トヨタの世界戦略車「IMV」、中南米で「ハイラックス VIGO」・・・

◆トヨタの世界戦略車「IMV」、中南米で「ハイラックス VIGO」の販売好調。
ブラジルやアルゼンチンでは4~5ヶ月の納車待ちの状態となっている。

(―真に「Global」であることはどういうことか。
トヨタは今日私たちにひとつの理想を示した―)

<2005年04月05日号掲載記事>

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「GLOBAL」であること。これまで数多くの自動車メーカーがこの言葉に対する独自の解釈を「世界戦略車」とそれを支える「独自の生産販売体制」という形で体現しようとした。しかし、トヨタほど車作りを支える人・企業文化が高次のレベルで世界的に一貫している企業というのはそうは思い当たらない。

もちろん、フォルクスワーゲンのビートルのように車単体として世界的ヒットを打ち立てた車も確かに存在はしたものの、流通・生産・調達の各分野が全世界的に一貫した質を維持していたとは言いがたいし、現在も各社が世界戦略車を市場に投入するものの、Regional な存在を超越できないでいる。

今回の報道で明らかなとおり、トヨタの IMV(INTERNATIONAL MULTIPURPOSE VEHICLE) プロジェクトは中南米、アジアを始め世界のどの地域においても大きな成功を収めているようである。今回、トヨタがどのようにこのような大成功を勝ち得たのか筆者なりに成功要因を整理してみようと思う。成功要因は4つあると考える。

一つ目に、どの地域に住み、どんな特性をもった顧客を車の販売対象者に含めるのかといったようなセグメンテーションの絶妙さが挙げられる。特に世界戦略車を投入することによって得られる最大のメリットは世界中に散らばっている顧客を一くくりにすることによって得られる共通化のコストメリット(規模の経済を利用した原価低減効果)であり、顧客の数を最大化する為には、世界に点在する顧客のニーズを満たす要素(例えば、車の耐久性、低コスト等)の中からどれを商品に織り込むと、どの地域の何人の顧客が喜んで商品を購入したいと思うのかをできるだけ正確に予想することによって、顧客の MASS が最大となるところを見つけなくてはならない。

今回のプロジェクトはアジア・中南米・アフリカという新興国を中心に全世界的に売り込もうという企画であるが、これらの全ての地域の特定の層の顧客を包括的に魅了するような要素を車という製品の中に適切に散りばめたことが今回のヒットに繋がったと考える。

二つ目の成功要因は、トヨタの描いた IMV の青写真(ビジネスモデル)を現実のものにすることを可能にする生産支援体制にあると考える。具体的には、まず「UMR プロジェクト(Unit&Material Manufacturing Reform) を立ち上げたことである。UMR が意味するところは、世界中のどんな文化的、教育的、宗教的背景を持った作業者でもおなじように作業ができるようにする為に生産設備をできるだけ簡素にすることである。これによって「長期間、故障しない車」のモノ作りを世界のどこの生産拠点においても同じ品質レベルで再現できるようにしている。

もうひとつの例は「グローバル生産推進センター」の設立である。世界各地の製造現場の管理者をトヨタ元町工場にある施設に召集し、短期間に高レベルの教育を施すことである。研修を受けたこの監督者が海外の現場に戻った後、下位のチームメンバーにトヨタのものづくりの哲学を伝承することによって一貫した理想が常に現場に存在するように努力しているのだと思う。

更には、生産拠点をアジア・アルゼンチン・南アの 3 極体制を敷いていることも、生産にトラブルが起きた際の相互補完を可能にしている。これらが、トヨタの描いたビジネスモデルの実現性を保証しているのだ。

三つ目に、ボデー・内装部分とプラットフォームの開発の分離体制が挙げられる。現在 IMV プロジェクトにおいて、トヨタはボデー・内装部分の開発を海外で現地化している一方でプラットフォームの開発を日本で行っている。これはボデーとか内装部品というのは、顧客の目に映りやすい部分であり、彼らのニーズが顕著に製品に反映される部分である。ゆえに、この部分の開発を現地化することは、顧客のニーズをすばやく商品に反映させながら市場に改良品を再投入することを可能にしている。

一方、プラットフォームは、ニーズの多様性に国際間の顕著な差異は見られない。ゆえに共通化が可能な部分であり、自動車ユーザーの生命に関わる故障に繋がる可能性が他の部分に比べて高い為、開発のノウハウが蓄積されている日本で設計したほうが良いのである。このように現地化と日本化を上手に使い分けながら、トヨタは製品投入スピード、コスト、安全面での最適化を図っている。

四つ目に、貿易協定を効果的に利用していることが上げられる。トヨタでは「ベストなものをベストなところで造る」という思想が浸透している(e-mobile-21,26 号より引用)。アジアや南米諸国にある既存の生産拠点にも車の部位によってベストな拠点が存在するが、そういった「The very best」な生産拠点を選択的に利用するために ASEAN 自由貿易協定やメルスコル(南米南部共同市場)を使って貿易障壁を回避しながら生産活動をすることは、そういった利益を享受できない地域的戦略を取っている企業に比べて優位性を自分の手元に置くことになる。

以上、トヨタの IMV プロジェクトの成功要因を筆者なりに整理して見た。トヨタは国際ビジネスとは切り離せない地域ごとの文化的、教育的、経済的、政治的な差異を巧みに利用したり、回避したり、正面から問題解決しながらベストな答え(ビジネスモデル)を導き出してきた。
今回のトヨタの取り組みは、「GLOBAL であることはどういうことなのか」という自動車メーカー各社が抱く疑問に対して一つの理想を示したと言えよう。

最後に、自動車メーカーの国際戦略に対する提案と今後起こりうる問題点について考えてみたい。

提案できることとしては、富裕層と低所得者層の所得格差が激しい新興国で世界戦略車を売る際、特に低所得者層に対するファイナンシャルサービス(自動車ローン)を今以上に拡充させるのはどうであろうか。
例えば、米国の P&G がインド市場に参入した時、低所得者に対するシャンプーの普及をさせる為、シャンプーをボトルではなく、一回の洗髪分をビニール袋単位で切り売りして、お金に余裕がない層に自らのブランドを認知させるべく販売促進したと聞く。
インドにおいては低所得者層が人口の約 7 割以上を占める為、小パッケージ化による単価の下降をも上回る十分な売上が上がったそうだ。

シャンプーと自動車を同じ土俵で比較することに無理があるかも知れないが、低所得者層に対して自動車ローンを提供することにができれば、個人の一回あたりの支出を最小限に抑えることができるし、自動車の普及率も上がる。低所得者層の人口は膨大である為、車の販売数増加に伴い自動車メーカーの利益も拡大すると考える。貸し倒れによるリスクは低所得者層のほうが富裕層に比べて高いのは事実だろうが、成功するチャンスは十分残されていると考える。

今後起こりうる国際ビジネス上の問題としては3つ考えられる。一つは、国際戦略車のように 1 つの製品を全世界的の多様な顧客に販売しようと思うと、対象とする顧客の対象が広範囲になり過ぎるため、特化型の競合自動車メーカーにターゲットとする顧客を部分的に奪われる可能性を秘める。

2 つ目に Luxury と Economy-Car の中間に位置する車は顧客の個別のニーズに合わせてカスタマイズする部分も必要だし、経済的なメリットを通して顧客に訴える必要もある。カスタマイズすることと仕様を共通化して経済的なメリットを出すことはお互いトレードオフの関係にある為、二つの要素のどこに妥協点を見つけることが課題となるだろう。

最後に、Global な環境は日々刻々と変化する。例えば経済の発展に伴って、人件費の安価な国は経済発展のスピードがより遅い国にシフトするだろう。また、関税政策などは、当事国の政権を誰が握るかによって急速に変化してしまう。
よって環境の変化を先取りする。もしくは環境の変化に影響を受けない普遍的なオペレーションの体制を構築する必要がある。

<カズノリ (加藤千典)>