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コラム

「軌跡と構造」-クルマ社会の複合図-(4)「ブランド販売の達人たち」

いすゞ自動車にて国内マーケティング戦略立案等を経験したのち、現在は住商アビーム自動車総研のアドバイザーとしても活躍する中小企業診断士、小林亮輔がユーザー、流通業者、製造業者という立場の異なる三者の視点に日米欧という地理的・文化的な視点と時間軸の視点を加えつつ、クルマ社会の構造の変遷とその将来を論じていくコーナーです。

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第4回「ブランド販売の達人たち」

【カーブランド誕生】

前々回、ヨーロッパを中心とした「モータースポーツを支えた文化」について述べましたが、その文化を背景に、ヨーロッパ各国に現在でも著名なカーブランドが誕生しました。フランスではプジョー、シトロエン、ルノー、ドイツではメルセデス・ベンツ、ポルシェ、BMW、イタリアではアルファロメオ、ランチア、フェラーリなどなど。いずれも誇るべき歴史があるブランドであり、いずれもちょっと乗ってみたくなるクルマではないでしょうか。

【100メートル先からの識別】

いすゞ自動車在職中、デザイナーたちと「外国人はなぜ日本車がみな同じに見えるというのだろうか?」という議論をしたことがあります。議論の背景には日米自動車摩擦問題があり、当時、「アメリカ人には日本車すべてが同じブランドに見えているらしい」などともっともらしく語られていました。

デザイナーたちとの議論では「伝統あるヨーロッパのクルマは100メートル離れて見ても識別できるが、日本車は100メートル離れたらメーカーも銘柄も分からない」という意見が出され、さらに「どうしたら100メートル先から識別されるようになるだろう」ということについて真剣な議論が続きました。残念ながら、その場では結論が出ず、その後も何度となく日を変え、場所を変え、議論を重ねましたが、結局、答が出ないまま終えてしまいました。

【「ブランド」といっても】

さて、昨今、企業のブランド価値、ブランド評価額のランキングが報道機関等で発表されます。こうした金融市場における格付けや企業間における M&A 取り引きを前提としたようなランキングでは、トヨタ自動車、GE、P&G といった巨大優良企業「ブランド」が上位を占めています。

一方、シャネル、エルメス、ルイヴィトン、カルチェなど、ヨーロッパの気になるブランドを思いつくままにあげるとかるく十指をこえるでしょう。東京の銀座、パリのモンテーニュ通り、ニューヨークの5番街にはこうした「ブランド」のお店が軒を連ねています。

【価値尺度と記号性】

同じブランドといっても、企業のブランド価値としてランキングされる「ブランド」と銀座やモンテーニュ通り、5番街に軒を連ねるお店の「ブランド」とではその面持ちや雰囲気が異なります。「価値がある」「将来の価値が期待できる」という点では共通かもしれません。しかし、前者は法人顧客を対象としたものであり、後者の対象は個人のお得意様の深層心理ではないでしょうか。

やはり価値の尺度として研究を重ねた結果、経営資源に恵まれる巨大優良企業が上位にランキングされる「ブランド」と、企業規模が巨大ではないが故に、その記号性、象徴性、存在意義に必然性がある「ブランド」では「ブランド」の意味するところが異なります。

【遠くから人目で識別する】

ご存知の方も多いと思いますが、ブランドの語源は、「brandr (焼き付ける)」という古代スカンジナビア語であるといわれています。焼印は、古来、自分の所有する牛と他人の所有する牛を「遠くから人目で識別する」ために使われてきました。

今でも、モンゴルの遊牧民は4キロ先にいる自分の羊を見分けられ、中世ヨーロッパに通じるものがあります。遠くまで見渡すことのできる大陸では、自らの生命の安全を守るためには、家畜のみならず、人やクルマも「遠くから人目で識別する」ことが必要です。

【なぜ高値の取り引きか】

時代を中世に戻します。中世の陶工たちは、自分の作品である印として陶器の底に独自のサインやマークを入れるようになりました。ブランドは生産地を見分ける手段として用いられ、生産地を識別することによって競争相手との差別化を図り、独自性を高めていきました。

背景にはヨーロッパにおける貿易の歴史があります。重商主義の後期、イギリス東インド会社が中心となって貿易差額主義が台頭し、貨幣蓄積をはかり、貿易の差額による国富の蓄積を進めていきました。そこでは英国製品を高値で取り引きする必要があり、また確かな英国製であることを証明しなければ高値の取り引きはかないません。同じく重商主義を進めたフランスも世界を相手にした貿易を有利に進めるため、国際的に識別される今日の伝統的ブランドの基盤が築かれていきました。

【時空を超えて】

産業革命により大量生産方式が確立されると、規模の経済による利益拡大を求めたことに加え、交通機関の発達もあり、広域な地域に製品を供給することになりました。広域な取り引きを進めれば進めるほど「遠くから人目で識別する」必要性に迫られ、遠くは海外からでもいかに「一目」で識別されなければなりません。

自動車の場合、自動車自体が移動手段であり、国境を超えて広域に移動する過程では「どこの」「誰が」来たのかを「一目」で識別される必然性があり、同時に、その名称、形、品質、評判などが国境を越えた人々に「ブランド」として認識されていったのです。

こうした歴史と文化の中で育ってきたヨーロッパの商人たちは、学問とは関係なく、ブランドを使えばいかに高値の取り引きができるかをよく心得た、まさに、ブランド販売の達人なのです。ヨーロッパ各国の著名なカーブランドはこのブランド販売の達人たちによって高値で取り引きされ続けてきたのです。さらにブランドを活かす知恵は、時間を超え、空間を超え、発展途上国の潜在的な自動車ユーザーの心さえ動かしはじめています。

【要素を自然に身に付ける】

ブランド戦略研究の第一人者、デービッド・A・アーカーはブランド・エクィティの要素を次のようにまとめています。

○ 認知-そのブランドは、市場でよく知られているか。
○ 評判-そのブランドは、市場で高く評価されているか。
○ 差別化-そのブランドには差別化ポイントがあるか。
○ 活力-そのブランドには活力があるか。
○ 関連性-現在の顧客の現在の用途が重要視されているか。
○ ロイヤルティ-顧客にはそのブランドへの忠誠心があるか。
○ 拡張性-そのブランドには他の製品へ拡張する潜在力があるか。

「ブランド」の組織的な研究はアメリカや日本で熱心に研究されています。
しかし、クルマに限らず、ヨーロッパに本拠を置くブランドに強力な存在感があることは否定できません。

ヨーロッパ各国の著名なカーブランドはアーカーの指摘するブランド資産の要素を自然のうちに取り込んでいます。自動車は移動手段であり、その存在を「遠くから」「人目(一目)で」「識別される」必要があります。残念ながら国境を越えた移動経験が難しい日本ではブランドの要素を、やはり、「意識」しない限り身には付きません。

次回は舞台を、再度、アメリカ大陸に移し、アメリカにおける自動車販売の「ディーラーシップの変遷」について語ります。

<プロフィール>
中小企業診断士。住商アビーム自動車総合研究所アドバイザー。早稲田大学商
学部卒。いすゞ自動車で営業企画、マーケティング戦略立案等に従事。GM
Technical Centerに留学、各種分析手法を導入。

<小林  亮輔>

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