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コラム

自動車業界とXX業界 第10回『自動車業界と食品業界』 

自動車業界と××業界を比較し、製品、業界間の関連性や類似点・相違点から自動車業界への示唆を探るこのコラム。弊社副社長の秋山喬とアビームコンサルティング経営戦略事業部シニアコンサルタント山田将生の共同執筆です。

第 10 回の今回は、「自動車業界と食品業界」です。

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【はじめに】

第 10 回目となったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業界とを比較し、業界間の関連性や業界特性等に関する類似点・相違点を把握。最終的には他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするものである。

第 10 回の今回は食品業界を取り上げることとする。食品業界は第 9 回のテーマであったスーパー業界の上流に位置する業界といえるが、食品のバリューチェーンと自動車のバリューチェーンとを比較してみることとしたい。

食品業界は「工業統計表」(経済産業省)の分類上は「食料品製造業」と「飲料・たばこ・飼料製造業」の 2 部門からなり、製造業全体の総産出額の 1 割強を占める最大の生活産業である。

また中・外食産業も含めた食関係市場の総額は約 80 兆円であり、その内訳は生鮮食品が 2 割、加工食品が 5 割、外食が 3 割となっている。

このように商品としての食品は生鮮食品と加工食品とに大きく分かれるわけだが、生鮮食品とは農業、畜産業、漁業により生産、漁獲され素材のまま消費者にわたる商品を指し、一方の加工食品は事業者により加工され工業製品として消費者にわたる商品を指す。

食関係市場は外食産業が 70~ 80年代に飛躍的に拡大するのにつれて成長してきたが、バブル崩壊以降、市場規模が伸び悩んでおり、マーケットの成熟化に直面しているといえる。

食品のバリューチェーンを俯瞰すると、まず川上には農業、畜産業、漁業を営む事業者がおり、川中には食品メーカーが存在する。そして川下の流通領域には卸売業者、コンビニ・スーパー等の小売業者、外食チェーンが存在し、消費者に対して商品、サービスを提供している。

そして、川中にあたる食品メーカーは製造する製品によってセグメントが細分化されており、それぞれのセグメントの中では主要メーカーが大きなシェアを占め、中小メーカーとの二極化が顕著となっている。

例をあげると醤油市場におけるキッコーマン、うまみ調味料市場における味の素、製パン市場における山崎製パン、即席麺市場における日清食品などであり、欧米のネスレ、ユニリーバ、クラフト・フーズのような総合食品メーカーというものが、日本においては存在していない。

このように川中にあたる食品メーカーがセグメントにより細分化されている一方で、川下にあたる卸売業者、コンビニ、スーパーは業界再編等により規模を拡大し、食品メーカーに対する一定の交渉力を持っている状態である。

また、これまで、女性の社会進出、核家族化といった消費者のライフサイクルの変化に応じて、冷凍食品、外食、中食など商品、サービスを巧みに投入してきた食品業界であるが、昨今は健康ニーズの高まり、高齢化社会の到来に応じた特定保健用食品などがトレンドとして浮上してきている。

このように成熟化が進む国内マーケット攻略に挑む食品業界と、同様に国内マーケットの成熟化に直面している自動車業界とを比較することで何か見えてくることはないだろうか。

【業界特性の類似点・相違点】

「相違点」

両業界の相違点としては、まず自動車業界ではトヨタ、日産、ホンダといった主要な自動車メーカーが売上高の 6 割以上を海外市場に依存し、現地生産が進んだ現在でも 500 万台近い台数を海外に輸出している外需依存、輸出型産業であるのに対し、食品業界は内需依存、輸入型産業であるということが挙げられる。

実際、山崎製パン、森永乳業、キューピーといった食品メーカー大手でも売上の 9 割以上を日本市場に依存しているし、食料自給率は 40% と先進国中で例を見ないほど低い水準となっているが、このような内需依存、輸入型産業となったのには供給と市場、両面での理由が存在する。

まず、供給面では日本が人口に比べ農地が狭く平坦な土地が少ないことや海に囲まれていることなどが挙げられる。加えて、政府による生産者保護は国産原料のコスト高を招き、小麦、大豆、肉類、魚介類といったもののほとんどが価格の安い輸入原料となっている。

また、市場面では食品が商品特性として生活必需品であり、自動車以上に地域性、ローカル色が高いため、海外市場を開拓するのが難しいということが挙げられる。一方で、日本は一人当たりの食料消費レベルが世界最高水準にあるため、わざわざ海外市場を開拓する必要にも迫られなかったともいえる。

そして、数少ない食品メーカーの海外進出も、海外の市場を狙うというよりは、海外の安価な原料、労働力を利用して日本へ輸入することが主目的のケースが多い。このような動きにより、元々、原料、素材が中心であった輸入も加工品が増えてきている。

このような内需依存、輸入型産業である食品業界の場合は、自動車業界以上に国内市場の成長鈍化が危惧すべき問題になっているといえるだろう。

また、国内市場の攻略ということを考えた場合、食品業界には自動車業界との違いがもう一つ存在し、それが食品メーカーの課題ともなっている。

もう一つの違いとは先述したとおり、食品業界では食品を加工する川中の領域のセグメントが細分化されており、セグメントごとに主要プレイヤーが存在するのに対して、川下にあたる流通領域では業界再編が進み、食品メーカーに対する大きな交渉力を持っているという点である。

これは自動車メーカーが大きな交渉力を持つ自動車業界とは正反対であるといえる。

但し、1980年代はスーパーを中心とする小売業者がバリューチェーン内で主導権を握り、商品の売れ筋選別が短期かつ売上優先で行われ、食品メーカーが一方的に振り回される事態となっていたが、近年は小売業者側の考え方も変化し、消費者利益を第一に食品メーカー側との連携に重点が置かれつつある。

このようなバリューチェーンを通じて、消費者への価値を最大化し、バリューチェーンを構成する事業者が共に栄えるという考え方は、自動車業界でも同様に重要であり、メーカー、ディーラーの関係においても当てはまる。また、日本においては、そのような協力体制が構築できていても海外ではディーラーの専売店化がなされておらず、良好な関係が築けていないという話はよく耳にするため、日本の事例をモデルケースとして海外に展開することも有効ではないだろうか。

「類似点」

上記で見たように重要性こそ違えど、国内マーケット攻略は両業界共通の課題であり、マーケットが成熟化している以上、量から質への転換というアプローチも共通のものになるだろう。

食品のこれまでのマーケティング手法を見てみると、他の製造業に比べ加工が簡単である商品が多く、商品の差別化が難しかったため、販促費・広告宣伝費に多額の費用を投入するというケースが多かった。実際、広告業界の最大顧客は食品業界となっている。

しかし、昨今になって食品業界ではこれまでのような消費者の感受性に訴える手法ではなく、商品の機能性を訴求する手法が多く取られるようになってきた。

そのような機能性を押し出した商品には、国の厳しい審査を通過して健康促進などの効果を表示することを許可された特定保険用食品等が該当する。キシリトールガムなどはその代表的なものである。「ストレス社会で闘う毎日に」と銘打って江崎グリコから発売されヒットしているチョコレート「GABA」 なども、機能性を押し出した商品といえるだろう。

同じ国内市場における量から質への転換でも、自動車業界の場合は逆に、これまでの機能性を訴求する手法ではなく消費者の感受性に訴える手法が目に付くようになっている。その代表といえるのがトヨタが開始したレクサスであろう。商品の機能性も勿論向上しているが、それ以上に「おもてなし」が謳われ、消費者の感受性に訴えるものとなっている。

また、安全への取り組みが重要視されているのも両業界の類似点ということができるだろう。

自動車業界でリコール隠しが取りざたされる一方で、食品業界では食品表示偽装問題や BSE 問題の発生により、食の安全が大きな関心事となり、食品の履歴を明確に追跡、遡及できるトレーサビリティの仕組みの構築が義務付けられることとなった。

では、リコール問題は別として、自動車業界が現在行っている安全への取り組みが食品業界同様、トレーサビリティで解決するかといえば、そういうわけではない。

というのも、消費者が商品を使用する段階(食品であれば「食べる」「飲む」であり、自動車であれば「運転する」)を比較して、食べるという行為には本来、危険がないが、運転するという行為の場合は、どんなに商品の完成度が高くてもその行為自体が危険性を内在するからである。

つまり、自動車業界においては食品業界同様、業界内部の管理を徹底することによる商品自体の安全性の確保は勿論のこととして、消費者が使用するときを見据えた安全性の確保が求められているということになる。

【自動車業界への示唆】

先ほど、商品の機能性を訴求し始めた食品業界と消費者の感受性に訴え始めた自動車業界の話を述べた。自動車は機能性が非常に重視される商品であるため、これまで特に日本車メーカーは機能性を消費者に対して、訴求することが多かったが、今後日本を含む成熟市場を攻略する上では、感受性に訴えることで市場を深堀できる可能性がおおいにあるものと思われる。

例えば NRP 以降の日産のマーケティング手法も明らかにそういった方向にシフトしているし、多くの成熟していた消費者はその変化を新鮮に受け止めている。

また、これまでの食品業界の発展過程を見ると、消費者のライフスタイルの変遷にあわせて、消費者の代わりに何かをやってあげるというアプローチで市場を拡大、深堀してきているケースが多く見られる。

例えば冷凍食品は解凍すればいいレベルまで消費者の代わりに調理をやってあげているものだし、外食チェーンは調理した上に食べる場所まで提供してあげているわけである。更に特定保険用食品などは食べることと医療を結びつけて、一種の健康管理までやってあげるものである。

自動車業界でも SS での洗車サービス、ディーラーでの登録代行、カーセンサーでの中古車探しなど様々な「やってあげる」系サービスは存在するが、まだまだ消費者にとって面倒なことをやってあげるという観点からのビジネスチャンスは流通領域で出てくるものと思われる。

一方で、上記とは逆に面倒な作業自体を楽しくさせるという DIY (Do It Yourself)的なアプローチも考えられ、成熟市場を深堀するには、様々な切り口から発想することが大切ということになるだろう。

<山田 将生>

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