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コラム

二次電池の価格を下げるためには

◆ホンダの福井社長、「NECと日産のLi-ion電池をホンダが買うのは難しい」

日産とNECが共同開発し、外販も視野に入れている自動車用リチウムイオン電池について、「良い製品を安く売ってくれるなら買うが、普通は自動車メーカーの色のないところから買う。それだけ自動車メーカー同士の競争は激しい。この考え方はおそらく電気業界とは異なる」と述べた。

<2008年05月22日号掲載記事>
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【はじめに】

今月は、各社のハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の開発に関する発表が続いている。これらの商品開発期間を考えると、最近になって開発を強化し始めたというわけではないだろう。昨今のガソリン価格高騰に伴う消費者の環境意識(コスト意識)の高まりに加え、再来月に洞爺湖サミットを控えていることもあり、各社が環境技術に関する取り組みを積極的にアピールする傾向が続いており、開発自体はこれまで同様粛々と進めていると考える方が自然である。

現実的な問題として、HEV や EV をこれまで以上に普及させていく上で、いくつか技術的な課題は抱えているとは思うが、共通の大きな課題となっているものが二次電池であろう。HEV ・ EV 用の二次電池の本命は、リチウムイオン電池(LIB)であり、近い将来(2012年頃?)には、HEV ・ EV 用としては、ニッケル水素電池のシェアを超えると予想されている。しかしながら、現状 LIBは価格や安全性の問題から、まだ開発段階であり、各自動車メーカー・電池メーカーが試行錯誤を続けている状況にある。

安全で高出力で低コストの二次電池が開発できれば、HEV ・ EV のコスト競争力や量産性は大きく変わってくるはずである。実際、国内で発売されているHEV ・ EV の価格は、国内の乗用車の平均価格帯よりも高いので、興味を持っていても買わない(買えない)ユーザーも少なくないはずである。既存のガソリン車と同じ価格で燃費が良い(ランニングコストが安い) HEV ・ EV が発売されたら、そちらに流れるユーザーも劇的に増えると考えられる。

この二次電池であるが、燃費性能、航続距離等、HEV ・ EV 自体の性能を大きく左右する重要な構成要素であり、各社が差別化を目指すべき競争領域のようにも思われる。しかし、本当にそうであろうか。

今回は、このあたりの二次電池に関する戦略について考えてみたい。

【良い電池を安く作るところから買うためには?】

トヨタが松下、日産が NEC 、三菱自工が GS ユアサと合弁会社を設立し、自動車メーカーと電池メーカーが共同で取り組むという一つの流れができているHEV ・ EV 用の二次電池開発・生産であるが、ホンダはかつてから、二次電池の自社開発・生産には取り組まない方針を明らかにしている。

弊社加藤は、この方針について、二次電池のコモディティ化を図り、競争領域をこの二次電池開発から他の領域に移行させることを狙っているのではないかと指摘している。

「コモディティ化こそが究極の差別化戦略」(2007年1月21日号掲載記事)
二次電池のコモディティ化が進み、安くて良い電池が調達できれば、自動車メーカーにとっても大きなメリットを享受できるはずである。

とはいえ、現状安くて良い電池が調達できるわけではない。ホンダ自身、二次電池の開発・生産に自社では取り組まないからといって、その時点で安くて良い電池をサプライヤから買えば良いと単純に考えているわけではないだろう。

電池メーカー側からすれば、将来的に市場拡大が期待できる HEV ・ EV 用二次電池市場は魅力的ではあるものの、

(1)自動車メーカーが要求する電池性能(出力、安全性、品質、コスト)が厳 しく、現時点の技術で量産に踏み切るべきか、引き続き技術開発を進め、 性能向上を進めた上で量産に踏み切るか、決断が難しい。

(2)自動車メーカーが要求する生産量を供給するには、高額な設備投資を行っ て、生産体制を確保する必要があるため、安定して購入してもらえる保証 がない状態では量産に踏み切る決断ができない。(良い電池が出てきてたら他社に切り替える、というのでは困る)

等の理由により、電池メーカー単独で開発・量産を先行させて、自動車メーカーに「いつでもうちの電池を買ってください」と持ち込むような状態には至っていないのであろう。現実的には、HEV ・ EV の開発を急ぐ自動車メーカーが電池メーカーにアプローチして、開発をリードし、量産できる目途が立ったら購入し、HEV ・ EV の商品化を進めているというような状態ではないだろうか。

つまり、将来的には「良い電池を安く作るところから買えば良い」と考えていても、当面は、特定のメーカーと共同で開発を進め、量産後も試行錯誤を繰り返しながら電池性能を向上させるために開発をリードし続けなければならないであろう。

コモディティ化するのは、HEV ・ EV の普及が進み、多数のサプライヤが要求性能以上の電池を供給できる時代が来る頃までは難しいかもしれない。

【二次電池のコモディティ化】

では、二次電池のコモディティ化を進めるには、どうしたら良いのであろうか。

筆者は、二次電池の開発と生産にあたって、製品的にも工程的にもある程度分離させて、自動車メーカー、電池メーカー(もしくは電装品サプライヤ)の役割分担を明確化すべきではないかと考える。

二次電池(特に LIB)の構造は、制御回路であるバッテリマネジメントシステム(BMS)と電池(セル)を組みあわせたモジュールとして車両に搭載される。セル以上に、HEV ・ EV の性能を大きく左右するのが、この BMS だと考える。

BMS は、HEV ・ EV の性能を最大限に発揮できるように、個別の車種・システムに併せて最適設計することが求められる。HEV 用という点では、トヨタ・ホンダが先行しており、HEV の市場投入を発表している欧州自動車メーカーも、独 Bosch、独 Continental あたりの大手ティア 1 サプライヤと開発を進めている。

一方で、セルは自体が求めらる要件は、出力・安全性・品質・価格とも、HEV・ EV 間で多少の差異はあっても、個別の車種・システムによって大きく方向性が変わるところではないはずである。前述の「良い電池を安く作るところから買えば良い」という発想も、この段階について言っていると考えるのが健全である。

さらに突き詰めれば、LIB を始めとする二次電池の用途は HEV ・ EV 用に限らず、他の産業用途でも需要拡大が期待されている。こうした用途拡大も視野に入れれば、セル自体はコモディティ化して、量産効果があがった方が自動車業界にもメリットがあるはずである。

つまり、セルはコモディティ化を進めて標準部品として規格も統一しながらコストダウンを図り、BMS を含めた HEV ・ EV本体を競争領域として差別化を図ることを目指すべきではないだろうか。

【コモディティ対象領域の開拓】

自動車業界の考え方は電気業界の考え方と異なるのは事実である。補機用バッテリ、ワイパーブレード、ボルト・ナットなど、既に汎用品となっている領域や、半導体、モータ、カーナビ用地図等の他業界から持ち込まれた製品領域以外は、製品特性上なかなかコモディティ化が進みにくい業界でもある。

しかし、現在の自動車業界は、開発・生産リソースも限られ、原材料価格の高騰が続く中、原価低減を進める余地も少なくなりつつあり、販売価格アップも視野に入れて検討せざるを得ないような状況になりつつある。

こうした中、今まで以上に踏み込んで、部品・原材料のコストダウンを図る上では、新たにコモディティ化を進める分野を開拓していかなければならない時期に来ているのではないだろうか。

競争領域になっている分野をコモディティ化するのは簡単ではない。しかし、一社が思い切って踏み込めば、他社も追従せざるを得なくなる状況は生まれ、結果的に全体の普及が進むことも考えられるのではないだろうか。

前述の「コモディティ化こそが究極の差別化戦略」においては、米 Microsoftが PC というハードをコモディティ化して競争の焦点を OS やソフトに移行させたことや、ソフトバンクが電話回線とモデムをコモディティ化させて競争の焦点をインターネット上のサービスに移行させたことなどを事例として紹介している。

自動車メーカーの色をつけずに二次電池のセルを標準部品として展開した方が量産効果は高まるし、二次電池用市場だけでなく、HEV ・ EV 市場も活性化するはずである。あとは、技術的にどこで見極めをつけて、セルの大量生産に踏み切ることが有効か、電池メーカーや自動車メーカーの戦略次第かもしれない。

自動車業界も、今後の製品の進化に伴い、他の業界の考え方を取り入れ、最適化を図ることが求められてくるのではないだろうか。

<本條 聡>

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