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コラム

技術戦略マップと共に歩む

◆経済産業省が技術戦略マップを作成、カーエレ分野の強化へ

<2005年9月5日日刊自動車新聞掲載記事>

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我々は地図があることでどんなに助けられているだろうか。初対面の顧客や友達と待ち合わせをする時にたいした時間をかけずに目的地に辿りつけるという事実。これはお互いが地図を共有しているからだと思う。

この度、経済産業省(以下経産省)は2006年3月を目処にカーエレクトロニクス分野の技術マップ作りに着手すると発表した。技術戦略マップとは端的に言うと将来のいつの時点でどんな製品や技術が求められるかを示した案内図のことである。将来必要とされる技術を日本という国家を単位とした経済開発ナビゲーターである経産省が明示することで技術開発に関わる産官学の各団体が目標を共有し、必要な時に力を結集することができるようになるのだ。

経済産業省としては今年の3月に電子・情報・ナノテクノロジー分野など20分野についてロードマップを作成しており、今回はそれに次ぐ試みとなるが、特にカーエレクトロニクス分野は、車の安全・環境・利便性を高めるのに重要な領域ということから今回の企画が持ち上がったようである。

そこで今回のコラムでは、そもそも「技術戦略マップとは何か」を整理したうえで、「技術戦略マップが日本にもたらすメリットとデメリット」について考察し、「技術戦略マップをどう活用すべきか」、「技術戦略マップを作成する人は何に気を付けるべきか」という2つの点について提言を纏めてみたいと思う。

【技術戦略マップとは】
技術戦略マップとは技術関連の未来予想図のことである。前述の通り、将来のいつの時点でどんな製品や機能・技術が求められるかを示した案内図でもある。また、政府が産業技術発展プロジェクトにどのように関わるのか(制度作りや助成金の提供等を通じて)についても言及している。

具体例を挙げると、移動通信の分野では、第一世代のアナログ自動車電話システム、第二世代と呼ばれる初期のデジタル移動通信システム、高速化および国際的標準化が進められた第三世代という過程を経て携帯電話の世代交代が進められたが、技術戦略マップによると第四世代が 2010年から立ち上がるであろうと予想されている。また、これと並行して情報セキュリティの基本問題委員会などの設置などが施策として計画されている(詳細は以下経産省のホームページを参照)。
http://www.meti.go.jp/press/20050330012/20050330012.html

このようなまだ起こっていない未来を予想することは極めて困難だと想像できるが、現在、技術戦略マップの策定メンバーは、産官学の専門家や有識者との意見交換することで未来の予想をしている。また、別な方法では、過去から現在に至るまでの外部環境(政治・経済・社会環境)における傾向を見つけ出し、その傾向から過去・現在の延長線上にどんな未来(外部環境)があり得るかを想像し、最後にその未来(外部環境)からどんな技術的ニーズが誕生しうるかを推測することによって技術的な未来予想をしているとの
ことである。

【技術戦略マップが日本にもたらすメリットとデメリットは何か】

それでは、こうした技術戦略マップは、日本にとってどのような影響を及ぼすだろうか。以下、メリット・デメリットに分けて考察してみたい。

《メリット》
1.製造分野で自動車業界外から業界内への新規参入が促進されること新規参入者が新しい顧客から仕事を得る時というのは、その顧客の欲求を満たすような製品・サービスを提供できた時である。顧客の欲求を満たすような製品を提供する為にはまず顧客の欲求が何かを知らなくてはいけない。

幸い技術戦略マップには広義の顧客の欲求、すなわち「顧客が将来どんな製品や技術を必要とするのか」が示してあり、ここで顧客の欲求を知り、具体的な製品やサービスに顧客の欲求を満たすような機能を製品に組み込むことができれば、新たな顧客から仕事を得ることができるようになる。

通常、製造領域の自動車ビジネスにおいては、自動車業界外からの新規参入者が顧客の欲求を正確に把握する機会は殆ど無に等しい。なぜならば、自動車メーカーは過去から密接な関係を築いてきた系列会社には自らのニーズ情報を出すが、過去において全く取引のない新規参入者にはこのような情報を出さない傾向が強いからだ。

従って、技術戦略マップによって顧客のニーズを把握できるようになれば、顧客の真の欲求を把握しないまま、顧客の必要としない製品を供給してしまった場合に比べて新規ビジネスを獲得出来る可能性は高くなる。結果として、特に製造分野で自動車業界外からの新規参入が増えると思われる。

2.経営資源を効率的に使用することができるということ
メリット1において、技術戦略マップによって(広義の)顧客の欲求(ニーズ)を把握できるようになると述べたが、顧客のニーズが把握できるようになると他にどんなメリットが生まれるだろうか。一つは経営資源(人・もの・金)を効率的に使えるようになることである。

例えば、顧客のニーズを把握せずに製品開発を行うと、作った製品が顧客のニーズを満足させることができなくなり、開発に費やした費用や時間が全て無になる可能性が高くなる。また、顧客のニーズが把握できず、やみくもに複数のアイテムを同時並行的に開発すると、開発資金が複数の対象に分散して最後には尽きてしまうという事態になる。一方、将来の顧客ニーズが把握できているならば、ニーズのあるものだけに経営資源(人・もの・ 金)を集中させることができる為、開発がムダに終わる確率が低くなる。ゆえに、経営資源を効率的に使うことができると言える。

3.短時間で開発を完了することができること
戦略マップには、顧客のニーズ(何を欲しているか)という情報の他に、「いつ」それが必要とされているかが明示されている。ある特定のタイミングを共通の期限として製品を構成する複数の技術の開発が進められは、時間的な目標を共有している分、それがなかった時に比べ時間に間に合わせようとする意思が働く。
間に合わせようとする意思が働けば、一つの部品の技術開発が終わっていないがゆえに、他の部位が待ちぼうけを食らうという現象も同時に起きにくくなる。ゆえに、期限が明確になる戦略マップがあると短期間で開発を完了する可能性が高まると言える。

4.政府が考える健全な社会を実現する確立が高まること
経産省の技術戦略マップは、基本的に人類にとって健全な未来が到来するようにする為にはどんな製品や技術が求められるのかを考えた結果できたものである。仮に経産省が策定した技術戦略マップが真に健全な未来にの実現に結びつくように正しくデザインされていたと仮定するならば、このマップに書かれたニーズを満たすような製品の開発を皆が目指すようになることで、人類が自動的にポジティブな状態に導かれるだろう。

《デメリット》
・潜在的な顧客のニーズを満たすような製品や技術が発明されにくくなること
前述の通り技術戦略マップによって、将来、顧客が欲するであろう製品や技術(顧客のニーズ)は広義には明らかになる。顧客のニーズが明らかになることで、顧客が自覚している欲求を満たすような製品や技術は増えると思われる。

一方、技術戦略マップに載ってこないような顧客が自覚すらしていない欲求、すなわち「こんなのがまさに欲しかったんだ」と驚かせるような商品を冒険的に開発してみようとする人達は減るだろう。これは、もし多数の開発企業が当該マップに開発の方向性の大部分を依存する傾向が強まったと仮定した場合の話である。

これまで見て来た通り、技術戦略マップにはデメリットこそあるものの、多くのメリットが存在することも事実である。しかし、誰もが前述のメリットを活用することで、そこから派生する利益をそのまま享受できるだろうか。それには技術戦略マップを正しく活用する必要がある。

【技術戦略マップをどう活用すべきか】
1.マップの翻訳力をつける
戦略マップをご覧頂ければ分かると思うが、戦略マップから与えられる情報は具体的に性能スペック(諸元性能)となって表されたものから、漠然と機能としてどんなものが求められているのかを表したものまで様々である。

例えば、ネットワーク分野のインターフェース速度が具体的に「100GB/Second」という具体的数値目標として表されたものがある一方で、ロボットコミュニケーションの分野では、「場面に応じた自然な対話」という機能のような定性的な情報のみを与えているものもある。与えられているものが機能の場合、この「場面に応じた自然な対話」を実現する為の機能を更に細分化する必要がある。例えば「場面に応じた自然な対話」をする為には、話し手の「表情認識」や「感情を認識」といった機能が必要になるし、認識した情報を基にどのような対応を取るべきか「判断」する機能を加える機能も必要となる。

更にはこれらの機能を細分化した後には、前述のように機能情報を具体的な数値目標として翻訳し直す必要がある。数値目標に翻訳した後には、数値目標を達成する為にどんな要素技術を持ち寄り、擦り合わせる必要があるのか考える必要がある。

自分の企業が大きな機能全体を担当するシステムサプライヤーでなく、要素技術を開発しているサプライヤーであればある程、機能を数値、数値を要素技術に結びつける翻訳力をつけ、自分の技術が上位機能の開発を担当するどの企業を手助けできるのか知るようになければならない。

2.できるだけたくさんの人とマップを共有すること
製品化をするうえで一番の障害は自分達の持つ既存の技術をどのようにマップに記されている機能に結びつけるかを考えることである。その為には1.で述べたように機能を細分化すると同時に、同翻訳後の「数値と機能→要素技術までブレークダウンされたマップ」をできるだけたくさんの人と共有することである。

マップは企業のトップだけでなく現場の人間も共有したほうが良いし、組織の中だけでなく、自社のサプライヤーとも共有したほうが良い。たくさんの人の目にマップが触れることによって既存の技術とマップに書かれた機能をうまく結びつけられるようなアイデアに気が付く確率も増える。

【技術戦略マップを作成する人は何に気を付けるべきか】

1.地図が正確であるように絶えず努力すること
今後、技術戦略マップが多くの人の目に触れるようになり、マップを基に企業の製品開発が進められることで革新性をもった技術が必要なタイミングで生み出されるようになるだろう。但し、地図が正しいという前提が付くことになるが。

マップの作成者は、地図が限りなく正確になるように努力しなければならない。例えば、地図を作成する時にはできるだけ多様な専門性を持った有識者から意見を取り入れ、地図の妥当性について監視する度合いを強める必要があるし、環境の変化に応じて絶えず地図の内容を改定することによってBest Guessに努める必要がある。そうでなければ、皆間違った地図に基づいた不要な開発が行われることになるだろう。

2.地図の作成に留まらず実用化・製品化に向けて支援すること
地図ができると地図に基づき日本のあちらこちらで開発が個別に進められるようになる。この散在したユニットの開発を最終的にはひとつの機能を持つシステムとして統合していく必要がある。課題となるのはこのように散在した複数の企業がお互いに足りないものを相互に補えるようパートナーシップの構築を誰かが手助けする必要があることだ。すなわち、地図の作成だけでなく、地図を使って進められた個別の開発が実際に製品として実用化に到達するように最後まで見守り続ける存在が必要だと考える。

3.顕在化していない新たなニーズをどのように掘り起こすかを考えること前述の通り、ニーズを示すことによって技術開発を効率化させることを目的とした技術戦略マップは特定技術の精緻化を促すかもしれないが、顧客が気づいていないニーズを新たに創造するような劇的な変化をもたらすことができない。このデメリットを補う為にも、この戦略マップ以外の手法で新規性や革新性のある技術開発を推進するような施策が今後施されるべきだろう。

【結論】
技術戦略マップのような未来予想図が経産省によって策定されることにより、社会的利益に繋がるような技術開発がより効率的に行われる可能性が大いに広がったことは事実であろう。一方でこの優れた道具を最終的なゴールである製品化に結びつける為には、道具の利用者だけでなく道具の提供者の両者がこのツールの弱点や効率的な使い方について熟知し、ツールの強みが際立てられるように努力する必要がある。今後技術戦略マップが自動車業界に与える影響を見守りながら、今回述べた私見がどの程度現実性をもつものなのか自分なりに検証していきたい。

<カズノリ (加藤千典)>

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