Bosch、GMが自社の戦略を発表

<Automotive News 10月11日号>
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本誌 Vol.32 (https://www.sc-abeam.com/library/)にて、テレマティクスの進化方向が日米欧三極で異なることを引き合いに自動車メーカーが地域ごとの多様性に対応し始めたこと、従ってサプライヤーにとっても地域別に開発機能を持つことを検討する価値が生まれてきたことを指摘した。

10月11日付けの Automotive News にこれと同一ベクトル上にある記事と、真反対とも思われる方向性の記事の双方が掲載されていたので引用する。

一つは、先月 J.D. Power and Associates と同誌が開催したパリの国際会議の席上で、Robert Bosch の自動車ディビジョンのトップである Bernd Bohr 氏が述べた以下のコメントである。
「ワールド・カー等というものはこの世に存在しない。日米欧三大市場は全く異なり、その違いが設計に影響を与える。燃料コストが極端に安い米国ではSUV を運転することが好まれるが、欧州や日本では小型車が席巻している。欧州の規制は CO2 の排出に関心が集まるが、日本では安全、米国では燃費が関心事である。ディーゼルのパワー・トレインの開発は欧州では重要だが、北米はガソリン・エンジンに集中しており、日本はハイブリッドを開発している。購入動機すら市場ごとに異なり、米国ではコスト、欧州では伝統、日本では品質が購入の動機付けになる。」「Bosch は、地域ごとの多様性(Regional Difference)を持つ自動車コンポーネンツの開発を続けていく。」

もう一つは、GM の北米エンジニアリング・シニアバイスプレジデントの JimQueen 氏が同誌に語った内容である。
「従来、GM はアーキテクチャー(※)内での部品共通化を進めてきたが、(中略)グローバル生産システムの進捗とともに GM はアーキテクチャーを跨るもっと大掛かりな部品共通化を進めていくことになる。」「今日我々と一緒に仕事をするサプライヤーが 6 社あるとしたら、部品共通化に向けて動き続けることで将来は(各コンポーネンツにつき)必要なサプライヤー数は世界で 2社のみということになるかもしれない。」「アーキテクチャー間でのコンポーネンツ共有の結果、GM は大量購買が可能になり、よく仕事をするサプライヤーは量的拡大により非常にハッピーになる。」

※「アーキテクチャー」とは、他社ではプラットフォームにほぼ相当する GM用語である。Automotive News 誌の解説によると、「コンポーネンツや性能特性、生産プロセス、ディメンション(寸法)や主要コンポーネント・システムの結節点」を共有する製品群とされている。例えば、「シータ」アーキテクチャーには Saturn Vue や Chevrolet Equinox が含まれ、「イプシロン」アーキテクチャーには Opel Vectra や Signum、Saab 9-3、Chevrolet Malibu、PontiacG6 等が入る。

Bosch のコメントは地域ごとの多様性を踏まえた商品開発が自動車メーカーにもサプライヤーにも求められるというものであり、一方、GM のコメントは寧ろワールド・カー路線を一層追求していく上で同一部品の世界供給体制こそがサプライヤーに求められる役割だと言っているように聞こえる。

この一見正反対の考え方のどちらが世界の潮流で、サプライヤーの立場ではどちらに重きを置いて今後の戦略を構築していくべきだろうか。
筆者は、実はこの両者は同根で、結局求められるのは地域ごとの多様性に応じた開発・生産能力だと考える。しかし、同時にビジネスの細分化に耐えられるだけの開発の効率と生産の柔軟性を持つことがその前提となり、そのために自動車メーカーも(一社あたり取引量の拡大を通じて)ある程度間接的に支援する用意はあるということだと理解している。

というのも、仏ニースで開催された GM のグローバル・セミナーで同社の副会長 Robert Lutz 氏が以下のようにコメントしたことを Automotive News 誌が報じている。
「GM が狙っているのは製品とプラットフォームの柔軟性の最大だ。将来は世界中どこでもどんなものでも作ることのできる柔軟性が欲しいのだ。」「我々は右ハンドルでも左ハンドルでも、ガソリン・エンジンもディーゼルもどちらにも対応できるアーキテクチャーへのクイック・アクセスを欲している。」

GM の言う地域ごとの多様性への柔軟な対応とは、未だに右ハンドル化やディーゼル・エンジンのラインナップどまりの話かと思われるかもしれない。
それらは単に話をシンプルにするためにシンボリックに例示したものに過ぎず、GM も本当はもっと広く深いレベルでの多様化を考えているのかもしれないが、いずれにしても日欧ほどには多様化の意識が高くないのは事実であろう。
しかし、逆説的だが、多様化していないことこそが米国の地域性であり、米国がそのような地域性を持つこと自体が世界の多様性であるとも言える。

Bosch が指摘するような日欧市場とは異なる米国市場の地域性を言い換えれば、多品種多量生産という本来両立しない二つの概念を両立できる懐を持った世界唯一の市場に生まれ、それをリードしてきた BIG3 には多様化を必要としないというアドバンテージがあり、そのようなアドバンテージを持たないが故に多様な市場進化をしてきた今日の日欧市場と比較すると多様化が進んでいないという地域性が顕著であるということだと思う。

サプライヤーの立場で認識しておくべきことは、日米欧の自動車メーカーの考え方は斯様に多様であって、それぞれの考え方を意識した戦略や付き合い方が求められるということである。これはビジネス効率としては非常に悪い。
しかし、それはどの地域のどのサプライヤーにも公平に割当てられた足枷であって、日本のサプライヤーだけが不利だということではない。同じ条件の中で少しでもビジネス効率を改善させた企業が勝つというだけのことである。
また、課題も上述であげた開発効率と生産の柔軟性だけではない。無理なグローバル化を避けて特定の地域に特化集中するのも(一般にはかなり不利ではあるが)一つの戦略だし、何でもかんでも自前主義で行くのではなく地域ごとあるいは製品ごとのアライアンスやアウトソースを活用する方法もあろう。

<加藤 真一>