販売チャネルの最適化における今後の課題について

◆日産、国内販売店の約半数(約1300店)を運営する52の連結販社を経営統合へ
◆日産による連結販社52社の経営統合&集中管理、販売業界から歓迎の声
店舗網を最適に再編することは、販社支援策の一環と受け止められている。

<2005年12月05日/7日号掲載記事>

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日産自動車が 12月 5日(月)、国内販売網で新たな打ち手を発表した。自社系列ディーラーの資本及び組織再編を行うことで、販売網の効率化・最適化を狙う。

こうした国内販売網再編の動きの背景と狙い、そして今後の課題について考察してみたい。

【今回発表の内容】

日産は、2006年 7月に資産管理会社「日産ネットワークホールディングス」を立ち上げ、国内連結対象の販売会社 52 社、1,300 拠点の総資産約 4 千億円を分離・分社化し、同社に統合することを想定。

これにより、販社は純粋な販売事業会社として販売・サービス業務に特化。

また、ホールディングスを管理統括する「国内ネットワーク戦略部」を 12月1日付で本社内に設立。

当該移管を推進すると同時に、今後は同部が傘下販売会社の資産管理及びその重要な方向性である店舗の統廃合や新設の権限などを有する形となる。

<<参考・日産国内事業概況>>

販社数   店舗数 販売台数 エリア傾向
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1.日産合計 143 社   約2,500拠点 84.8万台
2.内、日産連結対象会社 52 社*   約1,300拠点 43.3万台  大都市
3.独立系 91 社 約1,200拠点 41.5万台  地方

*特販会社など3法人を除く

【背景】

日産の有価証券報告書(平成 16年4月1日 至 平成 17年3月 31日) の所在地別セグメント情報を見てみると、地域毎の売上高・営業利益は以下の通りとなっている。

(単位:百万円)
日本 北米 欧州 その他
売上高 4,537,787 3,808,250 1,305,116 1,046,753
営業利益   341,120    415,574   56,006 50,224
売上高割合 * 42.4% 35.6% 12.2% 9.8%

*売上高合計に占める地域毎売上高の割合

これを見ると恰も日本の売上高が多いように見えるが、実は日本の売上高にはそもそもセグメント間の内部売上高が 1,981,104 百万円 ** 含まれる。

**輸出や技術移転に伴うロイヤリティなどを中心とする、最終消費地が国内マーケット向けではないものの、売上自体は日本で計上されているもの。

つまり、実質日本国内向けの売上高は 2,556,683 百万円であり、全体の三割を切る形である。

こうした国内市場に依存しない実力は、過去における自動車メーカーの合理的な活動として「国際化」を推進してきた結果として高く評価されるべきであるが、結果として世界で 3本の指に入る自動車市場で最大の製造拠点である国内市場への打ち手が遅れた原因にもなったと言わざるを得ないだろう。

特に、国内市場では世界で最高水準の目の肥えた消費者を相手にする為、

1)開発・生産面
においては、モデルサイクルを速く、多様な商品提供を実現する為に、開発リードタイムの迅速化、生産柔軟性の確保などの各種対応は着実に実現しているが、
2)販売面
においては、全需の伸びが期待できない中、既存チャネルへの依存が継続する形となり、最重要な顧客接点であるディーラーにも関わらず、合理的な手段を講じることに遅れ、後手に回ってきた事実は否定できない。

結果、自動車メーカー各社の国内向けビジネスは世界有数の採算性の低いビジネスになりつつある。

また、土地と人件費が高いという 2 つの大きな要因から販売会社の運営コストも高いレベルにあることあり、ディーラーレベルでの採算性も極めて低いレベルに留まっている(経常利益率で 1 %台)。

ディーラーの絶対数過剰の問題に加え、都心と地方、エリア毎の販売会社・店舗最適配置という面でも、ちぐはぐが生じていることから、収益発生エリアに対する適切な経営資源配分が実現出来ていない実体が存在する。

【狙い】

全需が今回の日産の施策は、伸びない市場環境と過剰なディーラー絶対数という前提がある中、本体主導で

1)約 4000 億円分の土地や建物の資産管理オペレーション
2)販売・サービス事業

の2つを分離・分社化することにより、

1)店舗営業力の強化
経営分担の明確化により、販社による営業特化に伴う強化を目論む
2)販売ネットワークの全体最適化の推進
空白地域への出店や重複出店地域における店舗廃止などを促進する(報道によると、店舗数も 数年内に 300 店規模で削減するという話もある)。
3)ROICの向上
既存資産の最適活用により、ROIC (投下資本利益率)を向上(20 %超)させる。

という 3 つの効果を狙っているものと想像される。

【今後の課題】

(1)店舗数と人員絶対数の削減

実は、国内全体で見ると、過去 6年間で乗用車を販売する自動車ディーラー社数は 1,343 社から 1,082 社へと大幅に減少している (▲19.4 %*)。
しかし、1 社当りの新車売上総利益は増加せず、寧ろ▲10.6 %と減少している実態がある。

*社団法人・日本自動車販売協会連合会加盟ディーラー法人数

つまり、過去においても市場参入プレーヤーの数(企業数)は減ってきたものの、プレーヤー当りの新車売上総利益は決して増えてはいない。否、寧ろ下がっている。

これは、法人数は減ったものの、店舗数の削減は限定的であったことに加えて、メーカーとディーラーとの間の価格調整構造にも起因すると考えられる。即ち、一義的に市場価格変動に対するバッファーとして販社は存在する代わりに、その後メーカーからの支援金・インセンティブという形での収支の調整が行われるというものである。

企業数の削減に伴う規模の経済が販社に残るよりもメーカーに一部残る形になっていても不思議ではない。

また、過去 6年の乗用車ディーラー社数の減少率 19.4 %に対して、同従業員数合計は 6.2 %しか減っていないという実態もある。

今回の報道では日産の 52 社の総従業員数 2.5 万人のうち、約 5 千人(5人に一人)が間接要員とのことだが、このうち一定の割合は営業力強化のために配置転換となるだろう。しかし、本当のコスト競争力は、配置転換対象以外の従業員の扱い次第で変わってくると思われる。

(2)店舗単位での経営管理

52 の販社は営業のみに特化し、資産管理はホールディング会社及びメーカー本社の部隊が扱うとのことだが、本来経営とは店舗というインフラのコストを念頭に置きながら、収益を管理する行為であるべきと考える。

当然、店舗によって賃借もあれば自社保有もあるだろう。

こうした差を資産保有会社が一義的に調整する形で賃料を各 52 社に負担させるという仕組みも想像されるが、とはいえキャッシュ面をも包括する緻密な経営を行うマインドが(現時点でも希薄な経営者が居るなか)更に希薄化することで、今後益々メーカー依存が高まっていく可能性は否定できない。これが、統一の販社運用に繋がり、結果的に競争力アップに繋がるのか、もしくはその逆となってしまうのかは今後のアクション次第ではあるが、本来の拠点毎の機動的且つ綿密なアクションが失われる危険は念頭に置かねばならないだろう。

(3)資産運営会社・本社による現場情報への接続性確保

逆に、本社における新規出店エリアや要撤退エリアの把握を、どこまで現場である販社としっかり情報を共有しながら実施出来るかも課題になるだろう。

(4)資産管理会社による資金調達・資産の簿外化

既に念頭にあるものと思われるが、4,000 億円の各種資産を管理するホールディングが資金調達を行おうと思えば、異なる拠点をポートフォリオとして有す企業の不動産他に対するABSやREIT的な投資家には事欠かないだろう。 これにより、資産の一義的なオフバランス化に伴う圧縮が実現出来る為、結果的には 2005年からスタートした中期計画である「日産バリューアップ」のコミットメントである ROIC20 %へ繋げることが可能になると想像される。

【終わりに】

12月 7日(水)には、ホンダが国内全チャネルで併売を実施するといった大きな記事もあった。

各メーカーの販売網の整理統合の傾向は今後も続くと思われるが、自社資本以外の所謂地場資本と言われるステークホルダーとの間でもしっかりとした議論を積み上げながら、消費者の利益(効用)を最大化する枠組みを共同で作り上げていき、結果としてメーカー・ディーラー双方がウィンウィンになる関係を構築することが重要であろう。

<長谷川 博史>