think drive (18)  『トランスミッション』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。
国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。
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第18回 『トランスミッション』

クルマはエンジンの動力をタイヤに伝えて動く。あたりまえの事だが、その「伝える」役目をするのがトランスミッション。このトランスミッションについての技術が今面白いので、今回は取り上げてみたい。

エンジンというものは、実のところクルマを動かすのにあまり適していない出力特性を持っている。クルマは動き出す瞬間が最大のトルクを必要として、速度が上がるに従って、必要とするトルクは減少する。しかし、エンジンはガソリンでもディーゼルでも、その動きだしはトルクが少ないのだ、極端な話ゼロである。

このようにクルマに相反するトルク特性を持つエンジンが、これほどクルマの動力源として主流をしめているのは、トルク特性以外に、比出力の高さなどのメリットがあるからに他ならない。単純にトルク特性だけ考えれば、電気モーターが相応しい。

話がそれたので元に戻す。

このトルク特性をフォローするのがトランスミッションで、基本的はエンジンからの入力を減速(一部増速)してトルクを増やす役割を持つ。基本的にその変速動作を自分で行うか、自動で行うかによって、MT ( Manual Transmission )と AT ( Automatic Transmission ) に分かれる。そしてその構造や機能によって、有段か無段か、伝達ON/OFFをクラッチによるかトルクコンバーターによるか、等々それらの組み合わせによって、多くのバリエーションとなる。これらを全て紹介している誌面はないので、今回は以下の3つのタイプを取り上げる。

・トルクコンバーターを用いた有段 AT
・無段階変速であるCVT
・デュアルクラッチシステムを用いたDCT

それぞれのメリット、デメリット、特徴などは多くのレポートなどで記載されているだろうから、それらを参考にして頂くとして。日本メーカーと欧州メーカーでの取り組みの違いに着目してみたい。

ご存知の方も多いと思うが、日本はほぼ 100%がATというお国柄。対して欧州はまだまだMTが主流という相反するお国柄。まずこれらの背景を考えると、日本はとにかく変速行為は自動でしてもらえ、変速ショックをとことんなくする技術を追求してきた。その結果トルクコンバータは必須だが、効率が悪い。そこで効率追求のため CVTが出てきて、開発が促進された。

反対に欧州では、クルマを運転するときのダイレクト感が重視されてきていることから、トルクコンバーターがあまり好まれていなかった。しかし、自動変速は欲しい。そこで、伝達効率もよいMTをベースに変速だけ自動にしよう、という発想が強かったのだと思われる。

その結果が現在、日本では CVTへの開発が進み、欧州では DCTへの開発が進んできた。これらの開発がある程度出そろった今、どうも、 DCTに将来があるように感じている。なぜなら、やはりクルマを運転するときのダイレクト感が素晴らしく、それと自動変速というイージードライブを両立してくれるほうがユーザーは好むようだから。また、 CVTの伝達効率がおもったほど実用域で高くないということもあるかもしれない。

しかしこれらの話は一般的なふつうのクルマでの話。日本でも DCTの開発はかなり行われていて、日産GT-Rなどは、世界一のDCTとも評価されているし、三菱ランサーなどもVWの DSGなどに遜色ない出来上がりになっている。

いずれにしても、ここ数年でトランスミッション技術は飛躍的に技術革新が進み、これからは集約に向かうと思う。その中で、効率、イージードライブ、そして、ドライビングファン、という独立した欲求を満たしてくれるトランスミッションが主流となるのだろう。

多くの一般車とスポーツ車には DCT、高級車にはトルコン AT となると思われる。

もっとも個人的には、今でもたまに乗ると、あの 3ペダルMTの気持ち良さも捨てがたいと思わされるのも正直な気持ちである。

皆さんはどんなトランスミッションがお好みですか?

<長沼 要>