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コラム

自動車ショールームにスターバックスを併設してデッド・ス…

◆自動車ショールームにスターバックスを併設してデッド・スペースをプロフィット・センターに

<2005年1月31日付Automotive News掲載記事>
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米国では自動車のショールームに行くことを歯医者に行くこととなぞらえることが多い。いずれも必要に迫られて行くところであり、そうでなければ行かずに済ませたい不快な空間という意味である。後者は物理的不快感なので、精神面では自動車ディーラーほど不快な場所はないのかもしれない。

Automotive News がリポートしているのは、ハリウッドの北東に位置するVan Nuys という街のディーラーが コーヒーチェーンのスターバックスをファシリティー内に誘致して成功しているという話である。(Van Nuys というのは、かつて店舗の開発・指導の任にあって南カリフォルニア一帯を巡回していた筆者には郷愁を感じさせる人口 3 万人程度の小さな、でも比較的教育程度の高い裕福な高齢者が多く住む美しい街である。だが、近年外部からの流入も多く、犯罪が急増しているのが残念である。)

今回はこの記事を題材に、「自動車ディーラーにおける異業種との店舗相乗りのあり方」を考えてみたい。

【異業種との併設店舗の目的】

コーヒーショップが異業種と相乗り店舗を構える事例は日本でも珍しくない。ガソリンスタンドにドトール・コーヒーが併設されていたり、銀行や病院との相乗り店舗も見かける。

だが、自動車ディーラーとの相乗り店舗は米国でも珍しいようだ。実際、記事に出てくる Van Nuys のディーラー Galpin Motors (以下ガルピン社)も当初はコーヒーチェーン本部各社に相手にされなかったらしい。スターバックスは勿論、シアトルズ・ベスト・コーヒー、コーヒー・ビーン・アンド・ティー・リーフ等からも断られている。冒頭述べたような理由(顧客満足で最悪の業種という烙印)により自動車ディーラーに暖簾を貸し出すことをコーヒーチェーン側が敬遠しているのである。ガルピン社は断られ続けながらもスターバックスのライセンス取得に拘り続けた。

一体、ガルピン社がスターバックスに拘った理由、目的は何か。お金の匂いに敏感な米国のディーラーのことだから「ブランド・イメージの向上」といった漠然とした目的ではないはずだ。

記事の中でガルピン社は、「ショールームのデッドスペースのプロフィット・センター化」が目的だったと触れている。確かに、スターバックス・コーナーは「非常に収益性がいい」と同ディーラーは満足しているからそれこそが目的だったのかもしれず、しかも目的は達したことになる。

だが、少なくとも日本で同じ目的、動機から異業種との併設店舗に走るとしたらかなり無謀だと言える。

以前、本誌に連載していた「ISM (インストアマーチャンダイジング)入門」に詳しいことは譲るが、日本の自動車ディーラーは小売店頭での価値工学面で本来やれること、やるべきことが多数あるのに出来ていない。その最大の理由に十分な土地を確保できないことが挙げられ、だからこそ限られた土地の有効活用が使命になっている。ガルピン社のようなデッド・スペースがあってはならないし、万一あるならば本業に有効活用することをまず考えるべきである。

そこで日本流に自動車ディーラーにおける異業種との店舗相乗りの目的や意義と考えられるものを列挙し、順番にその検証をしてみたい。

【宣伝広告費との比較考量】

通常、AD の効果(従って予算も)は、リーチ(どれくらいの範囲の潜在顧客層に届くか)X フリークエンシー(どれくらいの頻度で潜在顧客層に届くか)で測定される。また、AD の最終目的はショールーム・トラフィックの創出である。

ガルピン社はスターバックス誘致の結果、「それがなければ足を運んでくれなかった客層が来店するようになった」としているので、スターバックスによりリーチが拡大し、ショールーム・トラフィックが創出されたという意味で AD と同じ効果を持ったことになる。
では、スターバックスの開設・運営と、新聞折込チラシやラジオ AD はどっちがより効果的・効率的なショールーム・トラフィック創出手法だろうか。

第一に、ショールーム・トラフィック創出のコストを考える必要がある。スターバックスの設備への初期投資・ロイヤリティ・原材料原価がどの程度のものか筆者は知らないが、少なくともディーラー従業員の兼務は認められず、専従従業員を雇用して本部の研修を受講しなければならないし、本部の定期的なミステリー・ショッパーの監査に耐えられなければライセンス返上になるというから相当本腰を入れて望む必要がある。

ガルピン社では、「サッカーママ」と呼ばれる小さな子供を持つ母親たちが学校や習い事に送り届けた後に来店し、そこで見付けた Volvo が意外に安いことに気付いて買ってくれるようになったというが、それらサッカーママを店頭に呼び込むための投資としてチラシの部数拡大と、スターバックス開設・運営のどちらが安く、効果的かは見極めなければいけない。

第二に、ショールーム・トラフィックの質を考えなければいけない。
コーヒーを飲みに来る来店客が幾ら増えても自動車に興味や縁がない客層ばかりが集まったのでは、クロージングに繋がらない。
AD の目的はショールーム・トラフィックの創出だと述べたが、これは新たに創出されたトラフィックが既存のトラフィックと同じクロージング率を持つ場合の話で、疑義がある場合は「クロージング 1台あたりいくらの費用を投じたか」で検証してみなければいけない。

ガルピン社は(サッカーママの Volvo 購入効果?)「スターバックス効果による販売台数増は毎週 1台」と言っているが、同社の販売台数は毎月 500台である。月間 1% の販売台数増達成のために掛けた費用を考えれば、それが同社にとって意味のあるショールーム・トラフィックだったかどうかが分かる。

以上二つの点は総合すると、「質の高いショールーム・トラフィックを AD よりも安く創出できるかどうか」ということになるが、この点で成功しているかどうかはガルピン社ですら疑わしいし、まして土地の制約が高く、駅前型立地のコーヒーチェーンと郊外型・街道立地の自動車ディーラーでは顧客層が異なる日本では AD の方が安上がりで済むことの方が多いように思われる。

【納車・引取り費用の削減効果】

これはあまり日本には当てはまらないかもしれないが、米国ではサービス(点検、整備、補修)の利用客は朝ディーラーまで自動車を運転してきて、夕方また引き取りに訪れる。そのため、ディーラー側は顧客に代車を用意するか、会社とディーラー間の送迎車を出すことが多い。

スターバックスを誘致し、その店内にインターネット・アクセスを設けることにより、顧客の何割かは会社に戻らず店内でコーヒーを飲んで仕事をしながらサービス完了を待つようになったので代車や送迎車に関わるコストを削減できたという。

日本に応用するなら「納車・引取り」作業の削減効果だろう。日本では、ディーラーが自宅まで引き取りと納車に来るのは当然という風潮が根強く、なかなか顧客来店型への切り替えが進まないが、納車・引取り費用の徴収と同時に来店客に対するスターバックス一杯無料券の贈呈により来店を促す方法が考えられる。

異業種併設の主目的とはなりえないが、併設時の付加価値としての効果は日本でも認められると考えられる。

【間接費を削減しながら顧客満足を向上させる効果】

米国のディーラーにコーヒーが置いてなかったわけではない。待合室にはコーヒーポットが置いてあり、誰でも自由に無料で飲めるようになっている。
また、日本ではショールームのテーブルに着くとフロアレディーが飲み物(無料)を入れてくれる。

もしスターバックスが併設されていれば、無料のコーヒーを入れるための間接費を軽減しながら逆に顧客満足度を向上させることができるかもしれない。
ただとはいえ名もないまずいコーヒーを飲まされるのではなく、本来お金を払ってでも飲みたいコーヒーをセールスマンが「このくらいは私に払わせてください」といって運んできてくれた方が顧客は嬉しいからだ。

これも異業種併設の主目的とはなりえないが、併設時の付加価値としての効果は日本でも認められると考えられる。

【コーヒーチェーン併設が向いているケース】

上記で見てきたとおり、「納車・引取り費用削減効果」や「間接費削減と顧客満足向上の効果」は日本でも認められるもののそれだけで異業種併設の投資対効果としては十分ではない。最終的には「宣伝広告」と同じく「質の高いショールーム・トラフィック創出効果」が経済的に見合うかどうかが焦点になるので、全ての自動車ディーラーに有効な手法とは言えないだろう。
限定的に効果が認められそうなケースを洗い出してみたい。

1. 地方ディーラー
土地の自由度が高く、移動が自動車中心の地方では、都市に比べてディーラー側にも異業種誘致の余地があり、顧客層の重なりも期待できる。コーヒーチェーン側も単独出店のリスクを軽減しながらフロンティア開拓できるメリットを感じる可能性がある。有名チェーン未進出地域なら物珍しさ、地域唯一の出店として広範囲からの集客が期待でき、広域 AD よりも効果が大きくなる可能性がある。

2. 輸入車ディーラー
ガルピン社の Volvo のケースと同様、顧客の認識している価格が実際の価格よりも高いということが輸入車の場合はありうる。特に輸入車の場合は、インポータ自身の宣伝広告が少なく、また宣伝で価格を訴求できない弱みもあるので AD だけに頼るよりも実際の製品、価格を見せる方が効果的な場合があるだろう。

3. 宣伝広告だけでは価値が伝えにくい商品
本誌 Vol.48 にて秋山が「スバル・ R1 は昨今の軽自動車とは異なる価値を追求しようとしているクルマ」だと言っているが、その価値は直接見て、触ってみなければ伝わらないと思う。
http://www.sc-abeam.com/mailmagazine
日産ティアナ、マツダ・ベリーサ、トヨタのアルカンターラバージョンなどは内装の質感を売りにする製品だが、その質感とは触覚や嗅覚に訴える部分で、いくら TV や雑誌を見ても伝わってこない。日産ティーダのシーマを上回る実用空間の広さも体験しないと評価できないものである。こうした商品は AD の支出をやたらに増やすよりもできるだけ実車に触れる機会を沢山提供すべきだと思う。

4. 三菱ディーラー
4 つの理由がある。
第一に、圧倒的にフロア・トラフィックが不足していること。
第二に、AD ではそれがなかなか創出されにくいであろうこと。
第三に、接すれば従業員の誠意が伝わるであろうし、接しないと難しい事。
第四に、ディーラーとして自動車販売以外のプロフィットセンターが必要とされること。三菱車販売へのフォーカスは下がるかもしれないが、他ブランドにフォーカスを取られるよりはましである。

【コーヒー・チェーン以外との相乗り店舗】

繰り返しになるが、コーヒーチェーン併設で創出が期待できるショールーム・トラフィックは、自動車ディーラーの求めるそれとは必ずしも一致しないこと気になる。もちろん、パチンコ店やコンビニよりは近いだろうが。
本当は、ブランド・メッセージ、顧客層が重なり合い、お互いが並び合っていることで顧客にブランドの価値や使用シーンのイメージが明確になったり、拡張したりするような業種との提携の方が望ましい。

代表的なものは、本誌 Vol.31 にて秋山が触れているような、ブランド・コラボレーションが成り立つ関係で、SUV や RV とマリン・アウトドア系ショップとの相乗りであればシナジーが効きやすい。

http://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/1706.html

トラフィック増大という目先の効果に安易に走らず、自社の置かれた立場や戦略を踏まえて目的・効果をきちんと整理・定義した相乗りショップが登場してくれば自動車小売シーンもずいぶん面白いものになるだろう。

<加藤 真一>

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