think drive (9)  『フランクフルトモーターショー ~前編~』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第7回 『フランクフルトモーターショー ~前編~』

フランクフルトモーターショーに行ってきたので、今月は同ショーを取り上げる。

今年のショーから感じたキーワードは「CO2」、これにつきるだろう。 3 月のジュネーブでもそうだったが、何か勢いが加速している感じが見受けられた。繰り返しで恐縮だが、欧州自動車工業会(ACEA)がEUに約束した「140g自主規制」と、さらなる法的な義務化へむけた動き(2012年に 130g/kmというメーカー平均排出量)に対する本気の現れとも受け止められる。

まずはM.Benz。相変わらずの大規模展示のなかでもひと際目立っていたワールドプレミアがF700だ。このF700、見た目は未来型ラクシャリーサルーン (Sクラス?)といえよう。内装の豪華さなども見をひくが、なんといってもパワートレインに興味がいく。DIESOTTO と書かれたエンジンは1.8L4気筒、このサイズのクルマにしてはとても小さが、最高出力は 175kW。そして15kWの電気モーターと組み合わせるハイブリッドで総合出力は 190kWとなる。さて、このパワートレイン、さらに秘密がある。 DIESOTTO とはDIESELとOTTOの組み合わせによる造語。 DIESEL は言わずもがなディーゼルエンジンで、OTTOとはオットーサイクル、つまりいわゆるガソリンエンジンのことだ。このエンジン、ガソリンを燃料とするが、一部領域を自着火燃焼を可能としているのだ。効率と NOx低減の同時低減において理想の形とも言われるHCCI燃焼を実現しており、その他の領域では火花点火による通常のガソリンエンジンとして機能する。そのため、ターボチャージャーや可変圧縮比機構をも有する最新技術満載のクルマだ。燃費スペックは実に5.3L/100km、 CO2排出量127g/kmとSクラスセグメントのクルマとしては超高性能だ。現在もテストが続けられており、2012年には発売を目指しているのではないかと思わせる。

そしてユーロ5をクリアしたディーゼル車という意図だろう EUマークを誇らしげに貼ったEクラスに搭載されたブルーテック( M.Benzの新世代クリーンディーゼルに対する総称)だが、AdBlue(尿素水)を使用しないNSRとSCRの組み合わせによるブルーテック1で規制を達成している。 さらに同システムのままでユーロ6をクリアする可能性も十分あるとの事だから、車重の重いMクラスなど以外の乗用車クラスでは AdBlueを搭載するブルーテック2を使う必要はないのだろう。そしてハイブリッドとの組み合わせのブルーテックハイブリッドもC, E, S,と各クラスに用意され2010年以降には発売開始するという。

その他メルセデスブースでは10車種以上もの環境性能を謳う車両が展示されていたが、各々の紹介をしていると紙面がたりないので、ここではそれらの展示車両から想定されるメルセデスが考えるハイブリッド戦略をまとめてみる。用意するハイブリッドは2種類。一つ目が GM, BMWと技術提携して進めている2モータータイプの2モードフルハイブリッド(モーター出力は 50kW程度)、そして、二つ目がフライホイールとの置き換えでモーター/ジェネレーターを搭載する1モータータイプ(出力は15kW程度)だ。Mクラス(ML450Hybrid)には2モータータイプだが、他は全て 1モータータイプが組み合わされる。組み合わせるエンジンがディーゼルなのか、ガソリンなのか、車両重量/クラス、そして仕向け地の排ガスレギュレーション、 CO2排出量などの性能要求を総合的に判断して、最適のハイブリッドシステムを適応させていくようだ。いずれにしても後述するVWの戦略を見てもこのフライホイール置き換え1モーター(/ジェネレーター)タイプのハイブリッドは今後、欧州勢ほぼ全車に搭載するとも言っているくらいの本命技術といえるだろう。さらにAクラスやスマートfor twoなどには、従来のスターターとオルタネーターを一体化し、アイドルストップ機能を実現するシステムで減速時に積極的にエネルギ回生を行う CO2削減アイテムも搭載してくるようだ。この装置をスマートはマイクロハイブリッドドライブと呼び、メルセデスではハイブリッドとは呼んでいないが、これらのシステムも含めると近い将来すべてハイブリッドになるのは間違いない。

そして2010年夏には Bクラスで量産型燃料電池車を発売するとも発表しており、2008年からの数年間は、M.Benzの新型車発表からは目が離せない。

さて、ドイツでもうひとつの巨大カーメーカーと言えば、VWだ。VWはM.Benzのプレミアムセグメントと少し異なり、よりダウンサイジングを意識したクルマがワールドプレミアされた。その名はUP!。3.45mの全長と 1.63mの全幅を持つ日本の軽自動車の幅を広げたようなデザインのコンセプトカー。エンジンなど詳細スペックはあきらかにされなかったが、現代の国民車のイメージだろう。地球環境を意識する人がこれから増えると思われるが、そうなるとクルマの一般的なサイズはこのくらいになると個人的にも思うサイズだ。トヨタもIQコンセプトというダウンサイジングを意識したコンセプトカーを出展しているのが面白い。

ところで、VWの技術的な戦略はどうなのだろうか。どちらが先というのはないが、M.Benzの技術の方向性と非常に似ている。VWも今後、フライホイール位置に置き換えるモーター/ジェネレータータイプのハイブリッドシステムを全車に搭載するという。そして内燃機関のさらなる性能向上についてVWは以前からCCSという HCCIタイプの新型エンジンの開発を進めているが、ガソリンエンジンからのアプローチとしてGCIという開発も進んでいるという。このGCI、M.BenzのDIESOTTOに較べ、実に地味なエンジン単体展示に留まっているが、とても注目に値する。ガソリンエンジンのシリンダヘッドを交換して最新の吸排気バルブコントロールシステムとする事だけで、部分的HCCI燃焼を可能にしているという。もちろん直噴システムそれもピエゾなどの高精度制御とターボチャージャーが必須だろうが、可変圧縮比装置もなしで部分的とはいえHCCI燃焼を可能にしているとは驚きだ。ハイブリッドと組み合わせて、コンセプトカーなら作れただろうと思わせる完成度だった。
いずれにしても環境対応性能の優れた事を意味するブルーモーションブランドでこれからも新型車をだしてくるであろうVW。もしかしたらゴルフ TSIのように、突然 GCIハイブリッドを搭載したゴルフが登場するのではないかと期待させられた。

次回へ続く。

興味のある方は下記動画サイトもご参照方。
http://www.startyourengines.jp/

<長沼 要>