脇道ナビ (21)  『論より証拠』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

……………………………………………………………………………………………

第21回 『論より証拠』

商品企画をやっていると、経営陣や営業から「ライバルの会社が出していないような画期的な商品を作ってくれ!」と言われる。もちろん、企画を担当する者としては、言われるまでもなく、そんなスゴイ商品を市場に送り出したいと思っている。

しかし、いざ、市場にないような商品を企画すると、蜂の巣をつついたような議論が始まってしまう。「あの強力なライバルでさえ出していないようなものが、本当に売れるのか?」「そんな商品を買うユーザーは本当にいるのか?」と攻めたてられる。そのため、企画の担当者は狙い、機能、性能、デザインなどがいかに優れていて、まだ他社が出していなからこそチャンスが大きい商品だと、とうとうと説明する。しかし、それでも最後には「『リクツ』はもういい、売れるという『エビデンス』を見せろ」と言う。つまり、証拠がなければ、信用しないというのである。もちろん、経営陣や営業にしてみれば、売れなかったら、自分達のクビも怪しくなるので、当たり前のハナシだろう。

それでも、企画をした側としては何とか市場に出したいので、売れるという証拠を探し始める。過去や他業界の類似データをひっくり返して、当てはめてみたりする。あるいは、試作品などを、一部のユーザーにこっそりと見せて、感触を聞く。場合によっては、地域や期間を限定してテスト販売を行い、可能性の確認をする。そうしたデータを「証拠」に、本格的に市場に出すための経営陣や営業の説得をする。

誰でも、自分が企画した商品はスバラシイと思いこんでいる。また、そうした思い込みがなければ、市場を切り開くような画期的な商品など生まれるはずもない。しかし、こうした「思い込み」を持つ者が「証拠」を扱うのはよほどの注意が必要だ。同じデータでも、立場が違えば、解釈はどうにでもできる可能性があるからだ。一部のユーザーが「この商品は良い!」と言っても、別のユーザーが必ず評価してくれるかどうかについては、解釈次第だ。あるいは、一度使った証拠に縛られてしまい、その証拠にとって不利なハナシがでてくると、なんとか正当化しようとして別の証拠や理屈を探し始めてしまう。そのために、軌道修正ができなくなり、しまいには底なし沼にはまってしまうことも少なくない。

まだ世の中にない商品の企画に限って言えば、おかしな証拠を振り回すよりは屁理屈と言われても作り手の論理を大切にしたほうが良いと思っている。結果は市場が教えてくれるのだから。

<岸田 能和>