ディーラー・企業統合における課題と解決策 -数字で見る歴史的変遷と施策案-

◆大阪スバルが10月1日に正式統合・新たなスタート

◆自販連兵庫支部、16日にOSS説明会を開催

<2006年11月15日付日刊自動車新聞掲載記事>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【大阪スバルと和歌山スバルの統合】

11月 15日付日刊自動車新聞に、大阪スバルと和歌山スバルの経営統合により誕生した、新生大阪スバルの社長インタビューが掲載された。

こうした経営統合は各種ブランドのディーラーで昨今積極的に実施されているが、その目論見は以下筆著メールマガジンにある通り、国内市場が飽和状態にある中で、自動車メーカー主導で傘下ディーラーグループの間接部門の共有化などを実施することで、結果的にメーカー傘下の企業グループ全体の流通コストを最小化するところにある。

「販売チャネルの最適化における今後の課題について」

事実、新生大阪スバルは統合により全国スバル販売店 No.2 の販売台数規模となるとのことだが、記事では台数掘り起こしを目的としたオペレーションの統一化とコスト削減の各種取り組みが説明されている。

【数字で見るディーラー企業統合の歴史】

住商アビーム自動車総合研究所では、自販連の依頼に基づき昨年より経営分析セミナーと称して、ディーラー経営者向けに講演を実施している。

ここでは、毎年自販連加盟ディーラー 1,300 社以上が提出するアンケートに記載される各種経営指標を多角的に分析したうえで、今後のディーラー経営の方向性に関する意見を提示しているが、今年は過去の企業統合の歴史を経営指標から読み取ったうえで、想定される課題と施策案の提示を試みている。

ページ数にすると 200 ページを超える内容となっているが、その骨子を簡単にご紹介したい。

1. 新車ディーラー市場規模の推移

新車、中古車、サービス・部品、その他手数料といった売上高の総和である市場規模は 14 兆円で、過去 5~ 6年はほぼ横這いで推移している。また、新車販売台数で見ても、500 万台弱(自販連加盟ディーラーのみの数字)で推移しており、市場規模は増加していない。

2. 市場参入企業数と拠点数

ディーラー企業数は 1999年度の 1,656 社から 2005年度には 1,311 社へと▲345 社・ ▲21% となった一方、拠点数は 17,348 拠点から 16,245 拠点へと▲6.4% のみとなっている。つまり、新生大阪スバルのケースと同様に法人レベルでの合併は実施されているものの、拠点単位での統廃合が進んでいるわけではない。

別の言い方をすれば、会社の数は 2 割強減ったものの、1 社当たりの拠点の数は具体的には、10 から 12 へと 2 割弱(小数点 1 位以下切捨て)増加しているということである。

3. 1社・1拠点当たり売上高/売上総利益の変化

企業数は▲21%、拠点数は▲6.4% となっているのに対して、1 社当たり・ 1拠点当たりの売上高・売上総利益の伸長率を見ると以下の通りとなる。

◆1社当たり売上高伸長率 +29.1%
◆1社当たり売上総利益伸長率 +23.6%
◆(社数減少率) (▲21%)

◆1拠点当たり売上高伸長率 +9.1%
◆1拠点当たり売上総利益伸長率 +4.5%
◆(拠点数減少率) (▲6.4%)

当たり前の話だが、総市場が横這いで市場参画企業数(拠点数)が減少すれば、その分 1 社(1拠点)当たりの取り分は増加する。

◎1社当たりの特徴

売上高・売上総利益共は社数の減少以上に 1 社当たりで増加しているが、売上総利益は売上高ほどには伸びていないのが分かる。

つまり、統合により、売上は確保できているが利益で見ると 1 社当たりは売上ほどは確保できていないということである。

◎1拠点当たりの特徴

これを拠点単位で見ると更に顕著である。

拠点数減少率▲6.4% に対して、1 拠点当たり売上高は +9.1% と上回っているものの、1 拠点当たりの売上総利益は +4.5% と拠点数減少率を下回っている。つまり、拠点単位での利益(売上総利益、即ち商品の仕入れ・販売に伴う利益が中心)は寧ろ減少しているということが分かる。

4. 拠点当たり固定費の変化

今度は、拠点当たりの固定費を見ると削減率は▲0.9% となっており、固定的な費用は拠点単位で掛かるという意味で殆ど削減は出来ていない。

しかし、固定費を、1)人件費と 2)その他一般管理費に分類すると、1)の人件費は▲3.9% となっており(実はその内訳を人件費単価と人数に分類すると、両方の削減に成功している)、より少ない人数及び人件費単価で 1 拠点を回す努力の跡が見て取れるものの、2)のその他一般管理費は寧ろ +7.3% と増加している。

2)のその他一般管理費の中で一番増加しているのが、施設費と減価償却費といった、店舗投資に関わる費用である。施設費は +88.8%、減価償却費が +15.6%となっている。

5. 拠点当たり変動費の変化

変動費については、市場全体での増加に加え、拠点当たりでも増加傾向にある。
これは、市場飽和状態の中で何とか販売を増やすために販売関連費用を費やしているという状況を表している。

しかし、販売費をカバーすることを目的としてメーカーから後付けで支給される車両手数料(所謂メーカーインセンティブ)は寧ろ全体で▲7.2%、拠点単位でも▲0.9% と減らされていることを考えると、販売費は増やさざるを得ないがメーカーからの支援は減少傾向にあり、ディーラーの視点から見れば厳しい状況であることは間違いない。

【拠点統廃合による収益項目の変動】

それでは過去の拠点統廃合により、拠点単位の新車、中古車、サービス・部品、インセンティブ、各種収入手数料といった収益項目がどのように増加したのかを、同じく’99年度と’05年度との比較で見てみたい。

1. 新車売上総利益

拠点数が▲6.4% 減少したのに対して本来拠点単位では増加して欲しい新車売上総利益は逆に▲6.6% 減少している。内訳を見ると、拠点当たりの台数は伸びているものの、台当たり粗利の減少が著しいことによる。

2. 中古車売上総利益

中古車については拠点当たりの売上総利益が +34.6% と大幅な増加を示している。
但し、同じく台数x台当たり粗利で見てみると、台数は寧ろ減少、台当たり粗利が大幅に増加している。

3. サービス部品売上総利益

サービス部品の拠点当たり売上総利益は 10.1% 増加。
拠点数減少率よりも、1 拠点当たり売上総利益の増加率が上回っているのは、

1)そもそもサービス部品は拠点が減少しても売上そのものが下がりにくい
(即ち、販売よりも「より広域を 1 拠点でカバー出来る」性質を持っている)ことと、

2)統廃合された拠点の内訳の多くが車販専門拠点であり、サービス工場併設拠点の統廃合は限定的であること
が理由である。

4. インセンティブ

インセンティブは、拠点当たりでは▲0.9% と限定的な減少となっている。
即ち、拠点数減少分だけ全体では削減しているということ。

5. 各種収入手数料(ローン・保険など)

拠点単位では 5.4% 増加となっており、内訳としては保険手数料が拠点単位で伸びている。これは、拠点統廃合により保険契約の継続部分を近隣の拠点が引き継いでいることによるものと想像される。

【収益拡大への打ち手】

企業統合が進む中、自助努力により収益拡大可能な方向性は新車の領域以外にあり、より具体的には中古車(特に単価はアップしているが台数は減少しているので、これをどうやって増やすか)、とサービス・部品の領域であろう。
以下、それぞれの領域での打ち手(案)を提示してみたい。

1. 中古車への注力

新車とは異なり中古車専業店という競合が存在するため、拠点が減少することに伴い、拠点当たりの中古車販売台数は減少してしまっているものを、どうやって反転させるかは、今後のディーラーにとって重要な課題である。
因みに、一定の基準※で中古車に取り組んでいる比率が高いディーラートップ 100 社と全体平均の収益性を比較すると、中古車注力比率が高いトップ 100 社は全体の平均に比べて、

1)中古車単価で台当たり 6.1 万円高い。

2)中古車台当たり粗利で 2.2 万円(平均 1 社当たり販売台数 2,291台で乗ずると、1 社当たり税前利益効果が 50 百万円)高い。

3)営業利益率で 1.2% → 1.8 % (+0.6% で 1 社平均売上高で乗ずると、1社当たり税前利益効果が約 60 百万円)高い。

※新車・中古車比率x中古車小売比率が高い Top100 社の平均(中古車販売台数/新車販売台数x中古車小売台数/中古車販売台数)。

また、中古小売に注力すると棚卸資産回転期間は延びるというのが一般的な考え方だと思うが、実は中古に注力するディーラーは巧く卸売市場(オークションなど)を利用して、在庫日数を寧ろ短縮しているという傾向がある。

収益性の改善と回転率の向上の両者が期待できる中古ビジネスに新車ディーラーとしての強みを生かす方法で取り組む施策としては、

1)例えば優良な玉の仕入れを異なるブランドを代表するディーラー間で融通しあったり、

2)低年式車への注力を高める施策として既存の中古車専業店とのアライアンスを構築する、
などといったものが考えられる。

2. サービス部品への取り組み

前述の通り、サービス部品は拠点数の減少にあまり影響を受けない。
よって、定期的に発生する車検や点検といった領域への注力はこれまでどおり重要であるが、更に重要であると考えられるのが、「事故」発生の情報を如何にしっかりディーラーで把握し、これへの対応をするかという部分である。

事故は本来あってはならないことであるものの、こうした不快を顧客が感じる際の最適な対応をすることは、同じ顧客にお店に戻ってきてもらう為にも重要な要素である。更に収益面での貢献の話をすれば事故修理は板金なども伴うため単価を高く取ることが出来る。
そのためには、例えば JAF との提携などに限定せずその他ロードサービス事業者との提携も複数実施することにより、近隣での事故に関連する入庫の数を増やしていくといったことも重要になろう。

【費用削減への打ち手】

拠点数の削減は行いながらもコストを削減するには、人員効率の最大化と拠点単位での人員数の抑制が肝要であるが、以下 2 つの案を示したい。

1. 来店型経営の重要性
コスト関連で唯一大幅に上昇しているのが拠点投資関連コストであるが、これを継続的に行うひとつの理由は、訪問販売方式を来店型へとシフトすることで、人員数の抑制を行うことにある。

新車需要は 統計上約 5年に一度発生するが、これを如何にしっかり捉えていくかが大切である。つまり、「需要が発生するタイミングに確実に営業マンがお客様にリーチ」するための CRM エンジンの導入なども重要である。

2. 販売に付帯する各種業務の効率化
大阪スバルの記事が掲載された 11月 15日付日刊自動車新聞の同じページに、自販連の兵庫県支部が「ワンストップサービス(OSS)」に関する説明会を開催するという記事があった。

OSS は電子政府の目玉の一つとして、所謂住基カードをベースに本人確認を実施することにより電子的に車庫証明取得~車両登録実務を全てインターネットで完結させるという仕組みである。

但し、現在は住基カードの普及率が低いため、ディーラーでの OSS 利用率は依然低いレベルに留まるものの、予定では来年 12月頃には例えば印鑑証明書を紙で提出することで住基カードは不要とするといった改善が実施されるとのことだ。

営業マンが顧客との接点に費やす時間は、一説には総労働時間の 1/4 とも言われ、残りの 3/4 は登録関係業務をはじめとする管理業務に費やされる。
OSS により警察に 2度出向いたり、陸事に出向いたりといった時間を短縮することが出来れば、業務効率化に伴い顧客向けに費やす時間を増やすことが出来ることに加え、そもそもの従業員数を抑えることが出来ることになり、収益性改善の一つの方策になり得る。

【ディーラービジネスで儲けるには】

新車販売総需要の劇的な回復が期待出来ず、拠点数の減少が進んでいない現況で収益性を維持・拡大するには、今までの古典的なディーラー経営では難しい。

新車販売ビジネスの効率化と同時に、確実に代替需要を獲得しながら、中古車やサービス・部品といった領域でのビジネス如何に拡大するかがポイントである。

拠点の数が更に減少していく中、効率経営の実践と共に、今までの業務範囲・営業範囲を一歩踏み出す(勿論、一昔前に流行った多角化経営とは異なる)必要がある。

その一歩を踏み出す方向性はやはり周辺ビジネスとアフターマーケット、この 2 つにあると考えられ、これらの領域をどのようにして攻めるかがポイントとなろう。

<長谷川 博史>