think drive (12)  『チャレンジビバンダム』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

……………………………………………………………………………………………

第12回 『チャレンジビバンダム』

先月上海でチャレンジビバンダムが開催された。今回はこの環境対応に特化したミニモーターショーとも呼べるイベントを紹介してみよう。

【チャレンジビバンダムとは】

チャレンジビバンダムとは名前を表にだしてはいないがフランスのタイアメーカーであるミシュランが主催するイベントであり、少し詳しいひとならばビバンダムというミシュランのイメージキャラクターの名前からおわかりだろう。

日本では「ミシュランマン」の愛称で呼ばれるこのビバンダムキャラクターが誕生したのが1898年で、その生誕100周年を記念して 1989年に初開催されたのがこのイベントの始まり。つまり今年は9年目にあたり、初開催から一貫して持続可能なモビリティへ向けた提言を行い、議論の場を提供し、意識の高まりを促してきた。

フランクや東京などの国際モーターショーは各国の自動車産業界が主催し、ある主催者が世界中を開催地として行うモーターショーは希有な存在と言えよう。また、比較的地味で小さいコミュニティーで行われがちな環境対応型イベントとしても珍しいイベントだと思う。

【中国で行われる意味】

このイベント、初開催はもちろんフランスであった。その後、北米や中国でも開催し、一昨年は日本で開催された。愛知万博の開催期間中に行い、万博会場へラリーを行った事を知っている方もいるのではないだろうか。そして昨年のパリを経て、今年は2回目の中国、上海である。

言うまでもないが中国は今モータリゼーションのまっただ中にいる。新旧、多種多様なクルマが街にはあふれ、排ガスがあまりきれいでないクルマが走り回る市街は息が苦しくなるくらい空気が汚れ、交差点では危険な状況があふれている。ミシュランはこの国を開催国として2回目に選んでいる。

クルマが急増するとその弊害が現れるのは日米欧では経験済みで、大気汚染、交通事故等の諸問題をある程度クリアして今日の成熟したクルマ社会がある。これから増々モータリゼーションが進み、放っておくと我々の二の前になるかもしれないと心配になる中国のクルマ事情だからこそ、このような持続可能なモビリティへむけた内容のイベントが行われる事は有意義だと思うし、少しでも多くの人がクルマを賢く使うような意識になってくれる事を願いたい。

【イベント構成】

チャレンジビバンダムは、多くのパートから成り立っている。まずはパネルディスカッション。各界の有識者などにより、多くのテーマに分かれ、議論を交わし、将来への提言を行うというもの。そして、世界各国から集められたクルマの技術コンテスト。環境対応性能はもとより、その評価対象はデザインなど多岐におよび、乗用車、トラック、バス、という各カテゴリー毎にコンセプトカー、プロダクションカーという分類のもとコンテストが行われる。そして、それらのクルマの試乗会や各エントリー企業や団体などによる展示も行われ、最後には、同じくエントリーされたクルマによるパレードが行われる。

ほとんどが展示だけの一般的なモーターショーに較べて、エントリーするクルマにとってはとても過酷なイベントと言えるだろう。中には開発費数億円とも思えるクルマを一般メディア等に試乗をさせるエントラントもいて、我々メディアとしての参加側にはとても貴重な体験ができうれしい限りだが、エントラント側の事を思うといつも太っ腹だなあと思わせてくれるイベントでもある。

【ディーゼル車と電気自動車】

さて今年のチャレンジビバンダムにも世界各国からクルマが集まってきていたが、目立っていたのは欧州勢のディーゼル車と中国の電気自動車だろう。

VW、ダイムラー、アウディからはジェッタ、E クラス、A5の最新ディーゼル車がエントリーしていて、どのクルマも細かな表現は異なるが、「世界でもっともきれいなディーゼル」と謳ったステッカーを貼っていたのが興味深かった。そして、試乗の一番人気もCO2 Championというステッカーを貼ったスマートcdiと、やはりディーゼルだった。

そして地元の中国勢からは燃料電池車とハイブリッド車が目立った。欧州勢のクリーンディーゼルのような最新技術を搭載したエンジン車はなかったが、電気モータをパワートレインとする電気自動車が多く見受けられた。クルマだけでなくスクーターなども完成度の高いものが多く即普及していくと思われる。クルマのパワートレインとして現在は「エンジン+トランスミッション」が一般的だが、将来には燃料電池車を含む電気自動車が期待されている。電池の性能さえ飛躍的に向上すれば一気に「エンジン+トランスミッション」に置き換わるかもしれない。そんな中、中国の電気自動車技術は注目かもしれない。

さて次回は10回目を迎えるチャレンジビバンダム、欧州、北米、中国、日本で行われてきたが、来年がどこで開催されるかはまだ分からない。ますますクルマにおける環境対応技術に注目が集まる中、来年の開催地に興味がわく。

節目にもなる来年には開催地だけではなく、内容にもさらに新しい何かを期待したくなるイベントだ。

<長沼 要>