顧客価値とビジネス効率のバランスをどこに求めるか

SEMA tries to put the brakes on show’s growth
(米専門装着品(Speciality Equipment)市場協会、拡大一辺倒の展示会に「待った」)

<2005年7月18日付Automotive News掲載記事>

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【内外装部品サプライヤーの苦境】

(社)日本自動車部品工業会の資料によると 2004年度の国内自動車部品サプライヤーの営業利益率は 6.0 %に達し、過去 10年で最高となった。もっともこの調査の対象は上場企業 90 社だけであり、必ずしもサプライヤー全体の平均像とはいえない。内部には格差を抱えているようである。

同じ部工会の出荷動向に関する最新(2003年度)の資料によれば、部工会加盟企業のうち社数(2003年度)で 55 %を占める年商 100 億円超のサプライヤーの出荷額は前年度比 6.7 %増であるのに対して、残りの 45 %の年商 100 億円以下のサプライヤーの出荷額は同 10.6 %減少している。

社数(同)で 51 %の従業員数 300 人超のサプライヤーは出荷額を前年度比6.7 %増加させているが、残りの 49 %のサプライヤーは同 4.7 %減少させている。

四輪車の海外向けの 2003年度の出荷額は前年度比 10.6 %増加したが、国内向けは 5.4 %増にとどまる。

組付(OEM)用部品の出荷額は前年度比 6.8 %増加したが、補修部品・用品は 0.2 %減少した。

製品別の出荷額の前年同期比を高い順に並べると、カーナビ・ ETC 等の情報関連部品 17.9 %増、用品 9.9 %増、駆動・伝導・操縦系部品 9.4 %増、電装品・電子部品 7.7 %増、エンジン部品 5.7 %増、懸架・制動部品 4.8 %増、照明・計器等の電気部品 4.0 %増、内外装品などの車体部品 1.4 %増と、バラつきが大きい。

これらを集約すると、サプライヤーの中でも、事業規模が小さく、輸出と OEM向けが少なく、内外装品を中心とするサプライヤーの経営は決して楽観的ではないということになる。

また、私どものウェブサイト(URL 下記参照)を通じて配布しているレポート「自動車メーカーに聞く次世代型サプライヤー像と製品ごとのトレンド・投資戦略」にても明らかになっているが、内外装部品に対する自動車メーカーの見方は次のようなものである。

https://www.sc-abeam.com/press_release/040817/040817ordr.pdf

1.今後調達ボリュームを大きく増やす予定はない。
2.脱系列化の対象部品である。
3.今後中国からの調達を増やす分野でもある。
4.開発投資(R&D)も製造投資(設備増強)もあまり必要ない。
5.機能・性能の向上よりもコスト競争力向上に務めて欲しい。
6.システム化・モジュール化に期待する。
7.中国進出に期待する。

1~ 3 は、「どこの誰からでも買う」という自動車メーカーの調達先戦略を表し、4 と 5 は「安いものを選ぶ」という調達基準を表すもので、6 と 7 は「こうしたらコストが下がるのではないか」という戦略代替案を示唆したものと解釈できる。

こうして見てくると、今でさえ厳しい経営環境にある内外装部品サプライヤーに明るい未来は訪れそうにないという見方になりかねない。果たして本当にそうなのだろうか。

【SEMA の活況】

今回 Automotive News が報じているのは、ラスベガスで毎年開催されているSEMA (米国専門装着品市場協会)の展示会があまりに大きくなりすぎ、会場に入りきらないので協会が出品者に対して展示スペースのこれ以上の拡張を抑制するように求めている、というニュースである。

昨年の入場者数は 1年前から 10 %増えて 10 万人を超え、2年前には 7.2 万平米だったスペースが 10.2 万平米まで拡張しているという。

この結果、2002年には全米 12 位のコンベンションだったものが今や第 4 位の規模になったというのである。

「専門装着品」(英語では Speciality Equipment なので「専門装着品」という表現は筆者の意訳である)というのは聞き慣れない名前だが、それがどんな商品・市場で、なぜそれほど成長しているのかを SEMA の資料で見ていく。

まず、「専門装着品」には大きく分けて以下 3 つの分類がある。

第一に「アピアランス商品」で、内装トリム・アクセサリー、リスタイリング・外観商品、専門ワックス・ケミカル、グラフィック・デカール、サンルーフなどがこのセグメントに分類される。

第二に、「パフォーマンス商品」で、エンジン部品、ドライブトレイン、排気システム、フューエルシステム、イグニション構成部品などが含まれる。

第三に、「ハンドリング商品」で、専門ショック、ストラト、車高調整(ローダウン・パッケージまたはリフトアップ・キット)、カスタムホイール、パフォーマンス・タイヤ、パフォーマンス・ブレーキなどが該当する。

日本の分類に置き換えると、車体部品(内外装部品)と用品を合わせたものにほぼ等しい。

「専門装着品」の 2003年の市場規模は工場出荷額ベースで約 100 億ドル(1兆 1 千億円)、小売レベルでは 290 億ドル(3 兆 2 千億円)で、過去 10年間年率平均 8.9 %の成長を遂げている。この期間の米国の新車(乗用車およびライトトラック)登録台数の伸びは年率 1.8 %であるから、新車の 5 倍という途方もない成長力を示してきた市場である。

歴史的には、70年代にストリート・レース用の「パフォーマンス商品」から始まったが、その後法規制やガソリン価格の高騰で衰退し、続いてオフロードタイプの SUV が人気を集めると共に「ハンドリング商品」の市場が誕生した。

昨今は SUV の中でもストリートユース専門のクロスオーバー型が人気を集め、コンパクトカーのドレス・アップも普及してきたことから「アピアランス商品」が急成長し、今や「専門装着品」市場の約 6 割がこのセグメントになっており、市場の成長の大部分がこのセグメントからもたらされている。

どのような自動車にこのような商品が装着されているのか、自動車のセグメント別に見ると、最大は全体の 3分の 1 以上を占めるライトトラック(日本のRV に相当する)である。これは米国の新車販売の半分以上がライトトラックであるから当然だろう。しかし、昨今最大の伸びを示しているのがコンパクト・カー(4 気筒の FF 車)で、過去 5年間に年率平均 50 %で成長してきた結果、ライトトラックに次ぐ規模になっている。

「専門装着品」という名前とは裏腹にレーシングカーやオフロード車以外の普通のクルマのユーザーにまで浸透してきたことがこの市場の成長の原動力になっていることが分かる。

【パーソナライライゼーション(自分らしさ)の追求】

「専門装着品」市場の急成長の決定的な理由について SEMA は触れていない。しかし、「専門装着品」が提供する価値が、自分のクルマを同種同型の他人のクルマと差別化することにあることは間違いない。そしてそのような差別化ニーズ、自分らしさ追求ニーズが平均的なコンパクトカーユーザーにまで広がっているのである。

流行と見ると一斉にヨン様を追いかけたり、全員がルーズソックスを履いてしまう日本人と異なり、米人は個性、自分らしさの追求に価値を置くからこうした商品が流行るのだ、という説明は構造的には正しそうだ。しかし、それだけではここ 10年の急成長の理由の説明としては不十分である。

おそらく、この 10年間に起きた変化を合わせて考えてみる必要があるだろう。筆者が注目しているのは、(1)人口動態的変化、(2)インターネットと携帯電話の普及、(3)自動車の均質化の3つである。

(1)人口動態的変化
日本と同様に戦争を経験している米国はベビーブームとその後の出生減も経ている。米国のセンサスによると、1990年からの 10年間で 40 代(大半がベビーブーマー世代)の人口は 11 百万人、50 代(半数以上がベビーブーマー世代、残りは GI 世代)は 9 百万人増加したが、20 代および 30 代前半(大半がジェネレーション X、一部ジェネレーションY)の人口は 3 百万人以上減少している。

ここ 5年間に運転人口に入ってきた 2000年時点での 10 代(ジェネレーション Y)の人口は 1990年時点との比較で約 6 百万人増加している。10年前には 5 才刻みの人口構成で 1 番、2 番を占めた 30 代前半と 20 代後半のが人口が減少し、2000年の 5 才刻み人口構成では 1 番が 30 代後半、2 番目が 40 代前半、3 番目は 5-9 才だが、次いで 10 代前半、10 代後半と変化してきているのである。

かつて消費人口の中核を占めた 20 代後半から 30 代前半が減少し、その前後の世代の人口が増加しているという消費人口構成の変化が全ての購買行動の多様化を招いており、クルマももちろん例外ではない。

(2)インターネットと携帯電話の普及
この 10年間で急速に普及したこの二つの通信手段がトランスポーテーションの必要性を格段に薄めたことは間違いない。また、同時にこの両者が新たに切り開いたエンターテイメントの世界が人々のクルマに対するパッションを従来とは異なるものに変えた可能性がある。

(3)自動車の均質化
98年のダイムラークライスラー誕生移行活発化した自動車業界の統合再編や、ビジネス効率向上のためのワールドカー構想、プラットフォームや部品の共有化・モジュール化がどれだけ影響したかは分からないが、少なくとも品質に関する限り国際格差、企業・ブランド間格差が縮小し、差別的優位の源泉にはならなくなってきたことをかつて筆者は書いた。

「企画品質の時代」

製品が均質であれば人々の関心は別のものに移行していっても不思議はない。

これらを通じて、米国人の関心が従来以上に「パーソナライゼーション」、自分らしさの追求に向かって行ったのではないかと筆者は考えるが、もしそうであれば日本でも同じ現象が起きても自然である。上記 3 つの変化は日本でも同時に起きたことだからだ。

【顧客価値とビジネス効率の両立】

さていよいよ本題である。自動車に対して顧客が求める価値の一つが「パーソナライゼーション」になってきたとして、企業の側は如何に対応すべきなのか、という点について私見を述べていきたい。

その中でも自動車メーカーは国内市場がフラットでも海外販売が好調で空前の利益を上げており、多くのサプライヤーもそれに伴って好調なのだから、ここでの焦点は国内市場を主戦場とする内外装部品メーカーのサバイバル戦略の方向性についてである。

筆者が提案するのは、自動車ディーラーとのアライアンスによる「専門装着品」の小ロット開発、小ロット生産メーカーへの移行である。

(社)日本自動車販売協会連合会の資料によれば、2003年度(入手可能な最新版)の国内自動車ディーラー 1,432 社の平均営業利益率は 1.5 %と過去 4年間ほぼ横這いで推移している。国内では新車が売れないのだから率が横這いということは、額でも横這いであり、少子高齢化が始まる来年以降は率をキープしても額は低落を辿ることになる。

また、経済産業省の企業活動基本調査では、自動車小売業は自転車小売業と一括りで「自動車・自転車小売業」という業種となるが、2003年度の「自動車・自転車小売業」の平均営業利益率は 1.3 %で、自販連の数値と近似値である。

この 1.3 %という数値は、経産省の分類による小売業 8 業種の中で下から2 番目、非製造業 32 業種の中で下から 6 番目、全産業 56 業種の中で下から7 番目に位置する。自動車産業のバリューチェーンの中で収益性の低い業種だというだけでなく、全産業的に見ても収益性の低い業種だということが分かる。

客単価を引き上げることができればいいが、そもそも自動車ディーラーには価格決定権がないうえに、総市場が頭打ちで併売制が浸透するなか一人実売価格を引き上げれば競争から脱落するだけに終わる。

こうした状況を打破するため、自動車ディーラーが自ら企画開発した商品を持ち、一物一価のプライシングに移行することを検討してみる価値があるだろう。もちろん、自動車を一から開発することはできないから、バンパーやグリル、ホイール、シートなどでカスタマイズするのである。

筆者は本誌 vol.2 でモデリスタを取り上げ、カスタマイズを推奨した。

https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/backno/0002.html

モデリスタはトヨタのカタログにも載っている半純正品だから、本当の意味での一物一価にはなりえない。今回はそこから一歩進んでディーラー個社単位で「専門装着品」開発を進めることを提案したい。「パーソナライゼーション」という顧客価値を自動車ディーラーが提供するのだ。

もっともディーラーが生産設備や開発リソースを持つ必要はない。同じように苦境にある内外装部品サプライヤーに商品企画を持ち込み、共同で製品化、商品化していくことで、顧客価値とビジネス効率の両立を図るのである。

サプライヤーの側からしたら一ディーラーの単位で商品の開発、生産を請け負うなどビジネス効率上とんでもないことに違いない。

だが、それはあくまで現在の開発・生産システムを前提にした場合の話だ。
放っておいても内外装部品サプライヤーの開発・生産システムは今のままでは成り立たなくなる。先に見てきたとおりいずれ中国製品の攻勢が始まり、それを自動車メーカーも期待、歓迎しているのだから。

そうなる前に日本市場に立地する日本企業ならではの強みを発揮できる開発、生産体制に作り変えなければならないのだ。そして、そのキーワードはおそらくスピードと柔軟性であり、具体的な打ち手は小ロット開発、小ロット生産であろう。海外企業が日本市場のニーズを汲み取って製品供給を始めるまでにはタイムラグがあるし、労務費の割合が必ずしも高くない自動車部品で輸入品が輸送費も含めた総コストで競争力を持つためにはロットのまとまりが必要になるからである。

多くの企業が多能工化・セル化と段取り替えの早期化で小ロット生産には多くの成果を上げているはずだが、今後は開発の小ロット化への取組みが重要になるだろう。具体的には、デジタル・エンジニアリングとラピッドプロトタイピングを本格的に活用して、試作、金型製作、実験に関わる投資を極力小さくしていく必要がある。

そして、ビジネス効率の面から輸入品が手を出すことの出来ない小ロットの開発・生産ニーズに即応できるスピードと柔軟性をこそ日本の内外装品サプライヤーの輸入品に対する差別的優位性とするべきなのである。

そのとき自動車ディーラーと内外装品サプライヤーのアライアンスは大きな効果を発揮するだろう。顧客との最前線にいる自動車ディーラーは、「やらなければいけないこと(顧客や市場に対して提供すべき価値)」は分かっているが、技術・設備を持っていないから「できること」(ビジネスとして成立させるための効率要件)は限られている。逆に技術と設備を有するサプライヤーには「できること」は多いが、顧客に直接対峙していないために「やらなければいけないこと」が分からない。両者のアライアンスは、お互いの強みと弱みを相互に補完する関係になりうるからだ。

もちろん、製品保証に関わる責任の負担や収益の配分をどうするか、自動車メーカーの反対をどう克服するか、など乗り越えなければいけない課題は多いが、少子高齢化時代を迎えた日本のものづくりと販売の現場を今後どのように維持していくかを議論していくための叩き台として一石を投じてみたい。多数の対案、改良案をいただくことを楽しみにしている。

<加藤 真一>