くるま産業”次代”への羅針盤 『開発費の透明化(2)』

弊社親会社であるアビームコンサルティングが、自動車業界におけるモノづくりから販売、マーケティングに至るまで、“次代”への示唆をさまざまな角度から提案していく。

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第 1 弾は、アビームコンサルティング製造/流通事業部の川本剛司が開発費の透明化について 5 週に渡って紹介する。今回はその第 1 回にあたる。
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第 1 弾 『開発費の透明化 (2)』

前回、自動車業界における開発費管理の重要性、及び開発費の種別と特徴に関して述べたが、今回は開発費管理の難しさについて考察する。

そもそも開発費を管理するという事は、長期に渡る車両開発の中での様々な費用を、予め会社独自で定めた規定に沿って正確に把握(見える化)するという事である。

また、規定の中で設定される項目軸(切り口)や開発期間の細分化レベル、予測手法は各社で異なるものの、開発期間中における実績と予測との乖離を定量的に把握(予実管理)する事で、Next Action に繋げることが可能となる。

開発費を管理する事の利点については次回詳細に考察するとして、ここでは開発費を正確に把握(見える化)する際の難しさについて考察する。

前回に引き続き、車両メーカ視点での「車両開発費」と、部品サプライヤ視点での「部品開発費」について、それぞれの開発費を管理する難しさを「実績管理」と「予算策定」の2つの観点から考察する。

尚、「開発費」の定義としては、前回述べた通り、「製品開発決定後の車両開発スケジュールに則った製品/部品開発コスト」とする。

【実績管理(予実管理含む)の観点での難しさ】

『車両メーカ視点での「車両開発費管理」』

(1)車両スケジュール変更に伴う変更管理
開発スケジュール変更に伴い、実績計上のタイミングがずれることになるので、期間別の正確な予実管理を行うためには、予算の変更管理もきっちりと行う必要がある。
例) 2009年 9月予定の試作車製作が 10月に延期になった場合、9月に予定されていた試作費の実績計上が 10月になるため、それにあわせて予算も変更しないと、9月に大きな予実差異が発生してしまう。

(2)内部開発部品と外部開発委託部品の混在
内部開発部品とサプライヤへの開発委託部品では、開発費管理の切り口や管理期間・周期などが異なり、車両視点から一元管理することが難しい。

(3)車両メーカの業務形態(組織構造)による開発費計上
一人の設計開発担当者が複数車両開発を担当する場合、特定車両に対する開発・設計・評価等の実績工数の計上が難しい。

例)ある担当者が A 車と B 車を担当しており、新規開発部品を共に採用する場合、新規開発に付随する設計開発工数等をどのように計上させるのか?
最終的に車両軸で開発費を”見える化”する場合には按分方法が重要となるが、その方法を社内統一化する必要がある。

『部品サプライヤ視点での「部品開発費管理」』

(1)車両メーカのスケジュールや仕様に合わせた実績計上
部品開発自体が、車両メーカの車両開発状況や仕様要望に大きな影響を受ける為、「車両メーカ視点(1)」同様、変更管理を伴う予実管理が難しい。

(2)自社内開発費なのか、納入先向け開発費なのか
サプライヤ独自の技術領域に対する開発費と、納入先の車両メーカに特化した技術領域に対する開発費の計上棲み分けが難しい。
どのサプライヤも自社特有の技術なり製品基盤なりを有しているが、その強みを高める為の開発費と、納入先の車両仕様に合わせた調整要素に対する開発費をどのような視点で切り分け計上させ、”見える化”させるのか?が難しい。

(3)複数社へ納入している部品の開発実績計上
同一部品を複数納入先へ提供する場合等は、開発費計上方法が難しい。
部品別での開発費”見える化”は容易だが、納入先別或いは対象車両別等での開発費”見える化”は「どのように按分させるか?」というルールが必要である。

【予算策定の観点での難しさ】

『車両メーカ視点での「車両開発費管理」』

(1)開発費予測時の切り口設定
複数年に跨る多項目の車両開発費用を時系列に詳細項目まで落とし込んで予測する事は不可能に近く、ある程度の経験値に基づく粒度の粗い予測とならざるをえない。

(2)新規技術採用に伴う開発費予測
新規技術の採用規模や車両への搭載性にもよるが、そもそも市場に出ていない技術に対する設計開発や試作・評価の期間的・金銭的予測が非常に難しい。
特に、今後重心が置かれていくエコカー開発に対する予算策定は、経験値が少なく、正確な予測は難しい。

『部品サプライヤ視点での「部品開発費管理」』

(1)車両メーカの発注数やスケジュール、仕様に依存する予算策定
自社での需要予測ではなく、車両メーカの発注数やスケジュール、仕様に依存した開発予算の策定となる為、大きな変更による誤差が発生してしまうなどの難しさがある。

(2)受注前後での予算策定の難しさ
自社が車両メーカに対する部品供給の競合サプライヤの一つの場合(受注前)、受注出来た場合と受注出来なかった場合の両パターンに対し予算想定を実施する(構えておく)必要がある。

これまで車両メーカ・部品サプライヤ各視点から開発費の「実績管理」と「予算策定」の難しさを列挙したが、多くの部品供給サプライヤや関係者が携わる裾野の広い自動車産業において、開発費管理の視点(切り口)や、抽出データの解析方法、次なるプロジェクト/部品開発への活用方法は各企業で様々な思惑があろう。

また、長期に渡る車両開発に対し、予期せぬ方針変更(スケジュール/仕様変更等)は不可避であるが故に、車両メーカ/部品サプライヤ共、変更管理が非常に難しくなる事は当然である。

まずは第 1 話でも述べた通り、現状の開発費実績をいかに把握するのか?が、各企業で管理の視点(切り口)は異なるかもしれないが、非常に重要な事である。

今回は開発費管理の難しさとその要因について述べた。次回からは開発費管理による利点を車両メーカ/部品サプライヤにおける各ステークホルダー別に考察していきたい。

<川本 剛司>