アライアンス活用によるイノベーションの効用と課題

(オリックス自動車、オートバックスでリース車無料整備)

オリックス子会社で自動車リース最大手のオリックス自動車は、オートバックスセブンと個人向けリース事業で提携する。今年秋をめどにリース車両の整備や車検などをオートバックス店舗で無料で受けられるようにするほか、店舗で自動車リースの販促を始める。 個人向け自動車リース事業の拡大を狙うオリックスと、カー用品販売以外を強化したいオートバックスの思惑が合致した。

<2005年 06月 29日付日本経済新聞朝刊掲載記事>

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【日本の個人リースの課題】

米国 20.1 %対日本 10.4 %。新車販売におけるリースの浸透率である。米国では同時多発テロ以降に販売促進手段として金利 0 %等の超低金利ローンが普及したこともありリース浸透率が漸減傾向にある。一方、日本では過去 10年間のうち 3 ヶ年を除いて一貫してリース浸透率が上昇してきたことからギャップはかなり縮小してきたものの、まだダブルスコアの開きがある。

この差は個人リースの浸透率の差によるところが大きい。フリートと呼ばれる大口法人の総保有台数(700 万台)におけるリース浸透率は日本 27.9 %(オリックス自動車 HP)に対して米国は 2001年末で 21.7 %(弊社推計。パトカーや消防車などを除き、日本のフリート概念に近いもののみを抽出したもの。)にとどまる。一方、ノンフリート(個人と中小法人)のリース浸透率は日本 1.1 %(オリックス自動車 HP)に対して、米国は 20 %を超えている。

日本のオートリースは、法人需要においてはリース最先進国の米国と同等かそれ以上に普及しているのに対して、個人リースは未開拓の市場なのである。

なぜ日本では個人リースの普及が遅れているのか、税務上の違いはないので、その原因として次の6つが指摘できる。

(1)日本のオートリース会社は個人リース用の営業基盤が不足している。
(2)日本では売る側も買う側もオートリースに関する商品知識が少ない。
(3)日本のオートリース会社は個人に対する与信・回収ノウハウが不足。
(4)日本では将来の残存価格に関する指標がなく商品設計ができない。
(5)日本では中古車相場価格が低すぎて魅力的な商品設計ができない。
(6)日本では自動車メーカーがオートリースに積極的でない。

上記(1)についていえば、トヨタの 4 つの販売チャネルの中では最も少ないトヨペット店ですら全国に 1000 以上の営業所と 28 千人の従業員を配置して個人の新車需要をカバーしている。これに対して、オートリース業界トップのオリックス自動車ですら営業拠点は 47 ヶ所、従業員数は 1800 人弱である。

新車購入を検討している個人に対してオートリースという選択肢を提案していくにはオートリース会社の営業基盤はあまりに小さく、少ない。

それがゆえに従来オートリース会社の個人リース営業はインターネットを使うか、代理店を起用したものが主体であった。だが、自動車という商品自体がウェブ上で売買されることがまだ少ない中で、上記(2)の通り多くの個人にとって商品知識のないオートリースの主要販売チャネルをウェブとすることには無理がある。代理店経由とするにしても代理店自体に上記(2)の通り商品知識が欠けているわけで個々別々に代理店教育を施していくための工数も並大抵ではない。また、個人の側は代理店の存在や所在を知らず、代理店側はホット顧客の所在を知らないから代理店経由の顧客開拓力は限定的である。

【アライアンスを活用した課題克服】

こうした欠点を補ってオートリース会社が個人リース需要を開拓していくためにカー用品チェーンとアライアンスを組むというのは合理的な戦略である。

第一に、全国 500 店舗は個人向けの営業基盤として魅力的な上に、本部のスーパーバイジング機能を活用して効率的な教育が可能である。

第二に、日常個人ユーザーが出入りし、ポイントカードやオイル交換を通じて本人や所有車の属性や履歴を把握しているから、ホット客を把握しやすい。

第三に、サービスピットを有するところも多いので整備ネットワークとしても活用できる。

一方、カー用品チェーンの側では、成約に応じた手数料収入とともに、整備手数料を獲得できるし、サービス入庫時に用品の販売機会が生まれることへの期待もあると思われる。アライアンスとしては上手い組み合わせである。

上記(3)~(5)の問題は未解決のまま残るが、(3)は実績の積み重ねで時間と共に身に付いていくものである。(4)は米国の ALG (Automotive LeaseGuide)に相当するベンチマークがないことがリスクではあるが、これも実績の積み重ねで逆に自らがパイオニア、デファクトになれる可能性も秘めているのである意味でオポチュニティということもできる。(5)はリスク・テイキング能力次第、オフリース車の処分能力次第では魅力的な商品設計も可能である。国際相場から見て割安なのだからオフリース車を輸出に回す、オークションを通さず個人に再販する等の施策を前提にした残存価格設定は可能であろう。オリックス自動車の場合、自社の入札会やガリバーのウェブオークションへの出品経験が活かされる可能性がある。

私たちは従来、日本の基幹産業である自動車業界の他産業との比較における生産性の低さ、イノベーションの遅さを懸念し、その問題提起と打ち手を訴えてきた。その懸念は必ずしも自動車のものづくりに関わることだけでなく、流通・サービスについても同様の懸念を持っており、解決策の一つとしてアライアンス、それもクロスボーダー型(この場合は異業種間の)アライアンスを主張してきた。今回の場合は、クロスボーダー型アライアンスの活用による新市場の創出に相当し、自動車流通領域におけるイノベーションの一つだと歓迎したい。

【潜在的脅威への打ち手という課題】

しかしながら、アライアンスによる新市場創出に成功したとしても、それだけで勝者になるとは限らない。とりわけ一定の成功を収めた場合に新規参入の脅威は避けられず、早期に参入障壁を築くことが求められる。

第一の脅威は、他のオートリース会社による模倣である。全国レベルで営業ネットワークを持つ自動車関係企業はカー用品店だけではない。例えば、全国に 500 店舗を有する買取チェーン、ガリバー・インターナショナルと提携するオートリース会社が出てくると、そちらの方がより強力なものになるかもしれない。

カー用品チェーンへの来店客は必ずしも自動車買い替えの意思を持っての来店ではない。寧ろ現在のクルマの継続所有を前提とした来店であろう。ところが、買取チェーンの顧客は現在のクルマを手放すことを前提とした来店であり、その後には代替の具体的意思・予定を持っている最もホットな顧客である。

そのホット客を新車ディーラーよりも先に捉まえることのできる唯一の場所が買取チェーンということになるから、営業面での成果が出やすいといえる。

第二の脅威は、自動車メーカーの本格参入である。上記(6)で述べたとおり、日本で個人リースが普及していない理由の一つが自動車メーカー自身の非積極性である。米国でも、個人リース市場を創出したのは、GE キャピタル、CITI バンク、ワールド・オムニ等の独立系金融機関であったが、その殆どが自動車メーカーの金融子会社との競争に敗れて撤退していった。自動車メーカーの潜在的能力はそれだけ高いのである。

というのも、自動車メーカーにとってオートリースを活用する意義・価値はかつて本誌で長谷川が述べていること(下記 URL 参照)に加えて、実質的なワンプライス化が可能になり、全国統一宣伝が打ちやすくなりグループ全体での宣伝費を圧縮できること、価格交渉を省くことができるのでクロージング・プロセスが短くなること、販売店ごと・営業マンごとの成約率のムラが均質化できること、従って教育コストが減ること、値引き競争によるブランドイメージや中古車相場の低下を抑えられること、うまくマネージすればインセンティブよりも割安な販促手段になること、など枚挙に暇がない。

https://www.sc-abeam.com/mailmagazine

従って、自動車メーカーが本気になった場合は、バリュー・チェーン全体での収益力や効用を活用して残存価格や金利で独立系オートリース会社には太刀打ちできない水準の設計をしてくることが予想される。しかも、営業基盤の厚さという優位性は不動のものである。

市場のパイオニアは、これらの脅威を未然に防止する策を早速にも打ち、パイオニア投資のリターンを確保しなければならない。

第一の脅威に対しては、例えば顧客リスト、CRM (カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)が武器になるような工夫をしたい。買取チェーンの顧客はホット客ではあるが多くは一過性、一回切りの顧客であり、来店予定も予想が付かない。これに対して日頃オイル交換や用品販売を通じて付き合っているカー用品チェーンの顧客はホットではないが、働き掛けの機会や方法は多様にある。そこを強みとする戦略、運用が有効ではなかろうか。

また、買取チェーンはサービスピットを持っていない。メンテナンスに焦点を当てた商品設計やサービスが有効だと思われる。

第二の脅威に対しては、自動車メーカーが政策的にできないこと、やらないことに目を向けることが有効であろう。まず自動車メーカーが絶対にできない、やらないこととは、他銘柄車との併売である。複数の銘柄の中から顧客にとって最も有利な商品を中立的にアドバイスできるコンサルティング力があれば強みになるだろう。また、非純正のアクセサリーを使ったカスタマイズも自動車メーカーの営業現場ではやりにくい部分であり、カー用品店との提携が威力を発揮しやすい部分でもある。

アライアンスを活用したイノベータに喝采を送るとともに、パイオニアとしての投資リターンを確保するための次なる戦略展開を、他の事例にも共通の普遍的課題として提起したい。

<加藤 真一>