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コラム

think drive (15)  『クルマがコージェネ?!』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第15回 『クルマがコージェネ?!』

【クルマがコージェネ?!ホンダがコージェネタイプのハイブリッド車を開発】

コージェネとはコージェネレーションの略で、海外ではCHP( Combine of Heat and Power )というほうが一般的であり、その名の通り、発電と同時に熱の供給を行うことである。

もともとクルマはコージェネである。もっとも、発電と熱はあくまで脇役で、主役は駆動力だが。。。
つまり、駆動力を得ることが主目的のエンジンで、小さい発電機(オルタネーター)も回し、ヒーターのために熱も使うということである。

【ランキンサイクルとは何ぞや?】

しかし、ホンダが研究発表したものは、普通のクルマは暖房用ヒーターにしか使っていない、その熱回収システムに特徴がある。ランキンサイクルという原理を使って、排ガスがもつ熱エネルギーを電気に換えようとするものなのだ。

ランキンサイクルとは水を作動流体(エネルギの受け渡し役)として使う熱サイクルで水を熱し、その蒸気の勢いで羽車(風車のようなもの=タービンともいう)を回すことで熱エネルギーを運動エネルギー(=動力)に換えるものであり、その力で発電機を回し電気エネルギーに換えている。

【ハイブリッド車の電気エネルギー源になる排ガス】

大きな発電所では一般的なこのシステムを超小型化して、ハイブリッド車のエンジンルームに押し込めたようなものである。こうする事で、エンジン、厳密にはエンジンからでる排ガスが持つエネルギーを電気エネルギーとして回収し、走行するのに再利用する。

この試作車はストリームがベースとなっている。2Lのエンジンに熱が逃げないような特別なエキマニ+触媒となっている廃熱回収装置を試作、その他、ランキンサイクルに必要な、高圧水ポンプ、エキスパンダー/発電機、コンデンサーを搭載しているが、エンジンルームにきちんと収まっているから面白い。おそらくシビックハイブリッドをベースにしているのだと思う。

【(熱)エネルギー回収率】

どのくらいエネルギーが回収できるか(効率が向上するか)というと、例えば時速100kmで走行しているときに、3.8%のエンジン効率向上ができるぐらいである。乱暴に言えば、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い以上の効率差となる。また、USハイウエイサイクルという測定モードでは、ブレーキング時に回収できるエネルギーの 3倍以上ものエネルギーを回収できるという。

さてここで、簡単な熱力学の話を。。。

内燃機関、いわゆるエンジンは、熱をエネルギーに換える機関である。燃料(ガソリンや軽油)を燃焼させてその熱を動力にかえている。その変換過程(サイクル)がいくつかあって、それぞれに特性があり、代表的なものにガソリン機関のオットーサイクル、ディーゼル機関のディーゼルサイクルがある。これらの二つはどちらも圧縮比で理論的効率が決まり、高い方が効率がよい。しかし、その現実的限界がガソリン機関よりディーゼル機関のほうが高くできるので、ディーゼルのほうが効率/燃費がよい、ということになる。

【熱効率の限界】

しかし、どんな熱機関でもこえられない限界というものがあって、それはカルノーサイクルとよばれるものである。カルノーという人が見つけたもので、とても簡単な式で表される。(ちなみに、オットーさんも、ディーゼルさんも、ランキンさんも、全て人の名前である。)

効率=(最高温度-最低温度)/最高温度

例えば1500℃→500℃の熱を利用するとき(イメージは燃焼室内が1500 ℃で排ガス温度が500℃の感じ)、その効率は

((1500+273)- (500+273))/(1500+273)= 約0.564

つまり約56%となる。この程度の温度域を使っている限りこの程度の効率がもう理論的限界なのである。ちなみに、現実的な圧縮比のオットーサイクルやディーゼルサイクルではさらに低くなる。つまり、100%エネルギーを使おうとすると、絶対零度まで使い切らなければならないわけで現実的にはありえない。。。となる。

そして、二つのサイクルを組み合わせるという発想がこのハイブリッドである。排ガス温度はエンジンや運転条件によって大きくかわるが、ガソリン車なら300~700℃くらいであろうか。ではこれを入熱として、100 ℃くらいまで使えると、どうなるのか? エンジンでの入熱から考えると 1500℃→100℃が可能となる。

((1500+273))-((100+273))/(1500+273)= 約0.79

つまり約79%となり、理論的限界が23%(pts)向上する。

【アイスやメロンの食べ方?】

例えが良いか分からないが、アイスクリームを食べるとき、ただスプーンでさくっと食べるだけでなく、蓋のうらまで舐めて食べ尽くす、といったような、違いである。メロンでもオレンジ色の部分だけをたべるのではなく、皮一枚になるまで食べるようなものである。つまり、まずざくっとオットーサイクルでオレンジ色の部分を食べる。その後メロンをきちっと押さえ、エッジの効いたスプーンで、皮が透けて皿が見えるくらいまで食べ尽くすというのがランキンサイクルの役割か?!

あるいは、お風呂の水を洗濯に使う感じであろうか?お風呂がエンジンで、洗濯がランキン、ということである。

もっとも、それでもオットーサイクル+ランキンサイクルなので、カルノーサイクルまでの効率はだせない。ちなみに、このホンダのランキンサイクルそのものの最大出力は、32kW(約43馬力)で、その効率は出力が23kW(約30馬力)のとき、13%となる。

【BMWもランキンサイクルを利用】

さて、話を戻すと、ガソリンの持つエネルギーを最大限使ってみようというこのハイブリッドだが、回収した排気エネルギーを電気として蓄えて動力に使うところが新しい。実はランキンサイクルによるエネルギ回収システム(排熱回収)はすでにBMWも以前に開発、発表していたが、BMWはその回収電力を動力には戻さず、補機電力に使おうとするものであった。ハイブリッド車がベースではないこともあり、おそらく水素自動車の補機電力に燃料電池での発電を使った例の別バージョンと考えるとわかりやすいのではないか。

サンディエゴで行われた SAE((アメリカの)自動車技術会)ハイブリッドテクノロジーシンポジウムで発表されたものについては、現在詳しい資料を取り寄せようとしているので、これ以上の詳細な情報は別途としたい。

【ランキンハイブリッドが最適なクルマは】

現状のライフスタイルを維持したまま、二酸化炭素の排出を削減するには、効率向上の余地を詰める事が大切である。クルマだけでなく世の中にはまだまだ効率を上げられる余地がある。例えば断熱である。日本の家の断熱はとても遅れていると思う。窓、壁をきちんとした断熱設計をするだけで、民間家庭からの CO2排出量は大幅に削減可能となることは間違いない。このように、日本では個々の技術的見地での効率は進んでいる方だと思うが、その適応対象や、全体を見渡しての開発の進め方などは、必ずしもほめられたものではないだろう。

さて、このランキンサイクルハイブリッドももちろん素晴らしい技術であるが、その使い方を考えるとどのような使い道のクルマに合うだろうか。それは排ガス温度がある程度以上、時間頻度としても十分ある場合に効果的である。そして廃熱回収したエネルギーを効果的に動力へ利用できるとなると、ずばり、シリーズ型ハイブリッド車だろう。エンジンを発電機としてほぼ一定負荷条件で、かつ、理論効率に近い運転として、さらに排ガスの熱エネルギーもランキンサイクルで利用するという形がよいと思う。

もちろん、コストも考えたうえで、今後の選択肢となるのだろうが。

<長沼 要>

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