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コラム

ホンダ、2005年から始まる新しい新中期事業計画へ向けた方

◆ホンダ、2005年から始まる新しい新中期事業計画へ向けた方向性を発表

<2004年 7月 15日号掲載記事>
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トヨタのビジョンや日産の中長期戦略に比べて、ホンダの中期経営計画が注目されることはなぜか少ないようだ。(そういえば、書店のビジネス書コーナーでもトヨタ、日産に比べてホンダ関係のものを目にすることも少ない。)

3~ 4年おきに発表される企業の中期経営計画とは、いわば経営のフルモデルチェンジである。ホンダほどのコーポレートブランドと業績の会社のフルモデルチェンジがあまり注目されていないというのは不思議ではないか。

そんな思いを持ちながら、今回のホンダの新中期事業計画を読んでみて理由が分かった。確かにアナリスト的、ジャーナリスト的には面白みに欠けるのだ。

今回のホンダの中期経営計画を一言で言えば、以下の 3 点に集約されよう。
(1)SED (販売、生産、開発)各機能におけるホンダフィロソフィーの源流強化と、各機能の統合の一層の推進、
(2)マトリックス組織の中で主導的地位にある地域軸(地域本部)の役割・責任の一層の強化と、それを活かした地域課題の一層の遂行、
(3)マトリックスのもう一方の軸である世界本社側の機能軸、日本のマザー機能の強化による全体最適の追求。

因みに、上記(2)の地域課題とは、各々次の通りである。
<日本>ミニバンの新規・追加投入とディーラー体質強化、ブランドロイヤルティ向上。
<北米>乗用車およびトラックの未進出セグメントへの商品展開、現地生産拠点のフレキシビリティ向上。
<欧州>ディーゼルラインナップの強化、同エンジンの生産体制の強化。
<中国>生産能力の急増強と、販売網の整備。

「アナリスト的、ジャーナリスト的に面白みに欠ける」というのは、これらが戦略性に欠けるとか、各地の課題に独自性が足りないという意味ではない。寧ろ、ホンダの戦略が過去ずっと一貫しており、従って、第 9 次となる今回の中期経営計画もその延長線上にあって決して奇抜な何かが打ち出されたものではないことを指す。

商品コンセプトや技術で新奇性、斬新性を打ち出す同社が、経営のモデルチェンジにあたっては、いわゆる「キープコンセプト」であるというのは同社の際立った特徴である。
変わっていくもの、変えるべきものと、変わらないもの、変えるべきでないものが峻別されているところに同社の強みがあると思うのである。

そこで、1948年の会社設立以来、ホンダが変えずに来たもの、変えてきたものがどんなものだったのかを振り返ってみることにしたい。本田の歴史は大きく 3 つの時代に分けられると思われる。

第一期は、言わずと知れた本田宗一郎氏、藤澤武夫氏の二人三脚による創業期で、1948年9月から両名が退任される 1973年10月までの 25年間が相当する。この間に、米国進出(1959)、四輪進出 (1963)、F1 参戦(1964)も果たされている。

第二期は、第一次石油ショックの年であり、シビック CVCC 発売の年であり、河島喜好氏を筆頭とする 4 専務が経営を引き継いだ 年である 1973年から、バブル崩壊と急激な円高の中、販売面、業績面で最大の危機を迎えた 1993年までの20年間である。
この期間中に、シビック、アコード、プレリュードをコアにした商品体系、販売体制が世界的に整備され、欧米での現地生産も開始されている。F1 への再参戦と勝利も果たし、四輪車メーカーとして「世界のホンダ」が構築された時期である。

第三期は、その後 1993年から現在までで、オデッセイ以前と以後とも言える。第二期に「世界のホンダ」として飛躍し、特に米国ではトヨタを上回る成功を収めたことから、「本社を米国に移転するのではないか」という噂が出るほどであったのに、1990年代初頭には「三菱自動車との合併説」まで出るほどの苦境に立たされた。そこから驚異的な復活を果たしたこの 10年間を指す。 商品面では、オデッセイ(94年 10月)、CR-V (95年 10月)、ステップワゴン (96年 5月)、S-MX (同 11月)と立て続けに新型クリエイティブムーバー(生活創造車。要 RV)が投入された時期である。

この三期を通じてホンダが変えていないものは何か。

「三つの喜び(造って喜び、売って喜び、買って喜ぶ)」と「人間尊重」をうたう基本理念、「世界的視野に立ち、顧客の要請に応えて、性能の優れた、廉価な製品を生産する」に始まり「顧客の喜びと、会社の発展、従業員と株主の幸福、関係会社の興隆、日本の工業技術水準の向上、社会貢献」を同一線上に置いた社是、「常に夢と若さを保つこと」「理論とアイデアと時間を尊重すること」など 5 項目の運営方針、それら3つ(基本理念、社是、運営方針)で構成されるホンダ・フィロソフィーである。

また、現場では本田宗一郎氏の「やってみもせんで」「金を使うより知恵を使え」「機械は最高スピードで選べ」という口癖に植えつけられた、最少設備投資での最大活用、汎用化の伝統も変わっていない。既存設備の共用、他車種との部品共有化、ハーフサイズプロダクション、設備機械のカスタマイズ、世界共通フレキシブルプラットフォーム等。フレキシビリティーと生産性を両立させる生産技術は伝統芸である。

「世界に市場を求め、需要のあるところで生産する」という思想も不変である。生産だけでなく、開発も需要地に持っていくのがホンダ流である。
「地域社会との密着」や「技術面での差別的優位」への拘りも同様だろう。

では、変えてきたものは何だろうか。実はこれが第一期と第二期、第二期と第三期を隔てるものであり、それは組織構造に現れている。

第一期になくて第二期にできたもの、それは「SED 一体体制」と「PDCA サイクル」である。

販売、製造、開発が一体となって商品企画段階から一緒にワイガヤで仕事を進めていく「SED 一体体制」は創業期からの伝統のように思われがちだが、創業期には本田、藤澤の二人の天才が司令塔となって物事が決まり、それで十分だった。二人の引退を機に集団指導体制を作る必要があったことと、CIVIC の前に鳴り物入りで投入された「H1300」なる一体構造二重壁空冷方式の戦略車が全く売れなかったことの反省から、72年に「企業体質を抜本的に見直し、全社的規模で改革を行う」ことを目的にした全社的プロジェクト、「NHP (ニューホンダプラン)」が河島氏をヘッドにしてスタートしている。
このときに提唱され、実行に移されたのが、「SED 一体体制」である。随分遅いようにも思うが、トヨタの工販合併は 1982年。他のメーカーでは現在でもSED 一体体制が(言葉はともかく)現実的にはあまり機能していないのを見ると、それだけでもホンダの先見性と優位性を感じさせるところである。

「PDCA サイクル」がそれまでなかったというと語弊があるかもしれないが、1950年代末のホンダにはクルマが出来た時の仕様書がなかった。「普通は仕様書ができてからスケルトンの順番だが、ホンダの場合はスケルトンが先だった。」と安藤吉之助氏が社内報に書いておられる。
また、「NHP」の 17 大プロジェクトのひとつ、「四 RPK」のエンジンのリーダーを努められた針谷忠郎氏が、「それまでのホンダには P と D の繰り返しで、C と A がなかった」と断言しておられる。「PDCA」も第二期になって初めて出来たのだ。
そもそも「中期経営計画」なる 3 カ年計画の第一次が登場したのが 1981年である。それ以前は C と A は勿論、P と D も現在のような形ではなかった。

次に第二期にはなくて、第三期になってできたもの。それが、現在の「地域を主とし、事業・機能を従とするマトリックス運営組織」である。
それ以前のホンダの組織は、製品(二輪、四輪、汎用)、機能(営業、生産、研究開発、管理)、地域(国内、北米、欧州等)が主従もなく、渾然一体となったものであった。役割や権限も分散していたわけで、それだけ本社の統合機能が重要だったということになるが、顧客の要望が小口化、多様化する中にあって、全てを本社でタイムリーに決定していくのはかなり難しい。
第三期は、上述したとおり大変な逆風の中でスタートしているが、その苦境を招いた最大の原因を顧客対応のスピードの遅さだったと反省して、地域に製品も機能も含めてほぼ全ての役割と権限を委譲した。本社は世界全体最適の調整役に一段降りたのである。
全社単位での「SED 一体体制」と「PDCA サイクル」を地域単位に移したということもできよう。

その結果、生まれてきたのが、上述の国内へのクリエイティブムーバーの相次ぐ投入であり、97年の世界四極別開発のアコード投入、北米の MDX やエレメント、タイのシティである。「ワールドカー」のコンセプトに固執せず、創業以来の基本精神である「世界各地の顧客満足」を追求し、「需要のあるところで開発、生産する」ことに立ち返り、それをフレキシビリティーと生産性を両立するお家芸で、収益性を犠牲にせずに実現することを目指しているのが、第三期なのだ。

エリシオン、エディックスと新しいクリエイティブムーバーの投入と、今回の中期経営計画を並べてみて、変えるべきものと変えるべきでないものを峻別した戦略を立て、それに基づいて着々と実行に移していくホンダの姿は頼もしいと感じた。欲を言うなら、商品以外の面、国内でのディーラー体質の強化と、ブランドロイヤルティーの向上策を実感できる形で提示していただければと思う。

<加藤 真一>

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