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コラム

リロケーションを通じてカルソニックカンセイが得るもの

◆カルソニックカンセイ、本社をさいたま市に移転へ。研究開発拠点も併設。
現在、3ヶ所に分散している設計部門を集約。東京中野の本社も移転する。

<2005年12月1日号掲載記事>
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この度、カルソニックカンセイは2008年の3月に本社をさいたま市に移転すると共に、研究センターも同市内に設立し、現在三箇所(栃木県佐野市、神奈川県愛川町、神奈川県横須賀市)に分散している設計部門を集約すると発表した。

カルソニックカンセイと言えば、2000年に日産系のカルソニック社とカンセイ社が合併した企業であり、フロントエンドモジュールやコックピットモジュールや排気ガズシステムなどを主力製品として開発している。
http://www.calsonickansei.co.jp/products/about_module.html

当該企業は特に、会社設立以来、「モジュールNO.1企業」になる事を目標として掲げ、この目標に注力した活動(事業の再編や組織改変)を行ってきているが、今回の本社移転や設計部門の集約も、これらの一貫した活動の延長線上のものではないかと想像している。
そこで、今回のコラムでは、まず、モジュール化とは何かを明らかにし、カルソニックカンセイのこれまでのモジュール化戦略を振り返ったうえで、今回の移転や設計部門の集約が当該企業の戦略にどのような影響を与えるのかを考察する。更には、今後のモジュールサプライヤーが進むであろう方向性についても私見を述べてみたい。

【モジュール化とは】
自動車業界内で仕事をされている方であれば既知のことだと思われるので,ここでは簡単にモジュール化について触れたい。

モジュール化とは複雑な構成部品からなる製品を一つの自律的機能のを持った大きな構成要素に分解することを指す。例えば、車という複雑な製品をコックピット部(計器やエアコン、オーディオ等を集約結合させたもの)やドア部(ドアパネル、ドアスイッチ、ドアトリム等を集合結合させたもの)に分解することである。

複雑なシステムを大きな単位に分割することで得られるメリットとしては、コスト低減や軽量化効果、初期品質の安定、開発期間の短縮、生産柔軟性(混流生産の容易さ)、仕入先管理工数の低減等が挙げられる。
http://www.calsonickansei.co.jp/faq/products.html

それではこれらのモジュール化のメリットを効率的に享受するために、カルソニックカンセイはどんな準備をしてきたのだろうか。詳細は次章で述べる。

【これまでのモジュール化戦略】
会社設立以来、カルソニックカンセイはモジュールを構成する部品メーカーとの資本提携、非コア事業の売却、更には組織変更等を通じてモジュールサプライヤーとしての基盤を築き上げていった。主な内容は以下のとおりである。

2000年:空調システムに強いカルソニックがスピードメーターや計器類に強いカンセイと合併してカルソニックカンセイになることで、コックピットモジュール(注1)などの生産を可能にした。
(注1)http://www.calsonickansei.co.jp/products/cp_module.html

2001年:センター制(製品別の開発部門と生産部門を統合した組織)からモジュールセンター制(モジュール別に開発部門と生産部門を統合した組織)に変更し、部品単位の部分的な改善を行うよりは、モジュール全体での最適化を通じて製品価値を高められるようにした。

2003年:フロントエンドモジュールの重要な構成要素であるラジエターの専門会社(東京ラジエター)を連結子会社化することによって、当該モジュ-ルの開発を容易にした。

2005年:モジュール化を志向する日産自動車に対する第三者割り当て増資を実施することによって、モジュール品の安定供給先の確保とモジュール品開発に関する知見を高められるようにした。

このように、モジュールの重要な構成部品を次第に確保して行きながら、組織構造をモジュール開発用に最適化し、モジュール化を志向する顧客と密接な関係を築いていったことが、会社設立後の最初のステージにおけるカルソニックカンセイの歩みである。それでは、このモジュール化戦略は今回の本社移転並びに開発部門集約によってどのように進化するのだろうか。

【今回の移転や設計部門集約が与える影響】
今回の発表で明らかになったことを再度整理すると、1)本社が東京中野をさいたま市に移転すること、2)栃木県佐野市、神奈川県愛川町、神奈川県横須賀市に分散している設計部門をさいたま市内に集約することである。これらの変更による影響は以下のとおりである。

1.設計部門の集約による技術力の強化が見込めること:
一番大きなメリットは3箇所に分散していた開発拠点を一箇所に集約できたことだろう。これまでは、モジュールの構成部品を複数の設計拠点で開発してきたが、今後はモジュールの構成部品ほぼ全てが一箇所に集まることでモジュールの全体像に関する情報を常に共有しながら、開発を進められる。

すなわち、モジュール品を進化させる為には、モジュールの構成部品を一点づつ改善して、それを再統合するというアプローチよりは、モジュール全体を見渡して、モジュール内の各機能や構成、部位と部位の連結部等を再定義することによって改善していくことが望ましいが、今回の開発拠点の集約によってこれが可能になったと言える。

2.意思決定が迅速に行われること:
モジュール品の開発に関して提案をする開発部門と彼らの提案に対して経営的な判断を与える本社機能が一体になったことで意思決定のスピードが速くなるだろう。

更に、日本での決定事項が海外拠点に迅速に伝達されるような仕組みも整えつつあるようだ。事実、カルソニックカンセイでは、現在、北米、欧州、アジアの各拠点における本社機能の組織再編とテクニカルセンターの設立を同時進行的に進めている。これによって日本の本社と開発部門を通じて出された提案が、現地のカウンターパート(各地域の統括会社と開発会社)に集約され、最終的には、日本からの提案が現地の事業会社の末端までに早期に伝達されるようになる。

3.地元の自治体や大学、中小企業等との協働効果が期待されること:
現在さいたま市では、グローバルに活躍する大手企業の本社を同市に誘致するのと同時に、彼らの将来のサプライヤーとなるような、ベンチャー・中小企業を誘致しようとしている。これは長期的な試みであると思うが、 将来的にモジュールの要素技術と成りうるようなものがこれらの企業から取り込むことができるようになるかもしれない。

また、カルソニックカンセイのような大企業が技術ニーズを出し、そのニーズに合わせたシーズ開発が大学などの研究機関で行われるようになると、事業化に繋がるような研究が増えるだろう。また、カルソニックカンセイとしても大学等に研究の一部を委託することで研究費を節約することができるようになるだろう。

【今後のモジュール化戦略】
続いて、この先モジュールサプライヤーにはどのようなチャレンジが待ち受けているのだろうか。またどのようなところに更なる発展の可能性が残されているだろうか、以下に私見を述べてみたい。

1.モジュール同士の連結すること:
モジュール同士を連結・統合させるような動きがあると業界関係者から耳にする。特に機能・性能的に相互干渉しにくく、統合が比較的容易だと考えられている外装・内装系の現モジュールなどは統合の方向に向かうかも知れない。結果として、モジュールサプライヤー同士の提携やモジュールの周辺部品の製造メーカーを現モジュールサプライヤーが取り込むような動きは今後も引き続き継続すると思われる。

2.モジュールで得た知識を他社に売ること:
モジュール開発の過程で得たノウハウを他の企業に売ることはできないだろうか。例えば、モジュール化製品開発に最適な組織や業務運用方法、モジュールの改善プロセスで得た部品費削減等のノウハウは、自動車業界内外の企業にも転用可能なものが存在するように思われる。

3.モジュール内のプラットフォームを更に外部に開放すること:
モジュール化の一つのメリットに、モジュール内のインターフェースを標準化することによって、不特定多数の企業から新しい技術の提案を受け入れ易くし、モジュール内部の技術的進化を促進するという考え方がある。

現状、このように必要なものを数あるオプションの中から選択するというアプローチは、買い手と売り手の長期安定取引から継続的改善メリットを得ようとする日本の自動車業界には馴染まない手法だと考えられている。また、このようにプラットフォームを開放することによって、自動車メーカーやモジュールサプライヤーが内部に取り込むべきノウハウを外部に流出することにもなるとも考えられている。

しかしながら、現状においても、外部の技術を有効活用することで、技術革新を促進できる余地が残されているのではないかと期待している。内部に取り込む部分と外部に任せる部分のバランスが再考されることがあっても良いのではないだろうか。

【最後に】
今回のカルソニックカンセイの本社移転や開発拠点集約の発表からは、IT技術の進化に伴って、人が仮想空間上で意思疎通を取ったりすることができるようになった現代ですら、まだ人が顔を突き合わせて話し合うことのほうが、意思決定のスピードや質などに優位性があるということなのだろう。

今後も、自動車の開発・製造メーカーのように、大勢で多種多様な人材から構成されている組織においては、今回のようにいわば、仕組みや枠組みを変えることによって業務の質とスピードを改善する試みがより重要な意味を持ってくるのだと考えられる。

<カズノリ (加藤千典)>

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