軸は比較的バランスが取れている。

欧州メーカーの場合は、多くの場合、主戦場が欧州と南米に限定され、南米市場は基本的に欧州追随型である。北米や日本をも標的市場とするようなブランドはごく一部のプレミアム・ブランドに限定され、中国などアジア市場を視野に入れ始めたのは最近の話である。その結果、伝統的にあまり地域軸を重視してこなかった。

また、欧州市場は実質的な参入事業者数が少ないこともあり、商品ラインナップの多様性や、商品更新(モデルチェンジ)の頻度がそれ程要求されてこなかったことから、バリューチェーンの最適化による効率化・収益改善を追求する姿勢よりも、時間とコストを掛けてでも一つの製品を作り込むことや体系的なブランド・マネジメントを行うことの方が重要視されてきたのである。

もっとも 90年代終り頃から環境、安全に関わる投資課題が急激に拡大してきたため、投資効率追求のためのバリューチェーンの最適化にもスポットが当たるようになった。

北米メーカーの場合は、欧州メーカー以上に母国市場への依存度が高いため地域軸の概念は一層希薄で、90年代半ばの日米自動車摩擦の時期ですら日本市場向けに右ハンドルの設定がないことが指摘されるような状態にあった。

また、世界最大の市場を三社で寡占してきた歴史から一社でいくつものブランドを抱え、あらゆるセグメントに無数の商品が投入されている状態にあるため、製品軸で一つ一つの製品に最新技術を投入したり、ブランドに強い個性を持たせたりするような経営資源の投入やマネジメントの方向性は敢えて取ってこなかった。

それよりも、巨大なビジネス・インフラを活かして投資や固定費の負担を複数の商品間、ブランド間でシェアすることにより価格競争力を高めて市場占有力の維持に務め、それをプラットフォームまたは原資にした金融・サービスなど、ものづくり以外でのアプリケーション事業での収益性強化や、地域軸や製品軸を確立している域外の自動車メーカーの買収や資本参加に力を入れてきたのである。

日本メーカーの場合は、重量級の開発主査に広範な権限を委譲するやり方から製品軸が中心とも考えられる。だが、実際には地域ごとに異なる商品名(場合によってはブランド名も異なる)を付けたり、地域別にエンジンやブレーキの仕様やサスペンションのフィーリングを変えたり、世代の異なる商品を同時にラインナップしたり、といったように地域軸の声の前に製品軸は比較的容易に妥協してきた。

これは、日本車が小規模の割には事業者が乱立している国内市場での勝負に限界を悟っており、当初から世界市場での勝負を意図して地域軸を磨き上げてきたからに他ならない。

しかしながら、同時に世界での勝負のためには、欧州メーカーとの比較においてはブランド・エクィティの薄さを補うために個別製品の品質での差別化や、ラインナップの多様性やモデルサイクルの短さといった製品軸の要件が高かった。北米メーカーとの競争上は多品種少量生産となることの投資効率の面での不利を補う必要から、ムダを排除することで生産性を高めようというバリューチェーンの最適化は当初から不可欠の要件であったが、80年代に過剰設計・過剰品質が進んでコスト競争力が低下したことの反省から 90年代末以降再び注目を集めている。

【日本メーカーの地域軸への傾斜】

この結果、日本メーカーでは 3 つの軸は相対的には地域軸がやや強いとはいえ、どれか一つが突出するのではなく、バランスを維持しながら発展してきたということができる。そして、現在の時代環境においては日本メーカーのバランス戦略、バランス経営が結果的に最も適合していたことが商品の競争力や高業績によって証明されていることになる。
日本メーカーのバランス戦略、バランス経営は現在の時代環境に偶々適合していたに過ぎず、今後もこの形が最適だという保証はない。そもそもこの目的関数に最適解が存在するかどうかも怪しいのであるから。

しかしながら、今後日本メーカーは今後地域軸を従来以上に強めることが予想される。海外生産が国内生産を上回るというのは一過性の出来事でない。国内市場は縮小に向かっており、国内生産といえども長期的には輸出がその中心になっていくだろう。また、国内では国内生産を維持するだけの人的リソースを確保することが一層難しくなってくるからだ。

従って、好むと好まざるに拘わらず、今後は地域軸を主体にして、地域で企画・設計から始まる全ての機能を持って地域でのバリューチェーン最適化を追求し、個別の製品や商品ラインナップ全体の強みや整合性を強化しようというドライブが働くようになっていくに違いない。

つまり、これまで三つ巴で来た 3 つの軸の勢力均衡が崩れ、日本メーカーの伝統的な勝利の方程式には当てはまらない状態が訪れることになる。

特に問題となるのは、地域軸を優先しすぎる結果、地域を跨った製品コンセプトの一貫性や商品体系の中での一貫性が崩れがちになる。

また、機能の重複や所要リソースの肥大化を招いて企業の健全性や収益性が低下する恐れがある。

こうした問題を回避もしくは最小化するためにいくつかの工夫が必要になってくると考えられる。

第一に、トップマネジメントが製品軸やバリューチェーン軸でのあるべき姿を明確にしてそれに固執する態度を強固にすることである。

第二に、製品軸、バリューチェーン軸での会議体や調整機関を意識的に強化することである。

第三に、業績や人事考課にあたって製品軸やバリューチェーン軸への貢献を評価する仕組みを整えることである。

第四に、各地域のパフォーマンスを横串で並べて評価できるシステムを構築し、地域軸の独善独走を防ぎ、反省や改善を促す仕組みを組み込んでおくことである。

<加藤 真一>

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