think drive (14)  『ディーゼル乗用車』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第14回 『ディーゼル乗用車』

最近日本でもディーゼル車に対する正当な理解が進んできている感じがするが、今年2008年は、欧州だけではなく北米や日本でもディーゼル乗用車のラインナップが増える年になるだろう。今回のコラムはディーゼル乗用車をテーマにしてみる。

北米でのディーゼル乗用車は2004年に一部の地域で E220CDIを発売したのが発端となるが、2006年に登場した E320CDIはカリフォルニア規制LEV2を選択している 5州を除く45州で販売されていた。ところが、今年2008年は連邦基準である Tier2 Bin5 に対応するディーゼル乗用車が続々と販売される計画だ。このTier2 Bin5はカリフォルニア州の排ガス規制であるLEV2と同等なので、北米全50州で販売することができる。

ここで一度北米の排ガス規制を整理してみたい。北米における排ガス規制は原則として全米50州に対して、連邦政府直轄のEPA ( Environmental Protection Agency )が管轄するTier 2規制で定められている。ところが 1970年代初頭に起きたマスキー法から、北米の排ガス規制はカリフォルニア州のCARB( California Air Resources Board )がEPAよりも厳しく規制してきた。同じ合衆国内で二つの規制がある事は認められないのだが、カリフォルニア州だけは例外措置としてその独自規制が認められている。これがいわゆるLEV2規制だ。それだけではなく、EPAは他の州に対してTier2 を選ぶかLEV 2を選ぶかという選択の自由を与えているので、つい最近まではカリフォルニアを含む 5州がLEV2規制を選択し、残る45州がTier2規制を選んでいる。

ところでTier2規制での Bin8 とか Bin5 というBinについて簡単に説明すると、全11段階( Bin1 – Bin11)にNOx規制値が段階化されていて、フリート平均値として規制される。その中でなぜBIn8とBin5がよく出てくるかというと、乗用車では2007年以降はBin8以下でなくてはならないからと、Bin5はカリフォルニアでのLEV2規制と同等であるから、という理由でよく使われる。つまり、EPAのTier2規制もフリート平均でBin5相当値という段階に入ると、カリフォルニアLEV2規制と同じ規制値になり、これでようやく北米全50州が足並みを揃えるといえよう。もっとも、カリフォルニアにはZEV法という厳しい規制もあり、あいかわらず一歩進んでいることに間違いない。

そして、北米の排ガス規制が欧州、日本と大きく異なる点を挙げておきたい。
それはガソリン/ディーゼルという燃料の違いを全く考慮していなく一律の規制値であること。欧州、日本の排ガス規制はその燃料毎に規制項目、規制値が異なるのだが、北米はそれがない。この事が北米でのディーゼル車販売がされてきていなかった理由でもあり、逆に言うと、最近のディーゼルはガソリン車と同等のクリーンな性能を持つようになってきたという証拠でもある。

ところで、その Tier2 Bin5 = CA LEV2 をクリアする初めてのディーゼル乗用車はどこなのだろう?という興味が尽きないなか、M.Benz がEクラスディーゼルを加州で販売を開始した?!という情報が入ってきたので調べてみた。M.Benz USAのホームページによると、2007年10月17日の日付で”メルセデスが初めてカリフォルニアにディーゼル車を導入!とある。それによると E320 BLUETECを 2年間/24000mileという限定付きでリース販売を行うというものだった。

ここでもう一度排ガス規制について少々説明すると、排ガス規制は新品状態の測定値ではなく、ある距離を走行した時点での実力によって規制されるという点である。Tier2の例でいえば、50,000マイル時と120,000マイル時点で規定されていてbin5の0.07g/miというNOx規制値は120,000マイル時点でのものだ。ところで2006年に45州で発売されたE320 BLUETECはTier2 Bin8対応とあるが、正確にはBin6に入っていて、LEV2規制のBin5にほんの少し届かないだけなのだ。つまり今回リース販売する範疇( 2年間/24000mile)では余裕でTier2 Bin5=LEV2に入っているという事。

どうやらLEV2をクリアしたというより、カリフォルニアで初めて販売開始したという事のようだが、今年2008年は 3車種でTier2Bin5=LEV2をクリアすると発表しているM.Benzのこのディーゼル車を北米で販売するという意気込みは賞賛に値するだろう。ティザーキャンペーンとしてもカリフォルニアでの販売は素晴らしいものだと思う。

さて、日本での動きはどうだろう。日本の排ガス規制は現在新長期規制と呼ばれるものだが、09年にはポスト新長期と呼ばれる規制でさらに強化されることが既に分かっている。現行の新長期規制をクリアしているディーゼル乗用車はただ一台、M.Benz 320CDI だけだ。2006年に国内に導入した際には、新短期規制の輸入車へ適当されていた経過措置での排ガスレベルだったが、つい最近新長期規制への適合を果たした。NOx 吸蔵触媒や、尿素SCRといったNOx低減装置を使わずに、EGRの最適化によってNOxは規制値をクリア、PMについては引き続きDPFによってクリアしている。

日本でのディーゼル乗用車が輸入車のみという状況の現在だが、今年2008年には日産が夏頃、ホンダが年内には販売を開始するとアナウンスしている。さらに2009年にはAudi、 VW も日本市場投入を宣言したから楽しみだ。トルクフルで扱いやすいディーゼル乗用車はラインナップがあれば受け入れられる事、間違いない。

もともと、日本でも10数パーセントの比率で選ばれていたディーゼル乗用車。走りや排ガスの性能が飛躍的に向上して復帰されるのだから、これからのマーケットに興味は尽きない。ヨーロッパではスバルが水平対抗ディーゼルを発表するなど話題に事欠かないディーゼルエンジンから目をそらせない今日この頃だ。

<長沼 要>