think drive (2)  『クルマのパワーソース』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第2回 『クルマのパワーソース』

【新技術の製品化】

最近、立て続けに過給器付きガソリンエンジンがリリースされている。BMW 335i に搭載される 3L turbo、 そして、VW GOLF GT-TSI の 1.4L twin chargerだ。Mazda の DISI turbo もある。なぜ一時消滅したとも言えるターボシステムが復活したのだろうか?

それはクルマに対する要求(燃費向上、CO2 排出量低減)の高まりと、技術的要素が背景にある。前者の要求は、最近の IPCC 最新報告や、欧州委員会による 130g/km という欧州自工会が決めた自主目標(140g/km)よりも厳しい規制への動き、が報道されていることからもよくわかる。そして、後者については、直噴と VG (可変ジオメトリー)ターボが該当するだろう。しかし、直噴とターボは昔からあったはずだ。そう、技術そのものは昔からある。直噴技術は 1954年、M.Benz SL300 で製品化していたし、ターボは 1970年代に BMW やポルシェが製品化した後、特に日本ではブームとも言えるくらい普及し、VG 機能もいくつか出てきていた。それが、昨今のディーゼル乗用車の進歩と普及(欧州)が後押しして、この二つの技術が低価格かつ高品質で使用できるようになったのだろう。

もっとも直噴やターボに限らず、新技術としてリリースされる技術の殆どが、過去に、FS 段階の試作車や少量生産車としては存在していた。それがある時期に集中的に製品化されるのは、技術開発も需要と供給の法則に従う例だろう。圧倒的な性能向上をおよぼす新技術こそ別だが、多くの新技術は需要の後押しがあって、製品化が可能となる。

【ガソリンエンジンとディーゼルエンジン】

さて、話を戻すが、自動車の誕生以来 100年以上にも渡ってクルマのパワートレインの主役を演じてきた内燃機関、その中でも2大勢力であるガソリンエンジンとディーゼルエンジン、この両者が似てきている。もともとこの二つを決定的に分けるのは燃料と燃焼方法の違い、火花点火 ( SI = Spark Ignition) か圧縮着火 ( CI = Compression Ignition ) の違いだ。それぞれの燃焼特性にあった燃料がガソリンと軽油、というわけだ。まだこの着火方法の違いがあるので明確に分けられるが、両者の最新技術を比較するとガソリンの圧縮比はどんどん上昇してきていて、ディーゼルのそれはどんどん低下してきている。そしてシステムも直噴+ターボ(加給)と同じだ。

では、この両者のハードウエアが全く同じになる事はあるのだろうか?それは HCCI ( Homogeneous Charge Compression Ignition )という燃焼方式が鍵を握っている。読んで字のごとし、均質予混合圧縮着火。均質予混合とは現在のガソリンの燃焼形態を表し、圧縮着火はディーゼルの着火方法(特性)だ。今、カーメーカーやエンジンの研究機関においてこの開発が盛んだ。なぜなら、後処理が必要ないくらいの低 NOx 排出と高効率が両立できるから。

各社の研究アプローチはガソリン燃料からとディーゼル燃料からに分かれる。
しかし、どちらからも自動車用エンジンに求められる広範囲な燃焼という点にまだまだ課題が多い。広範囲な燃焼を可能とするためには、専用燃料の設計が近道だろう。多くのエンジニアとも意見が一致する。あるいは、エンジンはピンポイント運転をして、電気モータとの組み合わせで広範囲での出力を達成するか、いわゆるハイブリッド、である。

【組合せの可能性】

折しも現在、新しい自動車用燃料も百科爛漫だ。液体燃料をとってみても BTL、GTL、CTL、 等々ある。これらは全て何らかの一次エネルギーから製造する二次エネルギーだ。つまり、設計できる、そう、 Designed ( Designable ) Fuel だ。

そして、エンジンと組み合わせるトランスミッションも多様だ。トルコン ATは 8 段まで存在するし、CVT も一般化した。また、DSG、 SMG、等の2ペダルMT も多種多様。もちろん電気モータを組み合わせるハイブリッドも実現可能だ。

現在、内燃機関をコアにするクルマのパワーソースだけを考えてみても、燃料/エンジン/パワートレインの組み合わせで、もの凄い組み合わせになる。もっとも、これらの比較や特徴は別途紹介してみたいと思うが、今言える事は、これからしばらくは乱立気味になり、そう遠くない未来にある程度の多様性を保持しながら絞られるのだと思う。もっともそれは社会の需要に従ってか、革命に近い技術革新によってか、だろう。技術分野にいる者としてはバッテリーエネルギー密度の超高性能化、などの後者による変化を期待したい。

ん?でも内燃機関の進歩よりバッテリーの進化が進んだら、内燃機関は消滅か?いやいや、フェラーリの様な趣味クルマとしてきちんと残りますよ。ご心配なく!?

<長沼 要>