think drive (19)  『 EV 』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第 19 回 『 EV 』

いよいよ、洞爺湖サミットが開催された。この原稿を書いている時点では、どのような結論がでるのか分からないが、地球規模での環境対策の面で、何らかの大きな前進があることを期待したい。

さて、そのサミット開催の関係もあってか、最近 EV (電気自動車)の盛り上がり方が盛んだ。東京からサミット会場である北海道の洞爺湖までを EV で走り抜くというイベントも開催され、無事 860km を 6日間で走り抜いた。このイベントに使われた車両は三菱の iMiEV とスバルの R1e である。三菱の iMiEVは来年 2009年に市販を予定しているし、スバルも R1e で培った EV 技術をステラプラグインコンセプトというクルマで市販化を予定している。

そこで、今回は EV に焦点を当ててみる。

ご存知の方も多いだろうが、EV の歴史は古く、ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツによるガソリンエンジン車登場より前に誕生している。電気モーターを電池に貯めたエネルギーで動かすという電気自動車は、ガソリン/ディーゼルエンジンという複雑なものよりもシンプルなことからクルマのシステムとしては相応しく思われるが、そのエネルギー貯蔵に関するガソリン/ディーゼルの優位性のために、一般化しなかった。

つまり、ここまでガソリン/ディーゼル車が普及してきて、EV が普及してこなかったのは、ひとえに電池にあるといっても過言ではない。エネルギー密度がガソリン/ディーゼル車の足下にも及ばなかったのだ。その後、オイルショックや、排ガス公害、などが問題になる度に、EV が見直される時期が訪れて、今回の CO2 削減に関わる EV ブームはどうも本格化しそうな気配だ。なぜなら、そのバッテリーのエネルギー密度がどんどん向上し現実味をおびてきたからだ。

では、バッテリーについて簡単にみてみよう。いまでもガソリン車、ディー
ゼル車の電気系統に使われている鉛蓄電池をベースとすると、ニッケル水素電池の性能は、エネルギー密度が 2 倍弱の性能を持つ。さらにリチウムイオン電池では、3 倍を越える性能を持つという。このニッケル水素電池の実用化が、プリウス等のハイブリッドシステムの実用化を生み、リチウムイオン電池の実用化が、バッテリー EV の実用化を生むのだと考えている。このように、リチウムイオン電池の性能向上には目を見張るものがあるが、やはり、まだコストが高い。そして、ガソリン/ディーゼル車のレベルまでは達していない。つまり、バッテリー EV の最大の弱点は、車両価格と航続距離である。

では、この 2 点について考えてみたい。まずは、車両価格。来年発売を予定している iMiEV は 400 万円前後と言われている。同型のガソリン仕様が約 150万円だから、倍以上もする。国が 100 万円の補助を予定していて、自治体によっては 50 万程度の補助を予定しているところもある。つまり、ユーザーは 250万円で購入可能になる。ここまで来るとどうだろうか?そんなに高いと思わなくなる。もちろんこれからは趣味の範疇になるが、エコロジーに対して 100 万円を出す人はそう少なくないと思う。家庭に太陽光発電を導入する感覚に近い。

次に、航続距離に関して。クルマの使用用途の大半は一回 50km も走れば十分のはずだ。もちろん、週末のドライブなど遠くへの目的も捨てがたい。そこで目的別に 2台持つのも悪くはないと思う。地方都市では、一家庭で複数台所有するケースは珍しくない。ならば、一台はぜひ EV で、もう一台にはディーゼルなどという組み合わせは実にクールではないだろうか。もっともこのケースは、東京のような土地が高い都会ではクルマの所有に係る費用が高くなり、あまり相応しくない。2台所有が非現実的な地域では、カーシェアリング等のあたらしいインフラも含めたクルマ社会が形成されると思う。

何れにしても、このところ急速に現実味を帯びてきた EV だが、最後に頭に入れておきたい事を記しておく。それは、一次エネルギーの話だ。いうまでもなく、電気はなにかのエネルギーから作られる二次エネルギー。日本では水力、火力(石油、石炭、天然ガス)、原子力という一次エネルギーから構成される。今、地球規模での環境問題では CO2 削減が最大のテーマだが、EV の CO2 排出は、これら発電に使われる一次エネルギーでほぼ決まるという事を意識したいと思う。その国、地域、時代で大きく変わるものであり、今後、これらが、自然エネルギーや再生可能エネルギーへ向かうことを本当に願うばかりである。

<長沼 要>