マツダ、生産現場の全120技能職を対象にした検定制度を20…

◆マツダ、生産現場の全120技能職を対象にした検定制度を2007年度にも導入へ
技能職の能力を正確に把握することで、成果主義型の人事評価に役立てる
<2004年4月06日号掲載記事>
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「熟練技能の継承」は、日本のモノ作りが抱える大きな課題である。
高度成長期に大量に現場に投入された熟練技能者の高齢化が進み、機械の耐用年数や設備更新の間隔が延長され、NC化・ロボット化等で工場の無人化が進んだことで、若手作業者が熟練技能を学ぶ機会が急速に失われつつある。
この局面で現場任せにしてしまうか、経営課題として経営がイニシアチブを取って具体的アクションに着手するかで数年後に大きな企業間格差を生むテーマであると考える。
製造業ではこれまで「技術による技能の置き換え」、即ち「職人芸を吸収して数値化し、機械に覚え込ませて人を減らすこと」に熱心であった。
世界的にも割高な人件費の削減や変動費化は重要な命題であったし、特定の技能者にしか頼めないブラックボックス的な仕事は品質の安定化や業務の平準化の上でも問題があると考えられていたからだ。何よりIT社会の到来により数値化・デジタル化の遅れは経営スピードや精密化競争での敗北を招くと考えられてきた。
そのため、自動車業界でもNC旋盤やMC、CAD-CAM-CAEやCATIA等の導入が進んだ。スキルからテクノロジー、 暗黙知から形式知へのシフトである。
ところが、皮肉なことにスピードを高めようとすればするほど、緻密さの単位がミクロンやナノやPPMに移れば移るほど技能の重要性が復権することになった。結局、人間の技能は100%数値化・機械化することはできず、人間に頼らざるを得ない面が多々あると認識されるようになったからである。
主には3つの問題点が挙げられる。
第一に、精密加工・検査の精度の問題。1ミクロン以下の寸法精度になると、加工精度の問題に加えて検査器具の精度が追い付かなくなる。特に複雑な曲面を持つ三次元加工などでは顕著である。人間の五感を使って音、色、匂い、触診などから総合的に判断しながら作業を進める方が遥かに高いスピードと精度が期待されることがある。
第二に、状況に応じた制御設計の問題である。いかに高度なCAD/CAMを使っても素材や工作機、とりわけ刃物が温度・湿度、使用条件や経年劣化、磨耗により収縮膨張(歪み・緩み、反り・戻り等)を生じるが、これらを予め全て予測して製品や機械、工程の完璧な設計を行うことは不可能に近く、可能であったとしても生産性は非常に低いものになりかねない。
また、工程設計にあたっては前後工程の作業性も勘案した設計が求められる。バランス出しや変成対応は人間の仕事であり、要求精度が高くなると一層重要になる。
第三に、トラブル対応の問題である。自動化を進めた時の人間の仕事は機械の不摺動などのトラブルを見付けて対応することにあるが、自ら五感を使った加工経験がないために異常を見逃したり、緊急時の対応策が打てないという問題が生じかねない。

こうしたことから「熟練技能」は、「デジタル的なロジックへの変換」の努力は惜しまないものの、それで全てを解決しようとするのではなく、一定の部分は「アナログ的に人から人へ継承すべきもの」という位 置づけになり、OJTや専門の技能者研修などを通じて技能伝承に着手する企業が現れている。筆頭は「デンソー工業技術短期大学校」を擁して技能五輪選手養成を進めているデンソーだが、マツダも96年から「卓越技能者養成コース」を設けて現場から切り離して技能伝承に専門的に取り組んでいる。

今回の記事は人事評価や検定制度に焦点が当たっているが、目的は技能伝承であり、人事考課や検定制度はそれを制度的に支援し、励みを与えるために求められる技能と公正な評価、その報酬を明確にするための手段として発展的に生れてきたものではないかと考える。
即ち、技能の明確化と公正評価の基準として検定制度を導入・活用しようという意図だと考えられる。国家技能検定制度のある技能については、それを援用する企業は多く、マツダも120ある技能職種のうち旋盤・フライス盤などの機械加工、製図など30の技能については国家検定を活用するが、エンジン・車軸・変速機の組み立て、車体溶接、溶接ロボットの調整など、残る90の技能については社内独自の検定制度を設けるという。
すでに40の技能に社内検定制度があるが、残る50についても2007年度までに検定制度を整備するというのが今回の記事である。

こうした地道な取り組みが企業の中長期的な競争力の源泉となり、日本のモノ作りを支えていくことになると思われる。拡がりを期待したい。

<加藤 真一>