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コラム

六本木ヒルズ型モジュール導入による洗練のすすめ

(「ルーム・ミラー」は絶好のカメラ・センサ類の収納先に。ETC 内蔵型もドライバーを監視し、よそ見や居眠りなどを警告するシステムなどに活用)

<2005年10月20日号掲載記事>

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【二つの洗練】

東京モーターショーが開幕した。今回のモーターショーの特徴を一言で言うならば「洗練」ではないだろうか。各社が発表している新製品や新技術は、「環境」、「安全」、「ワクワク」、「らくらく」という現在の自動車業界の4 つのキーワードのどこかに当てはまるもので、従来の系譜にないような全く新たなキーワード(価値観、クルマの使い方)が提案されているわけではなさそうだ。

その代わりに従来、やや未熟であったもの、無骨な印象があったものが、二つの意味から「洗練」の域に達しつつあることが感じ取れるのである。安全技術を例にとって述べていきたい。

第一に、「機能的な洗練」である。

日産の電気自動車ピボは、外部のカメラ映像をピラー部分に埋め込んだ液晶画面に映し出すことでピラー部分の死角をなくした。

オムロンは車内カメラを使って人の目線の動きを感知・認識するシステムを展示している。これを例えばスイッチ類と連動させれば同じスイッチでもドライバーがオーディオに目を向けたときにはオーディオの操作スイッチとして使い、エアコンに目を向けたときにはエアコンの操作スイッチとして使う、といった柔軟性が生まれ、増える一方のスイッチ類の削減が可能になる。

デンソーの運転支援システムでは、レーザレーダとミリ波レーダに画像情報を組み合わせることで、前方の障害物を単なる物体として認識するにとどまらず、自動車なのか歩行者なのか標識なのか建物なのかを識別して、判断支援、操作支援にまで結び付けようとしている。

各社が展示しているナイトビジョンやヘッドアップディスプレイは、いずれも視線移動の少ない位置に鮮明な画像が表示される点で一段と進化した。

「安全」の観点から人の感知能力の限界や低下を補うセンシング技術、センシング・デバイスが注目されたのは今回が初めてではない。だが、各技術の長所・短所に応じてデバイス類を使い分けたり、複合的に使用したりする傾向が明らかになり、センシングの対象や目的が多様化したところに今回のモーターショーの特徴があるように思う。それを指して「機能的な洗練」と呼ぶ。

第二に、「パッケージングの洗練」である。

安全や環境等に関する技術に「機能的な洗練」をもたらした最大の功労者はセンシング・デバイス(に含まれるセンシング技術)だと言えるだろう。

それらは従来の自動車に搭載済みのデバイスではなく最新型のモデルに新たに追加されるデバイスである。多くは小型のものとはいえ、デバイスである以上、また特に電気・通信面での配線や何らかのヒューマン・インターフェースを伴うものである以上は、一定のスペースを必要とする。

そのために自動車のあちこちに丸見えの形で設置されたのでは商品性を損なう上に、視線を遮って安全性に却って問題を生じたり、それでなくても既存のデバイスで一杯の車内の居住性を犠牲にすることになりかねない。

できることであれば、できるだけ乗員から目立たず、それでいてセンシング機能を発揮する上で支障のない位置に配置したい。

そういう意味で注目されているのがルーム・ミラーである。
BMW のルーム・ミラーには ETC や自動防眩、雨滴センサーなどの機能を内臓しており、村上開明堂が発表した試作品には、音声認識、画像機能も備えているため、ドライバーの声に応じてミラーの角度を変えたり、ドライバーの瞬き速度に応じて居眠りに対する警告を発することができる。

ルーム・ミラーが進化したというのではない。各種のセンサやカメラ、マイク、スピーカ、近赤外線 LED、通信モジュールなどのデバイス・配線を集中的に目立たず効果的に配置するスペースとしてのルーム・ミラーの価値に各社の注目が集まった結果である。

センサーやカメラの設置場所としてルーム・ミラーのポジションは確かに優れている。進路前方を見通す位置としては中心にあり、同時にドライバーの視線や動きを監視するにも最適な場所にもかかわらず、従来は後方視界確認のためだけに占有されていたデッドスペースだからである。

同じことがタイヤにも言える。横浜ゴムは世界で初めて、横滑り感知のための 3 軸加速度センサーをタイヤ内部に直接取り付けた「次世代型タイヤ・モニタリング・システム」を発表した。

近年、スタビリティ・コントロール、トラクションコントロールを搭載するモデルが増えているが、それらのシステム発動の引き金となる「横滑りの感知」は車体に取り付けたセンサーが担っていた。実際には横滑りはまずホイール・スピンから発生するし、ホイールスピンは路面状況とタイヤの挙動によってもたらされるわけだから、タイヤでセンシングする方が早く正確である。

横浜ゴムの発表によれば、時速 100 キロで走行している場合には従来よりも11 メートル早く横滑りを感知できるというから、安全への貢献度は高い。

にもかかわらず、従来は車体センサーで間に合わせていたのは、過酷な環境の高速回転体であるタイヤ内部はセンサーの収納場所としての価値が低く、デッドスペースになっていたということで、センサーの耐久性向上と安全への要求増大によりようやく「土地の価値」が認められつつあるという状況であろう。

このようにルーム・ミラーやタイヤ、もしくはラジエータ・グリルなどデッドスペースをうまく活用することで最新技術が商品性や安全性、居住性などの破綻や犠牲の少ない形で自動車に搭載されつつある。これが「パッケージングの洗練」である。

因みに、これまでならセンター・コンソールが黄金地帯であり、全てのデバイスがこの空間を取り合っていた。そこからは隔世の感がある。

【六本木ヒルズ型モジュールの誕生】

ルーム・ミラーとタイヤ。いずれも自動車がこの世の中に登場した頃からずっと大きく形や場所を変えることなく、自動車と一緒に歴史を刻んできた最もコンベンショナルなパーツの一つである。これらがセンサーやカメラ、通信モジュールなど自動車業界では新参者に過ぎない最もイノベーティブなパーツに活躍の場を提供してその存在価値を高めていることに筆者は特別な意味を感じてならない。

感知・認識・判断・操作等の支援技術に繋がる電子・通信関連技術を持つ異業種やベンチャー企業にとって最大の課題は、自社単独・自社製品単品では自動車メーカーに対してその能力や価値を十分に説明・訴求することができず、自動車業界の玄関の中になかなか入れないことである。

一方、ルーム・ミラーやタイヤなどは自動車業界や自動車という製品の中で確固としたポジションやスペースを確保している老舗である。こうした老舗企業の課題は、伝統製品だけにイノベーション(シールタイプのミラーや四角いタイヤのような)や、機能の高度化と統合(システム化)に馴染みにくく、逆に自動車メーカーがコスト構造をよく知っているためにコスト削減要求に晒されやすいことである。

この二つのタイプの企業が、オーナーとテナントという関係で結びつくことにより、自動車という製品や自動車業界がより洗練される可能性があると筆者は感じているのである。

電子・通信関連の新興企業にとって自動車業界や自動車という箱の中に貴重な橋頭堡が提供されることが何よりの価値である。だが、老舗企業にとってもそれら新興企業の製品を自社の製品に組み込むことで自社製品をモジュラー製品化し、自社をモジュラー・サプライヤー化することが可能になり、自動車メーカーに対する交渉力の強化に繋がる。

ここでシステム化ではなく敢えてモジュラー化と呼ぶのは、村上開明堂のケースに見るとおり、老舗企業が提供するプラットフォームに入居するコンテンツ(企業や製品)は必ずしも老舗企業の製品と機能的な統合が必要な擦り合わせ型の製品である必要はなく、個々に別々の目的や機能を持つ製品の組み合わせでもかまわないと思うからだ。

そしてこのような形態が自動車業界や自動車という製品の「洗練」をもたらすというのは、こうした老舗と新興企業とのモジュールがいくつも誕生する中で、閉鎖的な自動車業界に新しい仕事の仕方やものづくりの考え方が持ち込まれ、自動車業界や自動車という製品にブレークスルーの機会が生まれる可能性があると考えるからだ。(因みに村上開明堂のパートナーは画像・音声認識技術を持つ旭化成であり、必ずしも新興企業との組合せではないのだが。)

筆者は、これを「六本木ヒルズ型モジュール」と名付ることにした。
森ビルという老舗デベロッパーが一等地に開発するビルであれば飲食店・衣料品店など普通のテナントもそこそこ集まるだろうし、銀行の融資や投資会社の資金を集めるのにも不自由はないかもしれない。だが、六本木ヒルズを観光地化させ、オフィス賃料や住宅棟の価格を高騰させ、ひいては森ビルの企業価値向上に一役買っているのは、楽天やライブドア、ユーセンなどの IT 関連企業がテナントで入っているという事実である。

六本木ヒルズが森ビルのビルの一つに過ぎなければここまでブランド価値は高まらなかったであろうし、逆に各テナントも六本木ヒルズに入居しているという事実そのものや、テナントどうしで情報共有をしながら切磋琢磨することで、自社のブランド価値を一層高めることに成功している。お互いがお互いを利用し合うことでヒルズブランドが成立し、維持向上しているのだ。

自動車の世界においても、老舗企業と新興企業の六本木ヒルズ型モジュールは意味のある取り組みだと考える。自動車という製品や自動車業界の調和と統合の枠組みを維持しながら新興企業の斬新性や柔軟性を活用して価値や機能が拡張できる可能性が広がるからだ。

住商アビーム AutoStanding アカデミーでもそうした取り組みに賛同する老舗企業、新興企業双方を募集し、支援中なので、ご関心の向きは事務局までお声掛けいただきたい。
ところで、本筋とは離れるが、福岡県自動車整備振興会の調べによると、福岡市を走行する自動車の 5 %以上がブレーキランプの球切れのまま走っているそうである。後方のことなので気付かないまま走っているのであろう。

同振興会は「点検・整備の励行が重要」というのを調査の結論としているが、安全がここまで業界の大きな課題となる中で、安全性に大きく関わるランプ(ウィンカーも含めて)の整備不良がこれだけの数字のまま放置されていることは自動車の設計上も問題ではないか。異常の感知とドライバーへの警報機能の充実を望みたい。

<加藤 真一>

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