勝手にホームページ診断 (11)  『日産 エルグランド』

自動車の販売・マーケティング活動におけるホームページの重要性は今後、更に高まっていくことが予想されます。

SE のキャリアを経て、現在は自動車好きの中小企業診断士、Web コンサルタントとして活躍する遠藤康浩が、その商品の持つ特徴や魅力が適切に消費者にコミュニケーションされているか、という視点から車種別のホームページを診断していくコーナーです。

【筆者紹介】
中小企業診断士。住商アビーム自動車総合研究所アドバイザー。(株)NTT-ATテクノコミュニケーションズでSEとして勤務後、経営コンサルタントとして独立開業。現在、中小企業向けホームページのコンサルティングを中心に活動。

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第11回 『日産 エルグランド』

【今回の診断ホームページ:日産 エルグランド】

http://www2.nissan.co.jp/ELGRAND/E51/0710/index.html

概要:2002年5月にフルモデルチェンジを行い、現行型は2代目になる。日産が誇る最高級ミニバンとして、最先端技術を惜しげもなく投入し、ゆとりの室内空間、快適な走行性能などを実現している。2007年10月の改良では、一部車種の外観を変更したほか、世界で初めてとなるアラウンドビューモニターを採用した。

診断のポイント:世界初の「アラウンドビューモニター」をどのように訴求しているかがポイント。インパクトのあるテレビCMとホームページで相乗効果を出して、新しい技術を消費者に理解してもらえるものになっているか。

【衝撃を受ける技術革新】

新しい技術が登場した時に、テレビCMなどを通じてものスゴイ衝撃をうけた経験は誰でもあると思います。
ちょっと古い話になりますが、三菱自動車がFTOを発売した時、「INVECS-II」が話題になりました。レーシングカーのシーケンシャルミッションのように、シフトレバーを前後に動かすだけでギヤチェンジできる様をCMで見た時に、ものすごい衝撃を受けたのを憶えています。今では当たり前の技術ですが、当時はクルマ好きのメンバーで色々な資料をかき集めてどんな仕組みなのか、語り合ったのを憶えています。

今回紹介する、エルグランドに搭載された「アラウンドビューモニター」もそれくらいにインパクトのある技術だと思います。自分のクルマを上から見られるというのは、今まで駐車でたくさんの失敗を重ねたきたドライバーにとっては、自分の長年の悩みを解決してくれる技術に見えるはずです。
テレビCMでも、クルマの上にふわふわ浮かんでいる主婦が、遠隔操作のように縦列駐車している映像が流れていますが、駐車コンプレックスを持つ人にとっては、夢のような未来のクルマとして目に映っているでしょう。

【新しい技術は理解が必要】

新しい技術を世に出す時に必要不可欠なことの一つに、消費者の理解を促さなければならないということがあります。一般的に消費者は新しい技術に対して懐疑的な場合が多いからです。見た目にはとてもいい技術でも「本当に説明通りのことができるのだろうか」「デメリットはないのだろうか」と考える人が多いのです。

今回の「アラウンドビューモニター」もそれに当たるでしょう。
まず仕組みを知らないことには、テレビカメラが天井から上に伸びて撮影していると勘違いする人もいるでしょう。(実際に私の周囲にいました)。だったら天井の低い場所では使えないのではないか、などと考えてしまう人もいるわけです。

そのような疑問に答えるのに、ホームページはうってつけのメディアです。文章・写真・動画・音声を駆使して、消費者に細やかな情報を伝えることが可能だからです。テレビCMと違って(閲覧者が我慢できる範囲であれば)時間的な制約もありません。

【なぜこのホームページが見られているか、を考慮しているか?】

実際にエルグランドのホームページを見てみると、まず最初に気になったのはテレビCMとのつながりがない点です。黒を基調にした、かっこいい写真がトップページを飾っていますが、主婦が空中で運転するCMのイメージとはほど遠いものになっています。右上からテレビCMが再生できるようになっているが、エルグランドの製品CMが流れるだけで、「アラウンドビューモニター」を中心にしたCMは流れません。車種名をうろ覚えの人であれば、違うホームページに来てしまったかなと思うくらいイメージにギャップがあります。

ホームページはエルグランドの製品自体をプロモーションする戦略のようでありますが、一般の消費者からみれば「アラウンドビューモニター」のCMの方が圧倒的にインパクトが強いと思われます。個人的に、普段クルマに興味のない女性に「アラウンドビューモニターのCMを知っていますか」と聞いたところ、3割以上が(しかもかなり興味を惹かれる形で)知っていました。サンプル数が少ないので、信頼できるデータではないですが、エルグランドのCMを知らなくてもアラウンドビューモニターのCMを知っている人はかなり多いと思われます。

だとすると、現在エルグランドのホームページに訪れる閲覧者の内のかなりの部分がアラウンドビューモニターについて知りたくてアクセスしているという仮説が成り立ちます。その人たちに向けて、アラウンドビューモニターに関する疑問を解決するホームページになっているかというと、残念ながらその視点はあまり感じられません。

それを端的に示しているのは、トップページから直接「アラウンドビューモニター」のコンテンツに飛べないことです。
「アラウンドビューモニター」のコンテンツ自体は、動画を駆使し、とても分かりやすく新技術を説明していてます。コンテンツの中身自体は十分に充実していると思います。
しかし、そこに至る経路が分かりにくい点は大きなマイナスポイントです。
(試しにトップページから、アラウンドビューモニターのページに行ってみて下さい)、
しかも、日産の別のページにアラウンドビューモニターに関するコンテンツが掲載されているのですが、そこにリンクできないのは非常にもったいないと思います。

http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/INTRODUCTION/DETAILS/AVM/

逆に上記ページからエルグランドのホームページにもリンクがありません。
これでは「アラウンドビューモニター」で検索してきた閲覧者が、購買にいたるまでにいくつかのステップを強いることになってしまいます。

【製品そのものを欲しがっているとは限らない】

消費者は製品そのものを欲しがっているとは限りません。「楽に駐車できる」「ぶつける心配がない」というコト自体がニーズに成りうるのです。

この技術はミニバンを買う消費者にとって、購買を決定づけるくらいのインパクトのあるものだと思います。ミニバンが欲しいお父さんにとって、大きいクルマはいやだというお母さんを説得するのには、かなり強力な武器になるでしょう。

せっかくの技術なのですから、売上につながる形で活用して欲しいと思いますし、そのためにはホームページの使い方に一工夫を加える必要があるでしょう。トップページからのリンク、関連情報の相互リンクを行うだけでも、成果は出てくると思います。

最後に、コンテンツを一通り見て残った疑問があります。
「アラウンドビューモニター」は夜間や暗い場所でも使えるのでしょうか?
個人的にとても気になります・・・

<遠藤 康浩>