ソフト開発のアールシーエス社、トヨタ系カーナビの組み… 

◆ソフト開発のアールシーエス社、トヨタ系カーナビの組み込みソフト開発へ
日本システムウエアとの共同事業。沖縄・豊見城での雇用を拡大する方針

<2005年04月05日号掲載記事>

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今回ソフト開発のアールシーエス社がトヨタ向けカーナビ用組み込みソフト開発事業に乗り出すことになった。

これまで、日本の自動車メーカーがサプライヤーから調達する自動車用の部品においては、自動車メーカーと部品メーカー双方がお互いの内情をある程度開示するなかで、コスト・品質・技術面での改善を試みる傾向が欧米自動車メーカーに比べ強かった。ゆえに、お互いが安心して協業することを可能にする長期的な友好関係を築くことが前提となっていた。

一方、ソフトウエアの調達はコンテンツプロバイダーが乱立し、技術革新のスピードも速いことから部品の購買に比べるとサプライヤーの選択肢を広げたなかでの採用が多くなるし、サプライヤーの変更頻度も高くなる。よって、ソフトウエアの自動車業界への参入障壁は部品よりも低く、ベンチャー企業にも比較的門戸が開いている分野だと言われる。
しかしながら、実際にはソフトウエアにおいてもベンチャー企業の自動車業界参入の成功事例は数えるほどしかない。ニッチで技術革新の早いこのような分野においてベンチャー企業が自動車産業の発展に寄与する可能性が高いと感じているだけに残念なことである。

おそらくベンチャー企業の有効活用によって自動車業界の成長を促進するためには、売り手側と書いて側それぞれに一定の努力が求められると思われる。その努力の内容について、今回は筆者の提案を述べたい。

まず、売り手側が行うべきこととして、マーケティング面での努力が挙げられる。ベンチャー企業は、新しい基盤的技術を買い手に紹介することばかりに固執し、顧客に売り込みに行ったのはよいが、「この技術が車のどの部分に利用できるのですか?それによって車はどのようなものになるのですか?」というように逆に自動車メーカーの設計・購買担当者から質問されると、たちまち答えに窮してしまうということをしばしば耳にする。顧客のニーズを把握したうえで、そのニーズを満たすようにコア技術を製品に組み込むような努力が望まれる。

MOT(Management of Technology)といった80年代に米国のMITで生まれた概念が最近でもビジネス誌に登場することがある。この概念の意味は「新技術知識の創出、技術資産の蓄積、技術知識の活用という全過程を得意先のニーズに合うように効果的にマネジメントすること」であるが、ベンチャー企業にも MOT が求められるのである。

人材リソースの不足から MOT の実行が難しいとすれば、社外から「A という技術と B という技術をあわせると、顧客のニーズを満たすような製品Cができる」といった判断ができる技術に精通した外部のコーディネーターを活用することを検討してみる必要がある。

一方、買い手にできることとしては、自社が新サプライヤーにどんな技術を求めているのか、自らの期待を潜在的なサプライヤーに明確にすることである。現在日本の主要自動車メーカーの WEB サイトにアクセスしても仕入先に対して自らの調達方針や求める技術について情報を明示しているのは一部の会社に限定されている。

どんな技術を求めているかを公にすることは、その企業が技術的に今後どんな強みを際立たせたいかという自社のコンピテンシー構築の方向性や未解決の課題を他の競合メーカーにさらすことへの警戒心によるものだと思う。

しかしながら、買い手側が自らの期待を明確にすることで、売り手側は自らの人的・金銭的な資源を特定の製品開発に集中させることができるし、自動車メーカーも採用に値する提案に接する機会が増大するというメリットがある。

例えば、韓国のサムソンの調達ポリシーなどは対照的である。彼らの WEB サイトを見るとその購買ポリシーの透明性(情報開示度)に対して驚嘆してしまう。彼らは、”Win-Win Policy”という自動車メーカーとパートナーとの開かれた関係に基づいた購買政策を掲げている。具体的には3つの特徴的な手法を取り入れている。

1つめに、全世界的なコンタクトポイントが明示されている。これによって潜在的なサプライヤーは世界のどこにいながらも調達担当者にアクセスすることができる。

2つめに、予想発注数量が明確にされている。この情報をもとにベンチャー企業は自ら将来の売上予測を立てることができる。

3つめが、ベンチャー企業向けのファイナンシャルサービス情報である。自ら技術的斬新を持った企業を支援することを掲げ、零細企業と巨大企業の間に存在する目に実際には見えないが大きく隔てられている溝を埋めるための努力をしている。このような活動の結果、液晶モニタなどが世界 NO.1 の商品となり、携帯電話の分野においても全世界的に躍進を続けている。私はイノベーションというのはこのようなリラックスした雰囲気のなかで生み出されると信じる。

最後の提案だが、是非とも自動車メーカーには、自らの試験施設や設備の一部をベンチャー企業などに貸し出すような活動にも挑戦して頂きたい。ベンチャ-企業は自らの研究の成果を確認する場として公共の試験施設を探すことに四苦八苦していると聞く。

アメリカでは年に何回か企業が地域住民を自らの工場に招きいれて地域住民の声を自らの生産活動の在り方に反映させたりしているが、日本でも自動車メーカーがベンチャー企業を自社施設に招きいれ、その中から創造的な技術を一緒に作り出すような試みがあってもよいのではないかと思う。

最後に、そうは言っても一朝一夕に自動車メーカーとベンチャー企業の間の溝が一気に埋まるものではないと思う。両者を取り持つコーディネーターの存在が求められるはずである。われわれ住商アビーム自動車総合研究所では進んでその役割を買って出ることで自動車業界の持続的な革新と成長に貢献したいと思う。その成果をみなさんにできるだけ早くかつ沢山ご報告できるよう自らの活動に専心していきたい。

<カズノリ (加藤千典)>