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コラム

クリーンエネルギー車が果たすべき役割

◆米国仕様の「プリウス」には、エンジンルーム内に銀色の「魔法瓶」

デンソーとトヨタ、タイガー魔法瓶の3社が、共同開発した蓄熱システム。エンジンの熱で温めた熱湯を3L蓄えられ、始動時にエンジンを暖められる。

<2008年06月26日号掲載記事>

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【「プリウス」の燃費改善技術】

米国仕様の「プリウス」には、日本仕様にない蓄熱システムが導入されているという。エンジンの熱で温めた熱湯を、エンジンルーム内に搭載された銀色の「魔法瓶」に蓄え、始動時にエンジンを暖めることで、エンジンの燃焼効率を向上させるシステムである。米国の排出ガス規制(CAFE 規制)に対応させるためのもので、排出ガス削減性能の向上だけでなく、燃費向上の効果もあるという。

この蓄熱システムは、トヨタとデンソーに加え、タイガー魔法瓶が共同開発したものだと報道されている。当社では、自動車業界以外の異業種企業の技術・ノウハウを導入することで、自動車自体の性能や自動車業界の発展に寄与するものが数多くあるはずであり、こうした異業種企業の自動車業界参入を支援してきた。今回の事例も、異業種企業の技術・ノウハウを活用する形で実現した典型的な事例ではないかと考える。

導入されたモデルが「プリウス」ということではあるが、原理的に考えると、この蓄熱システム自体は、ハイブリッド車(HEV)に限られたものではないと思われる。昨日、次期プリウスでは、太陽光発電システムを導入し、更に燃費性能向上を目指すというニュースが流れたが、これも同様だと考える。

【環境意識の高まり】

昨今の自動車業界において、環境技術に関する報道が毎日のように紙面を賑わせている。消費者自身の環境意識が日に日に増していることが大きく影響していると考えられる。今週開催されている洞爺湖サミットでも大きな議題として取り上げられている地球温暖化問題を受け、CO2 排出量削減に向けて消費者の意識が高まっていることもあるとは思うが、実態として消費者の意識に最大の影響を与えている要因は、毎月のように続いているガソリン価格高騰であろう。

環境対策技術という観点では、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、天然ガス(CNG/LNG)車、メタノール車等の、いわゆるクリーンエネルギー車であったり、欧州市場で普及しているクリーンディーゼルエンジン車への注目が集まりがちである。これらのガソリンエンジン代替技術については、着実に普及が進んでおり、将来的にも市場が拡大すると考えられる。

ただし、これらのクリーンエネルギー車であるが、現在の生産・販売規模では、それ自体の燃費削減による自動車業界全体の CO2 排出量削減効果は決して大きくはない。むしろ、自動車業界にとっては、クリーンエネルギー車単体での燃費削減以上に重要な役割があるのではないだろうか。

【クリーンエネルギー車の普及状況】

HEV に代表されるクリーンエネルギー車は、国内自動車市場全体の 2% 程度であり、自動車業界全体の CO2 削減という観点では、その影響力もまだまだ大きくないのが現状である。各クリーンエネルギー車の現状をまとめると以下のようなところである。

(1)HEV
クリーンエネルギー車の中では、現状の最大勢力。昨年の国内販売台数は 8 万台程度と国内市場全体の 1.5% 程度だが、トヨタ、ホンダを中心にモデル数を増やす計画を発表しており、ガソリン車との価格差も縮まりつつあることからも、今後も徐々に拡大する見込み。

(2)EV
国内では 1 万台弱しか普及していなかったが、来年度以降、三菱自工、富士重工を皮切りに市販化されるため、徐々に普及が進む見込み。とはいえ、二次電池の供給力、価格がボトルネックであり、当面はガソリン車よりも大幅に高くなると予想される。

(3)天然ガス車
商用車を中心に、年間数千台単位で導入が進んできたが、ガソリン価格が高騰している昨今、ガソリンよりも燃料代が安い CNG 車の販売が急増している。

(4)クリーンディーゼルエンジン乗用車
乗用車だけで見れば、国内市場では年間 2 千台前後販売されている。輸入車ブランドが先行して導入しているが、来年度国内メーカーも国内市場に投入を予定している。

【エネルギーの需給バランス】

クリーンエネルギー車に搭載される代替エネルギー技術であるが、HEV、EV 以外は、ガソリン以外の燃料を必要とするため、これらのエネルギー自体の需給バランスも考える必要がある。

仮に、国内の販売台数の全てがディーゼルエンジン車や天然ガス車になると、燃料の需給バランスも大きく変わることになる。現在の自動車用二次電池の生産能力を考えれば、全てを HEV と EV に置き換えることも現実的ではないだろう。他にも、水素自動車や燃料電池自動車があるが、これらも水素という新たな燃料を要するため、その生産に燃料・エネルギーが必要になるし、インフラの問題も考える必要がある。バイオ燃料の利用に関しても、食料の高騰という新たな社会的影響が発生しており、慎重に検討が必要であろう。
つまり、これらの代替エネルギー技術は、重要な環境技術であることは間違いないが、全てをこれに置き換えればエネルギー問題や環境問題が解決するというものではなく、世の中のエネルギーバランスを最適化するために必要なものであり、それぞれの特性を活かした領域への導入を現実的な範囲で進めることが重要と考える。

【燃費改善技術の有効性】

現実的に考えれば、現時点で、国内市場の 99% 以上が化石燃料に依存しており、これが急に置き換わるようなことは考えにくい。こうした中で、環境負荷を軽減させるために最も有効なことは、代替エネルギー技術以外の適用範囲の広い燃費改善技術を普及させることではないだろうか。

これまで、ガソリンエンジン乗用車の平均燃費は、1996年から 2006年の 10年間で、12.4km/L から 16.0km/L と、約 29% 向上している。ガソリン価格高騰に伴い、軽自動車や排気量の小さい小型車などの低燃費車へのシフトが進むことを想定すれば、今後さらに平均燃費も向上すると予想される。つまり、自動車業界は、それだけ技術革新を進める能力があるということである。

この平均燃費向上の背景には、燃焼制御の高度化、低摩擦化技術、軽量化技術等、多数の自動車メーカー・サプライヤの技術開発がある。こうした地道な技術開発の積み重ねこと、最も大きな効果を発揮するのではないだろうか。

【クリーンエネルギー車が果たすべき役割】

よって、市場の 2% のクリーンエネルギー車にだけ適用する革新的な技術を追いかけ、世界最高レベルの燃費を実現することを否定するわけではないが、残り 98% のクルマにも適用可能な燃費改善技術を実現することの方が自動車業界全体に与える大きく、意義があると筆者は考えている。

とはいえ、先進的な技術を開発したとして、それを全てのクルマに一気に投入するというのも非現実的な話である。

そこで、先行事例として重要な役割を果たすのが、クリーンエネルギー車ではないかと考える。つまり、燃費改善技術を先行事例としてクリーンエネルギー車に導入し、技術的な確立と量産性の確保を図った上で、既存のガソリンエンジン乗用車にも適用していくという図式である。

クリーンエネルギー車は、環境技術の象徴的な存在であり、そのユーザーも環境意識が高いと考えられるため、既存のモデルに比べ、環境性能に対する価値も高く評価すると考えられる。そうした好意的なユーザーから導入するというのは、もっともな戦略だと考える。

つまり、クリーンエネルギー車は、それ自体の燃費削減によって自動車業界の CO2 排出量を削減させるものという役割以上に、既存のガソリンエンジン乗用車にも広く普及させる燃費削減技術を確立するための先行事例としての役割の方が重要なのではないだろうか。

今回の蓄電システムや太陽光発電システムについても、一部のクルマに限られた技術ではなく、広く普及し、環境改善に貢献してもらいたい。

<本條 聡>

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