「軌跡と構造」-クルマ社会の複合図-(1)「クルマを作る・売る・使う」

「軌跡と構造」-クルマ社会の複合図-(1)「クルマを作る・売る・使う」
これまでさまざまな要素の影響を受けながら、クルマ社会は世界各地で発展を遂げてきました。

いすゞ自動車にて国内マーケティング戦略立案等を経験したのち、現在は住商アビーム自動車総研のアドバイザーとしても活躍する中小企業診断士、小林亮輔がユーザー、流通業者、製造業者という立場の異なる三者の視点に日米欧という地理的・文化的な視点と時間軸の視点を加えつつ、クルマ社会の構造の変遷とその将来を論じていくコーナーです。

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第1回 「クルマを作る・売る・使う」

【「軌跡と構造」を探る】

走行時に車両が移動する範囲を図面上に描いたものを「軌跡図」といいます。車両の機動特性を確認するために重要な図面であり、大型トラックでは物流基地に出入り可能か確認するために使われ、二次元平面で動きを表します。一方、クルマは、構成する部品も含め、その「構造」の優れた品質と安定性が求められます。そこで自動車産業界を立体的かつダイナミックに捉えるとの観点から題名を「軌跡と構造」とすることにします。

【クルマを作る・売る・使う】

このシリーズにおける一つの視点はクルマの「作り手」「売り手」「使い手」という異なる立場から自動車産業を捉えていきます。自動車は製造段階、流通段階、使用段階のそれぞれの段階で付加価値が生まれ、それぞれの段階に携わる人たちが、それぞれの立場で価値を見出し、それぞれの思いでクルマを語ります。そこで「クルマを作る・売る・使う」という立場の異なる三者の思いを踏まえてクルマ社会を語っていきます。

【空間軸・時間軸】

もう一つの視点は、空間軸と時間軸。日米欧では自動車産業の発達過程が異なります。しかし、地理的・文化的には背景が異なっていながら、ある観点で同じプロセスを歩むこともあります。地理的・文化的な相違に時間軸の変化を加え、クルマ社会の構造の変遷とその将来を重層的に論じていきます。

【産業の盛衰】

私がはじめてデトロイトに行ったのは20年前(1986年4月)、直前まで自分がマーケティング企画を担当していたビッグホーン(現地名=トゥルーパー)を空港の駐車場で発見して大感激、その一方、市内に移動するフリーウェイでは融雪剤の影響でフェンダーが錆び落ちた多くの日本車を見かけ、「日本の自動車産業はまだまだ学ぶことがある」と実感しました。

20年の時を経て、その日本のトヨタ自動車がアメリカのGMの生産台数を上回ろうとしています。長年にわたり圧倒的な強さを誇ってきたアメリカ自動車産業は窮地に立たされています。アメリカ自動車産業と日本の自動車産業では歴史が異なりますが、遠くない将来、日本の自動車産業がアメリカの自動車産業と同じ轍を踏むことは絶対にないといえるでしょうか?同じ轍をたどらないためには、少なくとも轍の「軌跡」と、その上をたどってきた産業の「構造」を明らかにする必要があると思います。

【問題解決のプロセス】

アメリカ自動車産業は衰退したとはいえ、産業内における製造工程のプロセスや手順はもとより、問題解決や意思決定のプロセスや手順について詳細な分析が行われてきました。それ故、研究者や自動車問題専門家が、いずれ衰退の原因を究明し、問題点や課題を明らかにしてくれるでしょう。

これまでもアメリカ自動車産業の場合、多くの優秀な研究者、自動車産業問題専門家が注目してきました。なかでもP.F.ドラッカーは、1944年以来、昨年亡くなるまでGMを組織研究の対象としてきたことは皆さんもよくご存知だと思います。ドラッカーの著作には、GM内部の人間にしか知りえない事情まで述べられており、驚くことが何度かありました。

さて、日本の場合はどうでしょう。工場のプロセスや手順こそ解明されていますが、問題解決や意思決定のプロセスや手順についてドラッカーのGM研究を超えるような研究が日本にあるでしょうか?

【日本における「自動車産業問題専門家」】

総務大臣を退任した竹中平蔵氏が、先日、あるテレビ番組で「日本にはポリシー・ウォッチャー(Policy Watcher・政策問題専門家)がいない」という話をしていました。アメリカでは代々の政権をポリシー・ウォッチャーたちが支えてきたと言われます。

前述のとおりアメリカ自動車産業にはプロの「自動車問題専門家」がいます。筆者には人に誇れるような経歴は何ひとつとしてありません。しかし、幸いにもメーカーに、自動車工業会に、自動車総連に勤務した経験、さらには中小の部品修理会社に勤務した経験があります。生意気なようですが、自動車産業を様々な角度から俯瞰することができると自負しています。

次回以降、日本における「自動車問題専門家」になりきって、皆さんとともに構造解析の手がかりを探っていきたいと思います。次回は欧米における「モータースポーツを支えた文化」についてお話しいたします。

<プロフィール>
1979年早稲田大学商卒。いすゞ自動車で商品企画、マーケティング戦略立案等に従事。GM Technical Centerに留学、各種分析手法を導入。中小企業診断士。

<小林  亮輔>