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コラム

サプライヤにいま求められている能力は何か?

(開発力強化の期待に、素材技術・生産技術をどう取り込むか)

◆『ナノ・コーティング剤』が注目集める。米デュポンが今年中にも商品化へきわめて微細な粒子からなり、並外れた柔軟性を備え、塗布が容易で安価。

<2006年02月14日号掲載記事>

◆SII、ベアリングや自動車用部品など向けに、高精度・高能率の内面研削盤

セイコーインスツルは、時計部品加工で培ったノウハウを活かした内面研削盤シリーズを販売してきたが、最近のワークサイズの大型化傾向に対応する為、ベアリング外径φ100mm まで研削可能とした内面研削盤「SIG03α」を開発し、2月下旬より発売すると発表した。初年度販売目標 30 セット。きわめて微細な粒子からなり、並外れた柔軟性を備え、塗布が容易で安価。

<2006年02月13日号掲載記事>

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本誌でもお伝えしていた通り先週水曜日に日経 Automotive Technology 主催のセミナー「グローバル時代の部品メーカーの課題」にて、サプライヤを中心とする聴衆約 200 人を前に一時間程講演させていただいた。

筆者の演題は「グローバル化に伴う自動車メーカー側の考え方の変化と、変化への対応としてのサプライヤ側の戦略オプション」というもので、私ども自身で行なった自動車メーカーに対する意識調査と、昨今の自動車メーカーの実際の行動を踏まえて、凡そ次のように結論付けたものである。

『日本の自動車メーカーは、日本車が名実ともに世界のトッププランナーとなったという「商品のグローバル化」を踏まえて、「競争力」重視から「構想力」重視へと「商品」の概念を変えていく必要性に迫られており、「製造品質」と「製造生産性」という生産現場依存の経営から、「企画品質」と「開発生産性」という商品企画・開発現場重視の経営への変革を迫られつつある。

同時に、「市場と工場のグローバル化」により、少量生産・変量生産への対応力強化が課題となり、「ものづくり」の概念も従来とは異次元の「多様性と柔軟性」を発揮できる製品・工程アーキテクチャを生み出す必要性にも迫られつつある。

さらに、市場と工場のグローバル化に伴う人材の分散希薄化という「人材のグローバル化」という現実を踏まえて、生産性の高い外部の力を利用できるところはしていこうというように「リレーション」の概念すら変えつつある。

こうした変化を踏まえて、「開発力」、「リスク負担力」、「マネジメント力」を発揮できるサプライヤが勝ち残り、従来どおり「グローバル供給力」や「生産技術力」に依存したままのサプライヤは自動車メーカーの期待値とのギャップに晒されることになるので、部品分野ごとの経営課題や戦略の方向性を再認識して(例示するような)適切な戦略オプションを選択していくことが望ましい。』

このように整理してみると、筆者の主張は次のように受け止められる可能性があるのではないだろうか。

「自動車メーカーでもサプライヤでも加工や素材はどうでもよくて、今後は企画・デザイン・設計が全てだとでも言いたいのか。」

今回は、この仮説に関する筆者の見解を、冒頭に引用した記事を踏まえて補足していきたい。

【自動車メーカーはもはや生産技術・素材技術の革新を求めていないのか】

本誌でも何度かご紹介している通り弊社では自動車メーカー勤務の方々を対象にした意識調査を行ない、自動車メーカーがサプライヤに対してどのような見方をしているか、今後どのような期待を持っているかを分析した。

( http://www.sc-abeam.com/press_release/040817buhin.html 参照)

その結果から本件の論点に関する部分だけを抽出すると次の通りとなる。

(1)今後サプライヤが強化すべき能力として特筆すべきは、「開発力」、「マネジメント力」と「リスク負担力」が挙げられ、「生産技術力」は「グローバル供給力」とともに相対的には重要性が低下する領域である。

(2)分野別の期待値として、「素材」には「設備投資」と「コスト競争力」の強化を求める声が多く、「機能・性能の向上」方向での「開発力」の強化を望む声は比較的少ない。

この結果だけから判断すると、自動車メーカーは加工や素材の分野での技術革新よりも企画・デザインや開発分野におけるサプライヤの技術革新を期待しているという仮説は正しいということになる。

【生産技術の革新なくして構想力は強化されうるか】

だが、自動車メーカーがこのような考え方をするに至った背景を補足しておかなければならないと思う。

自動車メーカーの商品面での課題が「企画品質」と「開発生産性」の向上による「構想力」の強化にあることは既に述べたとおりである。

ここでいう「企画品質」とは、「製造品質」の上位概念である「開発品質」の更に上位概念である「商品企画の品質」のことを言う。

言い換えるならば、「家にいるのと同じくらいラクラクで、街にいるよりもワクワクし、自動車メーカーの社会的・経済的影響力に見合う責任を果たすという商品コンセプトを創出し、そのコンセプトを開発段階・製造段階を通じて劣化させることなく製品レベルで再現させる力」のことである。

だとするならば、加工段階での技術革新は企画品質の向上に不可欠だと言うことになる。つまり、構想書の段階でいくら斬新で画期的なデザインや機能を持たせたとしても、成型加工段階で再現できなければ企画品質を向上させたことにならないからだ。

昨今、ハイドロフォーミングが注目されているのは、プレス成型やロール成型等の既存加工技術では実現不可能なレベルで衝突安全性や寸法・曲率精度を実現できたからであり、その結果、安全性やデザインに関する企画品質水準が大きく向上したのである。

また、「開発生産性」とは、商品開発の流れを「商品企画・デザイン」、「設計」、「実験」、「解析」、「生産準備(工程・設備開発と作業習熟)」に大別した場合に、直接的にユーザーにありがたみを与えない「設計」、「実験」、「生産準備」の工程に関わる工数・負荷を最小化して、ユーザーにとってのありがたみ(企画・デザインの錬度や解析水準の向上、コスト削減、開発リードタイム短縮)を最大化しようとする考え方のことである。

このフローの中で「生産準備」と分類した部分が「生産技術」の領域になるが、自動車メーカーの側では「生産準備」に属する工程の中でサプライヤ側は「設計」から「生産準備」までの全てを完了させなければならない(自動車メーカーよりも始点は遅く、終点は早く来る)。つまり、サプライヤ側での「生産準備」は自動車メーカーのそれよりも遥かに高い効率を要求されることになる。

自動車メーカー側の「生産準備」リードタイムの短縮が更に進むのであれば、サプライヤ側はそれを上回るレベルで「生産技術」の革新が求められ、そうでなければ自動車メーカーの「開発生産性」向上は阻まれる。

このように実はサプライヤ側での生産技術の革新がなければ自動車メーカーの構想力強化は叶わないことが分かる。

【素材技術の革新なくして構想力は強化されうるか】

ここでも「商品コンセプトを製品に再現する力」を含めたものを「企画品質」と定義すると、素材技術の革新はその向上に不可欠であると考えられる。

筆者が好きなクルマの一つが日産ムラーノだが、リア周りのあの美しい三次元造形は射出成型の樹脂製バックドアによるところが大きいと思われる。

デザイン段階でいくら革新を狙っても素材的に(結果として成型技術的に)そのデザインを製品に再現できないのであれば「企画品質」は向上しない。

また、「構想力」経営の根幹に関わることとして、折角リソースをつぎ込んで独自の商品構想を実現し、それがユーザーの支持を得たとしても、投資回収を果たす前に第三者が安易に模倣可能であるとすれば「構想力」経営は成り立たない。

そういう意味では資本の集約である設備投資によって実現可能な製法は資本力のあるライバル(もしかすると中国企業でも)によって模倣されるリスクがある。設計図面も三次元測定器やラピッドプロトタイピングを多用したリバース・エンジニアリングによりある程度は習得可能で流出の恐れがあると考えるべきである。

そうなると、最後に残るものは素材そのものに関わる技術ということになり、「構想力」強化の局面において素材技術の革新は不可欠ということになる。

【自動車メーカーの真意は何か】

このように考察してくると、自動車メーカーはその構想力強化にあたって、サプライヤの開発力だけを当てにしているわけではなく、加工技術も素材技術も必要としていることが分かる。

すると「今度はリソースの制約がある中であれもこれもというわけにはいかない」、「一体自動車メーカーにとって重要度、緊急度が高い課題とは何なのか」という疑問が生じる。

筆者自身は、自動車メーカーの真意を次の通りに解釈している。

『高い素材技術や加工技術を持つ外部企業を巧みに取り込むことで自らの開発力を強化し、自動車メーカーの構想力強化に資するサプライヤこそが求められている』

今一度冒頭で述べた自動車メーカーの課題を再考してみると、商品の構想力強化と並んで、少量生産(多様性)や変量生産(柔軟性)への対応力の強化と生産性の飛躍的向上も課題になっている。

そのために製品・工程アーキテクチャや、外部企業とのリレーションの概念までが変化しつつある。

つまり既成概念や自前主義に拘らずに外部のものでも使えるものは使う、と自動車メーカーは考え始めている。サプライヤに対しても同じことがいえるはずである。自動車メーカーはサプライヤに対して「マネジメント力」と「リスク負担力」を求めているのだ。「外部のものでも使えるものは使ったらいい、ただし、そのマネジメント業務とリスクは課題が手一杯の自動車メーカーでは負担できない。サプライヤ自身で負担してくれ」というメッセージであろうと思う。

このように自動車メーカーの真意は、外部企業の力を巧みに(「マネジメント力」と「リスク負担力」を発揮して)取り込み、自らの開発力を高めることで自動車メーカーの構想力強化に協力して欲しいということであろうと思う。

【加工メーカー・素材メーカーに求められるものは何か】

高い加工技術や素材技術を持つ企業は、自動車業界外の企業であっても自動車メーカーやサプライヤの課題解決の形で、自動車業界への新規参入や事業拡大の機会が到来しているといえる。

だが、加工メーカーや素材メーカーにも課題がある。その技術の持つ価値を目に見えるものにすることである。端的に言えば、その技術を表象し、価値を体現した製品(自動車部品でも工作機械でもよい)を作り出し、提案していくことである。

というのも、第一に自動車産業は想像力で評価するだけの工数がない。また、第二に自動車産業は細分化されており専門外の分野の評価能力・経験が不足している。目に見えない技術を目に見える製品に置き換えていく努力が不可欠である。

冒頭で引用したデュポン(がライセンスを受けている)ナノテク素材は、コーティング材という製品の形を取って、時間と危険な化学物質を要する熱硬化工程を省く効果を発揮するといい、主なアプリケーションとしてオイルフィルターやディスクブレーキを挙げている。

また、セイコーインスツルはここで引用したような精密微細加工機のほかに、車載用集積回路の生産能力も強化している。同業のシチズンセイミツも ABS 部品、エンジン部品、エアバッグ部品など目に見える製品を続々生み出している。

ここで取り上げた企業はいずれも目に見える製品化を終えて自動車業界への本格参入を実現しているが、まだ切り口を見つけ損ねているという企業の方があればお力になりたいと思う。ご連絡をお待ちする。

<加藤 真一>

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